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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アルビロアラの沼 ギルド・オブ・ジェイムズ・リドル編
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第六話 ラケッティア、トンチキ神話。

 エルフとダークエルフが仲が悪いのはある神話に由来する。


 その昔、神は人とエルフを別々の世界に分けた。

 エルフたちが住む世界はエルフロアと呼ばれ、エルフとダークエルフは仲良く暮らしていたが、ある日、ダークエルフたちが禁忌を犯したため、精霊の女神の怒りを買い、エルフロアは消え去り、全てのエルフとダークエルフは人間の世界に墜ちていった。


 だから、エルフはダークエルフとなかよくしちゃいけないのだが、まったく同じ神話がダークエルフの側にもあった、蒼ざめたペイルエルフ(おれたちがエルフと呼ぶものをダークエルフはこう呼ぶ)が禁忌を破ったためにエルフロアが消滅した。だから、なかよくするなと言っているらしい。


 だが、そのエルフロアが消え去る原因となった禁忌とはなんだ?ときくと、どちらもこたえられない。


 ゲームに出てくるエルフというのは森や大地との暮らしに親しみ、物質主義に固まった愚かな人間たちを軽蔑し、これが仲間になるには主人公一行が人間でもマシな人間であることをピンチお助けイベントなり何なりで明らかにするのだが、この世界のエルフたちは人間に負けないトンマぞろいでお互いのことを訴因も知らないまま起訴し合っているのだ。


 ともあれ、ファクンドゥの盟約により、ダークエルフたちはおれたちを殺して、沼に沈めるのはやめにしたらしい。

 村に連れていってやるからついてこいと言ってきた。


 ダークエルフたちの村――トーアレ村は小さな砂丘の島の群れの上にある村で防護柵のかわりに葦の屏風に囲まれ、道のかわりに水が走っている。


 その家はきっと沼人マーシュ・マンの家をさらにみすぼらしくしたものだろうと思っていたが、通り過ぎながら眺めた家は思いのほか、沼人マーシュ・マンの家よりも立派だった。

 浮草と葦と流木と魚の骨でつくった建材はファンタジーの幻想をしっかり守り、こう、エルフらしい自然共生型の家をつくる。


 トンマな神話で憎悪をこしらえるからといって、家までトンマではないのだ。


 カヌーの専制君主は最初に見つけた桟橋でおれたちを下ろし、大慌てで逃げていった。

 やつの権限はカヌーの上だけで外からの攻撃にはもろいのだ。


 さて、こうしてトーアレ村を構成する砂丘のひとつに上陸して分かったのだが、この村では舟がないと移動ができない。

 砂丘と砂丘のあいだに走る掘割に橋をかけるという考えがダークエルフたちにはなかった。


 おぎゃあと生まれたその日から水棹みざおを握りしめているような連中なので、移動は基本的に舟。

 というより、徒歩で移動したほうが速くても舟。


 舟以外のやり方で移動するのはトーアレ村のダークエルフの沽券にかかわるらしい。


 結局、おれたちはダークエルフたちの船に分乗して、村の中心部を目指した。


 道のかわりに水路があるのだから、自然、おれたちは村の家並みを見ながら進んでいくのだが、どうもおかしい。


 住民が少なすぎる。

 田舎の奥地の沼の上の村だということを差し引いても少ない。


 漁業や狩猟、木の実の採集で暮らしているのだから、その生活感というものが染みついていてもおかしくないはずだ。

 魚には見えない不思議なまじない網を編みながら、おしゃべりをする女たちとか大人の真似をして小さな罠をつくりスズメを捕まえる子どもたちとか。


 そういうものが全然ない。

 もちろん、おれたちはよそ者だから、警戒して女子どもを目につかないところに避難させたのかもしれないが、なら、どうして自分からよそ者を呼び込むファクンドゥのお手紙を出したのか?


 村が過疎化したから助けて!とファクンドゥを使ったのではなかろうに。


 舟がある掘割の半ばで水辺に舷側をつけた。

 そこは深い葦のあいだにかろうじて道が一本開いていて、おれの船の船頭をしていたダークエルフがひらりと飛び降りて、またまたついてこい、と葦のあいだに消えた。


「それと気をつけろ。ごくたまにガムリン牛が出る」


「それってガムリン松の森に住んでるきったねえ牛のこと? ここから森まで距離があると思うけど」


「あの悪魔どもは浅瀬をわたって移動するし、藻を食いながら一日じゅう泳いで移動することだってできる。前にパナデーロスであの牛が出たときは八人死んだ。まあ、沼人マーシュ・マンが何人死のうが、おれたちには関係がない」


「おれはその沼人マーシュ・マン以上に沼からも大自然からも、ついでに倫理道徳からも離れた場所で暮らしてるけど」


「お前たちはファクンドゥの盟約によってやってきた。それだけでおれたちには十分だ」


 村の中心には広場があり、エルフたちの精霊信仰のための礼拝堂や飲める水をくめる深い井戸がある。


 礼拝堂の前でやや年かさのダークエルフが待っていた。

 長身痩躯、トラブルを持ち込まれるのに慣れたふうなところが見える。

 他のダークエルフたちと同じでボタンではなく紐で閉じる上衣とレギンス、ベルトには漁の最中に使うナイフだの針だの棍棒だのがぶら下がっている。


 ここでもファクンドゥの盟約に関する名乗りが一発行われて、オレタチハ味方ナンデスヨの儀式が終わる。


 相手のダークエルフはここの族長でリサヴィオンと名乗った。


「お前たちふたりはペイルエルフだが、そっちのものたちは人間か?」


 いっせーのー、ハイ!


「マフィアです!」

「アサシンです!」

「忍びです!」

「怪盗です!」

「え、えっと、バ、バーテンダーです!」

「五人そろってギニュー特戦――」


「わかった。もう結構だ」


 えー、ここからがいいところなのにー。


「それでダークエルフの族長リサヴィオンよ。この村にどんな危機が訪れたのだ。我らにファクンドゥの言葉を託すのだから、よほどのことだろう」


「ああ。村の存続の危機だ」


 リサヴィオンは言った。


「村からエルフが次々と行方不明になっている。もう、村の半分が姿を消した」

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