第十一話 ラケッティア、おしゃれカルテル。
二階の大部屋に集まったおしゃれ探偵たちはみな大使館や爵位持ちに雇われたトップクラスの連中だった。
袖口のレースのデザインやサテンに施される刺繍の柄、香水は利き手だけにするべきか両手にするべきかなどなどの細かいおしゃれ情報を針子の作業場や生地商の店、ときには売春宿や違法な賭場まで足を運び、ちょっと危険な伊達男たちの最新流行を目いっぱい吸収するおしゃれスポンジたちだが、妙なことにおしゃれ探偵自身はおしゃれに気を遣っていない。
安っぽいチョッキに膝をチェック柄の毛織物でツギハギした農夫のズボン、頭ではツバの帽子のクラウンがぐんにゃり曲がって、耳のそばまで垂れている。
おしゃれ探偵たちの仕事は自分がおしゃれをすることではなく、他人におしゃれをさせることだ。
クライアントが一番最初に一番素敵なおしゃれをするという原則を守れば、まあ、おしゃれ探偵の格好がこうなるのも納得は行く。
さて、クルス・ファミリーの名前を出して、おしゃれ探偵たちを集めたわけだが、みな一様に緊張していた。
そもそもここに集まった探偵たちは商売敵であり、お互いの仕事を妨害して険悪な仲だ。
だが、それ以上になぜ自分たちがクルス・ファミリーに呼び出されたのか、それが分からず戸惑っているやつらがいた。
最近、クルス・ファミリーがカンパニーと抗争状態にあることを思い出し、自分がカンパニーのために仕事をしたことがあったかどうかを思い出そうとするものもいれば、朝方、家を出るとき、妻子に涙ながらに「行ってはいけない」とすがりつかれたが、それというのもこれは罠で、カンパリノの名だたるおしゃれ探偵たちが集まり、通路を歩くと、通路の入り口と出口が突然閉まり、頭上の回廊から火縄銃を手にした兵士たちがあらわれ、隠れる場所がないおしゃれ探偵たちはなすすべもなく蜂の巣にされるというゴッドファーザー的な一場面が待っているに違いないと思われたからだ。
そんなこんなで集まったおしゃれ探偵総勢三十三名。
その目は最初はきょろきょろしていた。部屋のどこかに殺し屋軍団が隠れていないか探しているらしい。
で、次におれのファッション・チェックだ。
リネンの白い上着とズボンにチベサという草で編んだ最高級のパナマ帽みたいな帽子を手でもてあそび、深い緑の花柄のネクタイをしている。
この世界の人間はネクタイをクラヴァットと呼び、それもかなり大きめなのだが、おれはぎゃあぎゃあ無理を言って、仕立屋に1920年代風のネクタイをつくらせている。
しかし、ネクタイはあまり評価されない、まあ、時代がおれに追いついていないだけだ。
それにリネン。がさっとした着心地は癖になる。
まさに大正時代の避暑地で着て歩くための服だ。
「まず集まったことに感謝を。これから話すのはいい儲け話だ」
儲け話、ときいても、反応がない。
もっと具体的なところから詰めていかないと。
「このカンパリノはファッションで成り立っている。そして、その最新の流行をまとめるのがあんたたちおしゃれ探偵の仕事だ。あんたたちはみんな高貴な血筋の顧客を持っていて、そいつらが世界で最初にカンパリノの流行をつかめとせっつく。この集まってくれたなかには、お互いの仕事の妨害に血道をあげて、殺し合い一歩手前までいっているものもいると思う。だが、そもそも、妨害なんて必要があるのか? 商売敵の情報が発信されないようにするコストは? 伝書鳩を狩る鷹の賃料はいくらだ? 発信系も魔法使いをパンクさせるための対抗魔法使いにはいくら払う? セヴェリノで一番はやく走る馬を借りるためにあんたたちはいくら払った? こうしたものはみんな無駄な出費だ。払う必要のないものだ」
「ペナルティがある」
齢のいったおしゃれ探偵が言った。
「わしらが一番に情報を届けられないと罰金を支払われる」
「なるほど。なるほど。それは大変だ。ところで、どうしておしゃれ探偵はギルドをつくらない?」
「おれたちは独立した事業者なんだ」
「その独立のために支払う対価を考えて、もう一度、その独立に価値があるのか検討してみてくれ。いいか、ギルドをつくる利点は様々だ。まず、顧客に渡す情報は同時渡しにする。抜け駆けはしない。もちろん貴族たちはペナルティを課そうとしてくるだろう。だが、そんなものは無視してしまえばいい」
「そんなことになったら、顧客を失う」
「いや、失わない。なぜなら、その貴族は新しいおしゃれ探偵を雇おうと腕利きを探す。そして、ここにいる三十三人の誰かに話を持ちかけるが、そいつは断る。それがギルドの掟だ。他のおしゃれ探偵の顧客の引き抜きには一切応じない。結局、顧客は元のおしゃれ探偵に戻るように言うしかなくなる。こうした現象が数回続いたら、おしゃれ探偵ギルドの名義で声明文を出す。『我々は一切のペナルティを支払うことはない』と。これが本物の独立だ。あんたたちはそれぞれの技量で集めた情報を独占し、顧客を自分に縛りつける」
「だが、顧客が一番に固執したら?」
「そのときはこの三十三人の持ち回りで情報の一番乗りを変えていけばいい。誰もがいつかは一番だ。大切なのはこのカルテルを維持し、顧客や新参者の増長を許さない強い組織につくることだ。今日、決めろとは言わない。まあ、この話を持ち帰って検討してみてくれ」
「このギルドにはあんたたちクルス・ファミリーが関わるのか?」
「後ろ盾くらいにはなるつもりだ」
「あんたたちの取り分は?」
「鷹匠を雇ったり、ペナルティを払ったりするよりは安い」
「ボー・クラースはどうなる?」
ボー・クラース。
この街にもともといた〈商会〉だ。
賭場や売春の他に、鷹とか妨害魔法とかのブローカーみたいなことをして稼いでいる。
「シノギを潰すのだから黙っていないだろうが、その損失はこっちで補填する。あんたたちはカルテル結成のことだけ考えてくれればいい」
すると、そこに集まったおしゃれ探偵全員が、おれが百メートルの高さの崖から紐なしバンジーをすると宣言したみたいな目で見てきた。
ボー・クラース。
どんなやつか知らないが、面白いことになりそうだ。




