第二十一話 ラケッティア、お前のための脚立やぞ。
参加したのはおれ、ジャック、イスラント、ロタロタ。
場所はカッターナイフがあった巨岩の入り口でテラスみたいになっているところだ。
ギル・ローはグリホルツヴァイに痛くない入れ墨をしてくれと交渉中。
シップとカルリエドにはこれからやることを見せたくないので外した。
イスラントも泡を吹くんじゃないかと思って外そうとしたのだけど、思いっきり、フン、と言われ、
「そのくらい平気だ」
と、のたもうたので、まあ、参加することになった。
平気だ、と言った後、すごく小さな声でたぶんと言ったのをおれは聞き逃さなかったけど。
あ、そうそう。おれ、耳はいいんだよ。
マフィアってドン・コルレオーネみたいにしゃがれ声でしゃべるから、もし、目の前でドンたちが話しても(まあ、そんなこと絶対にないと思うけど)、それがきけるように、ブルーベリーを毎日食べたから。
あれ、ブルーベリーは目が良くなるんだっけ?
「まあ、いいや」
さて、今回の拷問の主役はルハミさまだ。
帝国がどんな戦時国際法条約を批准してるか知らないが、まあ、最高幹部クラスの人間がこっちをなめてかかるくらいの手厚い条約を結んでいると見た。
「貴様ら! こんなことしてタダで済むと思っているのか!」
ルハミさまは現在大の字になって仰向けになっている。
手足に縄を結んで、そいつを伸ばしてでかい岩に結びつけたから、大の字から動くことができない。
だが、動かすことはできなくとも、少しばかし持ち上げることはできる。
で、やつの手足を少し持ち上げて、その下に煉瓦をセットする。
やつの手足は斜めに持ち上げる。
「無様なのはお好みじゃないって言ってたな。そういう顔してるよ、色男くん。でもね、正直、こっちはお前の好みなんざ知ったこっちゃねえんだ。おれら、マフィアだから」
「マフィア? なんだ、それは?」
「死んだマハトさまも同じことをたずねたが、こたえにたどり着くことはできなかった。でも、お前は違う。マフィアというのがどんなものなのか、骨身に染みて分かるはずだ」
ジャックが今回の拷問に欠かせないものを持ってきた。
万力じゃないよ。そこまで高難易度に挑むつもりはないから。
「ほら、あれを見ろ。脚立だ。この星の人間は高いところにあるものを取るとき、空飛ぶから脚立とか梯子って概念がないんだ。あの脚立はこの星で初めて、お前のためだけにわざわざつくったんだぞ」
「オーナー。こんな感じか?」
ジャックはルハミさまの左腕のそばで脚立を開き、そのてっぺんに立った。
「そうそう。本当はそんなふうに脚立の上に立ってはいけないのだが、おれたちマフィアだからな。ルール破りなんざ、しょっちゅうよ。でだ、ルハミさま。まずはお前らが何を企んでるのか全部ゲロってもらおうか。素直にゲロれば命までは取らないでおいてやる」
「誰が話すか。わたしは四天魔将のひとり、ルハネだぞ。貴様らなぞ――」
「ジャック、ジャンプ」
ジャックの両足はルハネの持ち上がった左腕の上に着地してポキッ!とポッキーを折るような音がした。
ぎゃあああああああ!
「ああ、そっか。ポキッと折れるからポッキーなんだな。いま、気づいたわ」
ありえない角度に曲がった左腕を見ながら、自信作のヴェルデ・スパゲッティをくるくるまわして食べる。
「うわ、メチャうまい。っていうか、食えちゃったよ。スパゲッティ。おれも成長したな」
「貴様ら! こんなことして、タダで――」
「それはさっききいた。ジャック、ジャンプ」
今度は右腕へ。ポキッ!
ぎゃあああああああ!
「分かった。意地悪はやめよう。もう、お前らが何をたくらんでるのかはだいたいわかってる。あのカッターナイフもどきはエネルギーの塊だ。そして、フレイアともつながっている。そのエネルギーでフレイアを復活させ、〈錆の星〉なんてふざけた名前の星を捨てて、古の女神の星へ集団移住を考えてるんだろ? 要するにお前らはデベロッパーなわけだ。そこで知りたいんだがな。〈樹の星〉と〈風の星〉、これ以外にカッターナイフがある星を教えてもらおう。それでカンベンしてやる」
「き、き、貴様らのしていることは戦争犯罪だぞ!」
「戦争犯罪? かわいいこと言ってくれるじゃん。おれが今やってるのはただの犯・罪。戦争は関係ない。さあ、素直になれよ。今度は膝だぞ。このまま話さなかったら、翼人に引き渡す。あの本物の鷲みたいな手を見ろ。あれでハラワタ引きずり出されるなんて、ぞっとするだろ?」
「くたばれ!」
「このクソ野郎、信じられるか? 両腕折られて、言う言葉がくたばれかよ。ジャック、ジャンプ」
ポキッ!
ぎゃああああああ!
スパゲッティをもぐもぐ食べながらたずねる。
「なあ、イスラント、顔色悪いが大丈夫か?」
「ああ――複雑骨折さえしなければ」
「だとさ。最後の右膝、行ってみるか?」
「み、水」
「〈水の星〉か?」
ルハミさまは何度もうなずく。
「それだけじゃないだろ? 四天魔将って言ってたもんな。もうひとつあるはずだ」
「〈砂の星〉だ……だから、もう、やめろ」
「よし、ここまで。ジャック、脚立もって帰ろう。ほら、イスラントも」
「お、おい、待て。わたしを解放しないのか?」
「おれ、解放するって言ったっけ?」
「言ってないな」
「話が違う!」
「違うもなにも、そもそもその話がない。これ気休めになるか分からんが、たとえ解放すると約束してたとしても守らなかったよ、そんな約束。マフィアの掟はウソをつくなと言っているが、それはマフィア同士で話す場合のこと、あんた、マフィアじゃないだろ」
まあ、これでルハミさまもマフィアが何なのか知ったわけだ。
その後、ロタロタが指笛を吹き、何十という翼人がその鋭い爪でルハミさまに襲いかかった。
さすがに見なかったし、パスタも食べなかったよ?
さすがにそこまではできないよ。
――†――†――†――
「そうですか。〈水の星〉ですか」
長老に戦勝報告を兼ねて、〈水の星〉についてたずねてみた。
「文字通りです。星の全てが海に覆われています」
「ということは戦場は海のなかか」
「海のなかへ潜るための道具をつくった賢者の話をきいたことがありますから、彼に会ってみるのがいいでしょう」
「その人、何人なの?」
「樹人だときいています」
「すげー、不安になってきた。そうだ。このモロトフカクテルを海のポイポイ投げ込んでやろう。もし、敵が潜水していたら、これで潰せる」
「どうでしょうか? きっと帝国は海底に巨大な〈メガリス〉を築いている可能性があります」
「どうしたもんかなあ。イスラント?」
「なぜ、おれにきく?」
「氷も海も同じ水属性じゃんか。なあ、ジャック」
「そうだな。イース。何かいい知恵はないのか?」
「あるわけがないだろう。そもそも、おれがお前たちに手を貸す前提で話をするな」
「なんだよ、まだツンデレなのか?」
「お前をこの手で殺すこと、おれはあきらめていないからな」
長老はにこりと笑うと、あなたたちの旅に守護神と風の加護があらんことを、と指で印字を切ってくれた。




