第十三話 アサシン、人見知りなもので。
次の日、クレオは帰ってきて久しぶりにカウンターに立ち、アレクサンダーをつくっているジャックにダンジョンについてきいてみた。
「かなり手強い」
「やっぱりそうかあ。ククク」
「ダンジョンに興味があるのか?」
「標的が地下四階にいるザンガ団って連中の首領でね」
「そいつの首を求めるクエストはいくつも掲示板にある」
「ふーん。じゃあ、手あたり次第に勧誘して三十人くらいのパーティをつくれば――」
「それは禁じられてる。パーティの人数は四人までだ。百人でパーティを組んだらダンジョンのあらゆる宝と素材が狩り尽くされるからな。あれは資源管理の難しい商売なんだ」
「僕らは犯罪組織じゃなかったかな?」
「法律の問題じゃない。紳士協定だ」
「じゃあ、破れない。犯罪組織だからこそ筋を通さないとねえ」
「仲間を募るなら、冒険者ギルドのまわりの酒場をまわればいい」
「僕は人見知りするんだ。知ってる顔で固めたいんだけどな」
「おれは無理だ」
「うん。知ってる。トキマルはいるかな?」
「まだ寝てるんじゃないのか?」
寝ていなかった。
薄いカーテンで光量を調整し、口に折った紙をくわえ打ち粉を忍び刀に打っていた。
「今、話せるかい?」
首をふり、刀の手入れを続けた。
しばらく待っていると、打ち粉と桐油を拭い、刀身を置き、深々と礼をした。
「で、何の用?」
「僕と一緒にダンジョンに行かないかい?」
「冗談、と言うところだけど運がいい。ちょうどこいつの切れ味を試したいと思ってたところ。新身を手に入れたら斬ってみないと本当の良し悪しは分からないし、試してみたい忍術もある」
「忍術ってのはどう思いつくんだい?」
「頭領に術をかければいい。それで得られるものがある」
「そんなことして大丈夫なのかい?」
「大丈夫じゃない。こっちが」
「ん?」
「頭領には物凄い幻術返しの素質がそなわってる。たぶん世界最強の」
「でも、彼は元の世界にいたときはごく一般的な真面目な市民だってきいたけど」
「そんなの誰も信じてない」
――†――†――†――
ゲームのようにステータス画面を開くことができれば、ジョブ:ニンジャのトキマルが加わったと8ビットのファンファーレが鳴り響くことだろう。
残りふたりはアサシン娘たちからちょっぱってくればいいかと思い、道を出て、〈グッド・キラーズ〉へ行くと、いきなり四人に詰め寄られ、どうやってそんなに痩せているのか素直に吐けばよし吐かぬなら体にきくまでよとシカゴ・マフィアの拷問係みたいなことを言ってきた。
どうやら菓子の食べ過ぎで少々体重が増えたらしい。
「僕が痩せているのは食事がいいからさ。ククク」
「その献立を教えなさいよ!」
クレオは魔王通りにある〈大当たり亭〉を教えた。
魔族御用達のメニューは食べれば家系単位で呪われたり、どう見ても錬金術士の実験材料だったり、ターコイズブルー・パンケーキだったり。
「生半可な気持ちで食べると死ぬよ?」
「こっちはマジも大マジなんでね」
「まあ、逝くのは結構だけど、何か褒美が欲しいな」
「そこにある人形全部あげる」
「これって――暗殺依頼したらもらえるオマケの人形、って、もういっちゃったか」
とことこミツルちゃん人形は残り八体。
表情は笑いあり涙ありの人生七転び八起きみたいになっている。
クレオは外に出て、路地をぶらつき、ツバメ小僧のニックネームで知られる単発雇いの路上メッセンジャー・ボーイを捕まえると、リサークとヨシュアに絶対に断れないオファーを持っていかせた。




