第十八話 ラケッティア、ジョッキ団。
〈蜜〉の大瓶が五本、〈石鹸〉の塊が十三。
全部、ボン・クラのヤク中ハウスから分捕ったものだ。
これらのヤクをテーブルに置き、そのまわりに銀貨と金貨を散らす。
そして、帳簿らしき本を開いたまま置いて、短剣を二本配置、火酒の壜を二本とグラスを置くと、なんかこう、とても良い。
生け花のラケッティアリング版とでもいうのだろうか。
生けラケッティアリング?
まあ、舞台装置っぽくてかっこいい。ヤクはまったくのクソだが、犯罪オブジェとして観賞用に限定するなら、それなりの意味があることも認めねばならない。
うーん。おれってば小道具係の才能があるのかもしれない。
この二日のあいだ、カンパリノでは大きな変化があった。
おれたちのヤク中征伐の噂が広まって、いつの間にか、おれたちは人びとから〈ジョッキ団〉と呼ばれるようになった。
ひねりのないネーミングだが、むしろこのくらい短いほうがさっぱりしている。
ききわけのない子どもにお母さんは「あんまりわがままばっかり言ってると、ジョッキ団が来るよ」と叱りつけ、ヤク中たちは教会に殺到し、ジョッキ団除けのまじないか、聖なるお守りをくれと司祭に迫り、司祭は何の価値もない祝福でヤク中からカネをまき上げている。
さらにジョッキ団を騙る偽者どももあらわれるようになった。
ヤク中だけでなく、普通の商店なども襲って、やりたい放題しているらしい。
この手の偽者どもを見分けるコツは簡単だ。ジョッキを見ればいい。
こいつら偽者のジョッキは木でできたジョッキに鉄の箍をはめただけの代物だから、人間の頭を思いっきり二回くらいぶん殴れば、それで壊れてしまう。
あるいは白鑞のジョッキを使う連中もいるが、華やか過ぎるし、簡単にへこみすぎる。
ジョッキ団が使うのは錫製の蓋つきジョッキのみ。
これは固すぎず柔らかすぎず、人の頭を殴って壊れることはないが、いい塩梅にへこんでくれる。
わがジョッキ団歴戦の強者たちのジョッキはベコベコにへこんでいるが、そのへこみひとつひとつに更生させたヤク中の記憶が染みついているのだ。
さて、ジョッキ団の本部、ぐちゃぐちゃになったクルス反物商店にはジョッキ団入団を希望する連中が後を絶たない。
いろいろなやつらがいる。
失業中の労働者。亡命中の政治家。雇われ剣士。資格を取り消された代言人。ペテン師。博奕打ち。暴力を礼賛する詩人。才能のない三流おしゃれ探偵。エトセトラエトセトラ。
いずれも人生に詰まっていて、殴って奪って尊敬されたいというカス・ムーヴメントの持ち主だが、この手のカスは放っておいてもろくなことをしないので、いっそジョッキ団に迎え入れて根性を叩きなおしたほうが世のため人のためだ。
ジョッキ団はクルス・ファミリーの下部組織として、ジョッキマイスターが束ねている。
この場合、ジョッキマイスターはディアナだ。
いまいるメンツのなかで、こう、マイスター!といった感じなのはディアナだけだし、実際、ディアナのジョッキさばきは惚れ惚れするほどだ。
ディアナ本人は騎士であることをやめ、エロ絵師として第二の人生を送っているのだが、本人がどう思おうが、その外見と挙措動作は凛とした女騎士そのものだ。
そんなディアナをジョッキマイスターに任命し、ジョッキ団を騎士団並みにきつい組織に作り変えれば、真人間にはなれずとも、尊敬という言葉の持つ意味を考え直すくらいのことはするだろう。
クルス・ファミリーの傘下に入ることを了承した衣服工場やスロットマシンを警備するためにジョッキ団員をあちこち配置していると、エリゼーウ判事がやってきた。
テーブルの上の犯罪レイアウトをちらりと見た判事はボン・クラが会いたがっていると伝えてきた。
「一対一で。今後の縄張りと共存について話したいそうだ。それに〈蜜〉と〈石鹸〉の返還」
「場所は?」
「街外れの廃墟の教会だ」
「職務から離れて考えてほしいんだけど、本当にボン・クラがひとりで来ると思う?」
「いや」
「それがボン・クラのボンクラたる由縁だ。分かった。ヤク持ってひとりで行くと伝えてくれ。ところで、職務から離れて考えてほしいんだけど、おれ本人がひとりで行くと思う?」
エリゼーウ判事はため息をついて、首をふった。




