第三十四話 爆発物、初めてのシノギ。
大砲の炸薬になるという稀有な経験をした後、赤い錆の星へと落ちていきましたが、爆発はいたしませんでした。
これはよい幸先だと思いまして、早速新天地へ一歩足を踏み出しましたら、見知らぬ殿方がわたしを口説いてきたのでございます。
この身はマフィアに捧げる身であるマフィアエルフとしては恋にうつつを抜かすことは許されないのですが、断ると、殿方は錆びたナイフを取り出して、わたくしを横道に入った、さらに奥の横道へと引っぱっていきました。
そこには殿方のお仲間がいらしたのですが、皆さま、とても特徴的な髪形をしてらして、この世界の理髪店はとても繁盛していそうなので、マフィアエルフとしてはミツルさまに教えてもらったギルド結成のノウハウで理髪店を束ねて、ピンハネをする道を探すべきだと心に思ったのでございます(ピンハネ、という品のない言葉を選んだことをどうか責めないでくださいまし。マフィアエルフの道は決して楽なものではないのでございます)。
「見ろよ、上物のタマだろ?」
「おいおい、どこでひっかけたんだ?」
わたくしは雷管式の六連発銃を二丁持っていましたから、これを使ってもよかったのでしょうが、それよりもこの殿方の個性的な髪形はどこで整えてくれるのかおたずねしたく思っておりました。ところが、殿方のひとりが行き止まりにたむろする殿方のほうへわたくしを押し出しますと、道の凹凸につま先が引っかかってしまい、わたくしは転んでしまったのでございます。
起き上がると、殿方たちも、殿方たちの上にそびえていた建物も消えていました。ごうごうと燃える爆風は丸く固まって茶に霞んだ天空へと飛んでいきます。
わたくしの周囲五十メートルにはぺんぺん草も生えていない丸焦げの土地ができていて、そのクレーターの縁に集まった人びとはすっかり顔を蒼くされていました。
ここでクルス・ファミリーの恐ろしさを売るべきか、友好的な雰囲気を崩さず理髪店ギルドの組織化を目指すべきか、どちらがマフィアエルフとして正しい道なのか、わたくし非常に迷いましてございます。
とりあえずヨシュアさまとリサークさまを探して、今後のことは考えましょうと思い、わたくしは歩き始めたのですが、わたくしが転んだ後は皆さま、なかなか近寄ることができません。
地元の官憲ともトラブルになるかと思うのですが、遠巻きにわたしを指差すだけで逮捕のための具体的な措置を取ろうともしないのでございます。
不逮捕特権と申しましょうか、警吏が逮捕しに来ない状況、そういうものはよきマフィアエルフにとってはエルフの森に百年に一度だけ咲くルメロワの花のように貴重なもので――ではなくて、ええと、ブロンクスの密造ビール利権くらいに貴重なものなのです。
ふう。よきマフィアエルフは言葉もまたマフィアである必要があるのです。分かりまして?
