第四十六話 ラケッティア、それで勝ったつもりか。
ステンドグラスの製作はいくつかのギルドによって独占されていて、国同士、都市同士のなかが悪いと、ステンドグラスが手に入らないこともある。
ステンドグラスは教会にはなくてはならない美術品であり、教会は都市や国家、あるいは都市国家になくてはならない。
もし、なかの悪い都市がそこいら一帯のステンドグラス製造を一手に握っていたら、どうなるか。
そんなときのためにラケッティアがいるのです。
売る側も買う側も納得のプライスで信仰心向上アイテムをお届け!
もし、神さまが教会の司祭どもが言うように教会の発展を望み、もっと多くの教会が立てられることを望んでいるとしたら、おれは世俗の抗争で手に入らなかったステンドグラスを手に入れてやった教会設立の功労者なわけだ。
そんなおれのことを異端審問にかけるというのだから笑っちゃうね。
そりゃあさ、もしステンドグラスにポケモンとかを描かせたら異端者扱いも分かるけど、おれが納品させたのはごく普通の天使とか聖人とかのステンドグラスなんすよ。
藁と河原石でできた農村の教会みたいにステンドグラスなしでやっていかなくてはならないと半ば絶望し神を呪うコンマ一ミリまで行った司祭たちをおれは素敵な素敵なステンドグラスで正道に戻してやったんすよ。
そのおれを裁くとおっしゃる。このクソ野郎め。
異端審問官ワルドーはこれまでの審問のことなどさらりと無視し、ポテト派が民を惑わし、教会の権威に挑戦し、精霊の女神の教義を著しく捻じ曲げたとか淡々と宣告していく。
ふざけやがって。
この薄汚ねえ、くそったれの、卑怯者の、水虫野郎のドアホめ。
最初からそのつもりなら、あの長ったらしい前置き裁判はなんだったんだ?
くそが。テメーのヅラを公衆の面前で剥がしてやる。
その白くてふさふさしたヅラを剥ぎ取ってやる。
だがまあ、その前に『あれ』がある。
「最後にこれが一番重要だが」
ほうら、来た。
「免罪符を購入する意思はあるか?」
「あります」
免罪符。ため込んだキミの罪もこいつでリセット。
ヅラ野郎はお仕着せ姿の召使に〈免罪符〉を持ってくるように言った。
その場がどよめく。
白金箔を張った紙に小さな宝石と象嵌の天使たちと聖人たちが余すところなく散りばめられ、ユグドラシルの樹液を混ぜた最高級のインク――条約とか書くときに使うやつで綴られた『汝の罪は赦された』。
これまで見かけた最高級免罪符の上を行く超最高級免罪符の登場。
これには聖俗問わずどよめきが。
これはもう精霊の女神そのものが買うような免罪符だ。
ヅラ野郎はにんまり笑っている。
「値段は金貨千枚だ」
「でも、こないだの宣告式じゃ金貨十枚の免罪符だったじゃないすか」
「状況が違う。汝の罪は理神論の教師とは比較にならないほど重いのだ。それで購入するのか、しないのか」
「そんな。こんな高い免罪符出されたら――」
「では、異端人、来栖ミツルを火刑に――」
ヅラの言葉はジャックポット当てたスロットマシンみたいな音に飲み込まれる。
ジャックとシャンガレオンがふたりがかりで傾けた長持ちから金貨が流れ出していた。
「――免罪符、買うっきゃないじゃないですか。三枚ください。観賞用と保存用と布教用に」




