第七話 帝国、ふたりの将軍。
「マハトさま。全ての樹人を〈装置〉に組み込みました」
報告する主任科学者に背を向けたまま、密林の海に穿った鉄パイプと機械塔からなる工業施設を司令部から見下す。
こうしているあいだにも樹人たちが輸送車から引きずられ、〈装置〉へと連れていかれる。
「出力はどうだ?」
「対予定比率125%です」
「フン。あの無気力で何も生み出さない樹人たちも新生フレイア帝国の礎になれるのだ。たとえ枯れても本望だろう。それよりも〈剣〉は?」
「そちらはまだ、時間がかかるかと――どうやらドリアードは心臓だけではないようです」
「星の守護を司るものの心臓だ。それだけでも十分な力があるはずだ。急いで、〈剣〉の力を解放させるのだ。皇帝陛下は報告を心待ちにしている。もし、失敗すれば――」
マハトの手が柄に触れるや、主任科学者のすぐ右にいた助手の首が鮮血とともに宙へと飛んだ。
「ヒッ」
「こんなものではすまぬ。それが分かったら、すぐに〈剣〉を作動させろ。樹人どもの出力は200%まで上げるのだ」
「し、しかし、そこまで負荷をかけますと、樹人どもがもたぬのでは――」
すると今度は左にいた助手が袈裟懸けに斬られ、上半身が滑り落ちた。
「わ、わかりました、すぐに取りかかります!」
親衛隊員が入室し、死体と血痕をきれいに拭い去る。
残ったのは血のかなくささ。
新生フレイア帝国がこの星界を支配すれば、どれだけの血が流れるのか。
それを考えただけでマハトの顔は陶酔に醜く歪んだ。
「おやおや。そこにいるのはマハトくんではありませんか?」
鋳鉄の排気口から蒸気が吹き出して、扉が自動で開く。
マハトと同年齢の、エメラルド色の長い髪に端整な顔立ちの男が剣を携えてやってくる。
小札と板金を組み合わせた体の線に合った鎧がその胴を守り、裾を剣十字に切ったマントが血の香りにざわりと揺らめく。
その自信のある態度は慇懃な言動と違って、彼が力量や官位でマハトと同等であることを示している。
この優男風の将軍を見ると、マハトはあからさまに嫌悪の情を出した。
「ルハミか。何のようだ? 貴様の受け持つ〈メガリス〉は〈風の星〉だろうが」
「いえいえ、マハトくんがどれだけ見事に〈メガリス〉を支配しているのか見てみたくてやってきたのですよ」
マハトの身が少し沈み、次の瞬間にはマハトの剛剣とルハミの鋭剣がぶつかり合って火花が散った。その色は紫と緑。そのものの命がもつ気迫が剣閃に宿ったのだろう。
「おお、怖い、怖い。死んだらどうするんです?」
「用がないなら帰れ。からかいに来たのなら死に場所くらい用意してやる」
「機嫌が悪いようですね」
「機嫌がよかろうが悪かろうがお前には会いたくない」
「そうですか。でも、わたしとしても気になることがありましてね。ほら、墜落した船の話ですよ。フレイアに向かう途中に空中戦艦〈エアロ・ツィタデル〉が撃墜したらしいのですが、それがこの〈樹の星〉に不時着したらしいのですよ。ボクは胸騒ぎがしましてね。その不時着した連中が何か騒ぎを起こして、マハトくんの手腕が試されるようなことが起こるのではないか、いや、実際、その手腕が大したことないことが明らかになって皇帝陛下のご不興を――」
ガキンッ!
またふたりの剣が火花を散らした。
「……言っておきますが、三度目はありませんからね」
「フン」
マハトとルハミは剣を納めた。
「墜落してきた異邦者どものことは報告に入っている。お前が心配するようなことではない」
「そーですか。まあ、それなら、こちらもこれ以上はいいませんよ。あ、それと――警備をもっと強化したほうがいいですよ。ここの守備にあたっているあなたの部下、全員、簡単に首を掻けました。すぐ後ろに立っているのにまったく気づかないものだから、殺すとき、笑いを堪えるのが大変でしたよ」
そういって、ルハミは喉を掻き切られた帝国兵が五十体以上転がる廊下を音高く軍靴をひびかせながら、上機嫌に鼻歌を歌い、去っていった。
通信用のクリスタルに触れて、警備隊長と副官を呼び出すと、マハトは恥をかかされたペナルティとして隊長を一太刀で斬り捨て、すぐ横に立っている副官を新しい警備隊長に命じた。




