第三十四話 ラケッティア、異端審問の。
「ポテトを崇めよぉぉぉ」
「崇めよぉぉぉ」
ポテトを手に奉げ持ち、街路を練り歩く巡礼集団現る!
へんなやつら。
まあ、おれが雇ったサクラなんだけど。
「精霊の女神は我ら罪深き人間の浄化のために聖なるポテトを遣わしたぁぁぁ」
「遣わしたぁぁぁ」
最初にしゃべるじいさんは銀貨三十枚。後ろでコーラスする連中はひとり銀貨三枚が二十人。
既に教団内には階級差が生まれている。
マフィアの宗教はカトリック一辺倒で、プロテスタントのイタリア系マフィアというのはきいたことがない。
そもそも結婚相手もカトリックの女に限れというくらいのガチガチで、日本ではちょい悪アイテムな銀の十字架のネックレスもイタリア系のホン悪たちのあいだでは信仰の対象として、マジでつけている。
さて、ポテト教はしばらくは精霊の女神教会の一派ということでいく。
いきなり独立カルト教団にしたら、異端審問官の餌食だ。
そうだ。
ここで、おれがこっちの世界に来て以来、知った異端審問官のあれこれをちょっと述べておこう。
異端審問官なんて職業は現代日本にはなかったし、あったら大変なのだが、この世界では普通にある。
異端審問官といえば、ロープレなんかで知れる限りでは、拷問と迷信に凝り固まり、気に食わないやつを片っ端から火あぶりにする悪の狂信者集団と思われがちだが、実際、その通りだ。
やつらは神を信じる。物凄く信じる。
異端審問官は何十人と会ったが、カネで買えたのは1.5人だけだった。
0.5人は取引成立直後にやってきた狂信的な騎士が天誅お見舞いし、真っ二つにされた。
そんなやつらを相手にポテト教は弾圧されないかとご心配なよい子のパンダのみなさんもいらっしゃるだろうが、それが大丈夫なのだ。
ただのポテト教なら速攻で弾圧されるが、精霊の女神教会の新しい一派としたら、それができない。
だって、本当に精霊の女神が聖なるポテトを遣わして、この混沌とする世界を救わんとしたかもしれないだろ?
そう、異端審問官の隠された姿。それは調査マニアだ。
確かに拷問で無理やり証言を集めたりするが、こんなふうに奇跡が関わると、異端審問官はこのポテトは本当に神さまが遣わしたポテトかもしれないと思いながら、ちゃんとした調査をするのだ。
ルコニ派の異端審問官たちはこれからあらゆる角度からポテトを分析し、神学者を読んで議論し、ポテトによる奇跡を審査する。
もし本当にポテトが神の奇跡なのに、それを弾圧したら、死んだ後、天使たちに襟首捕まれて女神さまの前に引き出され、
「ちょっとぉ。あたしがあげたポテトいじめたとか、マジありえな~い」
と、言われて地獄行きが決定してしまうのだ。
だから、異端審問官は結論を急げない。
真面目に調べないといけないのだ。
で、そのあいだにポテト教は勢力を伸ばし、ルコニ派の異端審問もできないくらい成長したら、女神さまにはご退場いただき、ポテトそのものがご本尊となる。
これぞポテトの奇跡!




