第七話 ラケッティア、箔が欲しい。
数当て賭博。
日本でもやっているあれだ。
ギャング映画でいうと、『奴らに深き眠りを』。
この映画ではナンバーズが重要なファクターなのだ。
仕組みは簡単で客は三桁の数字に小銭を賭け、それが当たったら、払い戻す。
といっても、銅貨数枚を賭け、勝ったら金貨が一枚返ってくる程度のもの。
ここは貧民街なのだから、貧乏人でも気軽に夢が見られる小さな賭けが必要だ。
ナンバーズのいいところは規模を自在に変えられるところだ。
今はまだ、小さな賭博システムだが、膨らめば、集金人が五百人を数える巨大ギャンブル産業にだってなり得る。
人員では帳簿付けできるやつが一人必要。これはおれがやる。
あとは賭け札と賭け金を集める集金人が必要だが、それは四人にさせる。
集金業務はどうしても一定のルートでまわるから、カネを横取りしようとするチンピラの待ち伏せを食うこともある。
四人は凄腕暗殺者らしいから彼女たちがやられる心配はしないが、別の心配がある。
ナンバーズを拡張する場合、どうしても集金係を増やさないといけない。
そして、集金係はできるだけ安く使いたいから、ささやかな副業を欲しがってるカタギや悪ガキにやらせるつもりでいる。
それが集金係がチンピラに襲われ、チンピラが返り討ちにされ血みどろの肉塊になるような現場を見せたら、いくら荒っぽいウェストエンドと言えども、集金係のなり手がなくなる。
だから、おれのナンバーズ組織に箔をつける必要がある。
ちょっかい出したらくたばることをちょっかい出される前に知らしめるのだ。
それをどうやったらいいか。
ギルド屋敷に戻ってから、うんうん唸りながら考えているが、いい手が浮かばない。
「あの、マスター……」
ん、と視線を移すと、中庭と家を区切っている大きなガラス窓のそばから、黒いドレスのちんまいいもうと系少女がもじもじしながら現れた。
かわいらしくまとまった小さな顔で恥ずかしそうにはにかみ、指先でプラチナ・ブロンドの髪をくるくる巻いていじっている。黒いバックル付きのローファーに似た短靴の先が内側へ向き合っていて、内股でもじもじしていた。
「マスター、考え事なのですか? よかったら、アレンカも一緒に考えるのです。一人よりも二人で分かち合ったほうが悩みも軽くなると思うのです」
「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えるかな」
すると、アレンカの表情がぱあっと明るくなった。
ああ、ええ子じゃ。
さらにこの子は、おれたちをなめるなよ、とウェストエンドじゅうに知らしめるにはどうすればいいか相談すると、すぐに最良の解決策を提示してくれた。
「それなら、アレンカが任務を遂行すればいいんだと思うのです。最近、お仕事をしてないから、忘れられてるかもしれないけど、でも、でも、うー」
あんまり口はうまくないらしい。
「アレンカ、助かった。その通りだ。うちはアサシンギルドなんだから、アサシンたちの名前が有名になれば、みなおれたちに一目置く。これで集金人を襲う死にたがりはいなくなる。そう言いたいんだな?」
こくこく。アレンカがうなずく。
「じゃあ、早速、仕事をくれるやつを探しに行こう。アレンカ、心あたりは?」
「わからないのです。アレンカたちはただターゲットの名前を教えられてきただけなのです。ごめんなさいなのです……」
「いいんだ。探してまわろう。おれもここに住むなら、少しは土地鑑を養いたいと思ってたところだ。ところで、アレンカはいいのか? その 人を、殺すこと?」
「アレンカは大丈夫なのです。マスターは悪い人だけ殺すって言ってくれているのです。それなら、アレンカは何人だって殺せるのです。マスターのために」
わ、めっちゃいい笑顔。この子素直怖い。