第十五話 ラケッティア、語感の問題。
デュメイセンの工場には六十人のお針子がリボンをつくっていて、ふたりの帳簿係、それに用心棒がふたりいたが、誰も何も見ていないと言っているそうだ。
目撃証言だけをつなげれば、デュメイセンは突然人生に嫌気がさし、自分で自分の頭と胸にナイフを刺したことになる。
ちなみにその手の業界では相手を確実に殺すための撃ち方にモザンビーク・ドリルというのがあって、それがまさに頭に一発、胸に二発撃ち込むというものなのだ。
なんでモザンビークなのかは知らん。なんかあったんだろ。内戦とかハイジャックとか。
ジルヴァにこのことを話したら、自分の投擲暗殺術の名前にすると言った。
一見無表情だが、見れば、左足の爪先で地面をくりくりしている。
かなり喜んでいる証拠だ。
いいかね、よい子のパンダのみんな。
無表情美少女でも、そしてその少女がいつも顔をマスクで隠しているとしても、その感情を割り出す手は必ずあるのだ。
スターリングラードの狙撃手みたいに注意深く観察するのだ。
で、話を戻すが、どうもモザンビークという言葉の語感がこの世界ではすごくかっこいいらしい。
「じゃあ、トンブクトゥは?」
「おいしそう……」
「墾田永年私財法」
「嫌い……」
「ガウチョ」
「かっこいい……」
ボロボロになったクルス反物商店に戻ると、人だかりができていた。
誰か殺したのかなと思い、人混みを割って入ると、何か世界の法則が乱れたのか、ディアナがガラクタを並べて集まった人びとに売っていた。
ひしゃげた鉄の枠とか、焦げた綿あめみたいな布屑とか、ポーションを入れるための空き壜とか、青銅のドアノブとか、穴が開き取っ手がもげた真四角の鍋とか、本当にガラクタばかりなのだが、ディアナはそれらを護身用の武器と称していた。
まさか、ただのガラクタだろうと普通は思うが、凛とした女騎士が剣を立てて、柄に両手を重ねて座り、真面目に説明すれば、本当に護身用かもと思って売れるらしい。
ちょっと売り方に耳を澄ませてみたが――、
「この空き壜でどうやって身を守るんだよ? 壜でどつくのか?」
「そんなことをしたら壜が割れて、お前も手を怪我するぞ。この壜は、そうだな、例えば、剣を持って真正面から襲いかかってきた敵をこの壜のなかに閉じ込めることでお前の身を守る」
「この壜は魔法の壜なのか?」
「さっきまで安物のポーションが入っていたことを除けば、普通のガラス壜だ」
「そんなただのちっぽけな壜がどうやって人間をこのなかに閉じ込めるんだよ?」
「実演して見せよう。そこの殺し屋、そうだ。お前だ。ボー・クラースに雇われたのだろう? 機会をやるから、わたしを殺しに来い。本気でな」
冷やかし客が左右に退くと、大きなナイフを持った殺し屋がひるみもせず、うっすら笑みすら浮かべていた。
ディアナは剣を外して、地面に置き、ガラス壜だけを手に持って、殺し屋と相対する。
見物人たちはみな、どうやってディアナがこの壜のなかに殺し屋を閉じ込めるのか、興味津々である。
殺し屋が低く構えて、影のように静かに走る。
間合いを詰め、ナイフの切っ先が上を向き、ディアナの喉を狙う準備をしたところで、ディアナは殺し屋の顔面に壜を投げつけた。
モンスターボールみたいになるのかと思ったが、壜は普通に殺し屋の顔面で砕けた。
ひるんで動きが止まったところで革手袋に籠手をつけたディアナの渾身の左フックが相手の横っ面を捉え、殺し屋はコマみたいに回転しながら吹っ飛び、向かいの建物の二階のバルコニーに突っ込んだ。
みな唖然としたが、最初に質問していた男が「壜に閉じ込めるって話はどうしたんだよ?」と言うと、ディアナはそんなことはひと言も言っていない、あんな小さな壜に人間を閉じ込められると思うのはどうかしてるから、少し休んだほうがいい、と、しれっと言ってのけた。
反対側の人混みではクレオが義手に仕込んだショットガンで胸を撃たれ、生き残ったら、誰でも金貨五百枚をプレゼントしようと、かなり危ない商売をしていた。
うーむ、いかん。
やることがなくなって、ファミリーの構成員たちの精神が汚染されている。
なにか、こうストレスを解消することが必要だ。
……。
出入りでもすっか。