さて、わたくしは人と話すという一見簡単なようでいて、極めんと欲すればどこまでも深い問題に課題を有しておりました。人びとはわたくしに近づきたがらないのでございます。
ただし、この都は大きな都でした。
最初のころこそ、皆さま顔を蒼くしておられましたが、都会というものは時間と状況の変化が目まぐるしくて、マフィアエルフのささやかな転倒もまた市街の喧騒のなかで忘れ去られるものでございます。
その後、三回ほど転びましたが、実際、皆さまとても気安く話しかけてくださるようになりました。
しばらくミツルさまも納得する、なにかよいシノギはないかと考えておりましたが、そのときわたしの頭上を騒々しい鉄の馬車の群れが通り過ぎていったのでございます。
それは道の上につくられた高架線という鉄の道で、皆さまが魔導列車と呼ぶものでした。
わたくし、鉄の階段を昇って、その駅亭に入ろうとすると、立派な帽子をかぶった駅員さんに切符の購入を求められました。
ミツルさまはもしお金がないときにお金を使わないといけないとき、マフィアエルフがとるべき道を以前教えてくださったことがありました。
わたくしは銃を抜いて一発発射して、駅員さんの帽子を撃ち飛ばし、その後、ぴたりと額を狙って、できるだけわたくしにいい印象を抱いていただけるように微笑みました。
ミツルさまはわたくしのようなエルフの場合は変に凄むよりも、エルフらしく微笑んだほうがずっとサイコだとおっしゃっておりました。
サイコの意味がよくわかりませんでしたが、たぶん最古、つまり昔から幾度も繰り返された伝統とおっしゃりたかったのでしょう。
実際、わたくしはその道の上の道、鉄道線路なるものが敷かれた場所に悠々と入ることができたのです。
わたくしが考えたのはこの魔導列車なるものにはたくさんの労働者の方がいて、それを束ねるギルドがあると思ったのです。
ギルドのあるところには年金基金があって、その違法融資に絡むことはラケッティアリングのなかでも特に位の高いものであると、それはもう熱心におっしゃられました。
魔導列車が到着すると、その車両に乗りましたが、思いのほか、混んでいて、驚きを禁じ得ませんでした。
乗客のみなさんはいろいろな方がいらっしゃって、貴族らしき殿方もいれば、自分のお腹の上に籠を置き、なかでトカゲ同士を戦わせて小さな賭けを開く太った殿方もいらっしゃいました。
皆さま、このトカゲを戦わせる賭けに熱中していて、盛んにお金がやりとりされていました。
なかなか繁盛しているようで乗客の皆さんは降りる場所を通り過ぎても、トカゲにお金を賭けておられました。
ところが、お金を損した人が、これはイカサマだと大声で叫んで太った殿方をポカポカ殴って、賭けたお金が乗っていた錫の皿からお金を全部取り上げてしまったのです。
そこでわたくしは銃を抜いて、胡桃材の握りで、その男の方の頭を思いきり殴りました。
とても大きな男の方で、その方の頭を叩くには小さく跳ぶ必要がありましたが、二度、こちらの打撃が当たると男はその場に膝から崩れて、胎児のように丸まって倒れたのでございます。
お金を取り返して、トカゲ賭博の胴元さんにお返しするとその硬貨のうち一番きらきら光る硬貨を何枚かわたくしにお渡ししたのでございます。
まさにこれはみかじめ料でございました。
つまり、わたくしは賭場の保護料を得たのでございます。
これがわたくしの、そして願わくばクルス・ファミリーで最初のこの都でのラケッティアリングでありますようにと、たったいまもらった貨幣を胸にきゅっと抱いて祈ったのです。
その後、魔導列車についての観察はもう十分に思えたので、土地勘はないものの駅と呼ばれるもののひとつで列車を降りますと、下の道に通じる階段の扉で駅員さんが切符を拝見と言いました。
先ほどはお金がなかったのでああしたことをいたしましたが、いまのウェティアはお金持ちでございます。
そこで先ほどのお金を払ったのですが、駅員さんからこのお金はこの都で流通しているお金のうち、もっとも少額なものだと教えられました。
わたくしもまだまだでございます。
こうして、また無一文になりましたわたくしですが、マフィアエルフたるもの銃の薬室に弾丸が装填されているあいだは決してあきらめないものでございます。
わたくしはこの都でのさらなるラケッティアリングをするべく励もうと思いますが、そのとき排水溝の丸い蓋がちょっと上に動いて――カラヴァルヴァではこうした蓋は人の顔を象っていてぽかりと開いた口が雨水を無尽蔵に飲み込んだものでございます――、そこからわたくしを覗く方がいらしたので、近づいてみると、ヨシュアさまとリサークさまでしたのです。
これがこの帝都の犯罪組織であるレジスタンスにわたくしが参加することになったいきさつでございます。




