第五話 ラケッティア、トキマルの欲しいもの。
「いいじゃん、参加したら。新しいカクテルの材料が手に入るかもよ」
「本心は?」
「いやあ、スパダリなジャックくんが美少女にきゃあきゃあ頼みにされて、アワワするのが見たいだけ」
「はぁ……。だいたい、おれがいないあいだ、〈モビィ・ディック〉はどうするんだ?」
「それなら心配はいらぬ。余がバーに立つぞよ」
「オーナーが? でも、オーナー、一滴も飲めないじゃないか。カクテルは作れるのか?」
「ノー・プロプレム。というのも、ほら、ロデリク・デ・レオン街の眼鏡かけた雑貨屋いるでしょ? あのカタギじゃないやつ。あいつから、いいもん買ったんだよね~」
そんな会話があったのが、三時間前。
なんとか言いくるめてジャックを送り出し、おれはというと、この自動バーテンダー・マシンにシェイカーをくっつけてはダンジョン・マティーニを作りまくっている。
大理石のカウンターは端から端までダンジョン・マティーニでいっぱいだ。
カクテルをつくるのがこんなに楽しいとは思わなかった。次はどんなカクテルを大量生産してやろうかな?
大量生産大量消費は資本主義の根幹だぜベイビーとトム・アンド・ジェリーの大量生産に着手しようとしたら、トキマルが降りてきた。階段の踊り場にある窓がたぶん西日でぎらぎらしてたんだろう、その御姿は後光が差してらっしゃる。
「おはよう。お寝坊くん」
「おはよ、頭領。って、なに、そのカクテルの列。ジャックは?」
「どうしてもNOと言えない取引を持ちかけられ、外出中だ」
「誰を殺るの?」
「あ。お前、さてはおれがジャックに誰か消してこいって頼んだと思ってるな」
「あいつがノーと言えない取引っていうと、頭領の命令でしょ」
「んなこたない。で、ぐうたら忍者はこんな夕暮れに起床して、どこに行く? つーか、それ忍び装束だな。後光がまぶしくて分からなかった」
「どーでも。人、殺しに行くだけ」
「暗殺解禁は確実に命の価値を軽くする。が、意外だな。お前、めんどくさがりだから『どーでも』って流してスカしてるだけかと思ったけど」
「別にいいでしょ。欲しい刀があるの」
「はぁ!? 三度のメシより昼寝が好きで、ハンモック以外のこだわりは全部ドブに捨てたトキマルくんに欲しい刀がある!?」
「そんな驚くことじゃないでしょ」
「いやいや、驚きですよ。え、なに、どんな刀? ねえ、どんな刀?」
「言っても分からないでしょ。刃文は足の長い丁子乱れ、小板目の地鉄、深く反った小丸帽子」
「なるほど分からん。実物を見たほうが早いな。どこで売ってる?」
「公営質屋のオークション」
「じゃあ、盗品じゃんか」
「どーでも」
「今日が競りか?」
「まだ。でも、姿を拝むだけならタダだし。暗殺任務前のゲン担ぎに行ってみるかな」




