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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ルフェイル王国 セービング・プライベート・ウィリアム編
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第二十二話 ラケッティア、嫌な再会。

 ルフェイル王国の首都であるサーマインは現在、商人革命派たちの支配下にある。

 商人たちが宮殿のボスになって以来、全てのものに値札がついて投機の対象となり、それは爵位も例外ではなかった。


 王党派と敵対しているのに爵位を売るなんて革命政府としてどうだろうとは思うが、サーマインでは現在、卑しき人びとがせっせとゼニ稼ぎに奔走し、そのゼニで自分を飾るのが流行っている。

 爵位はカネになるのだ。


 ちなみに上は公爵が金貨一万枚、下は男爵が金貨一千枚。


 いやまったくわけの分からん商売だが、理念にだって値札がつくのだから仕方ない。


 それにもっとわけの分からない商売がある。


 サーマインの商人たちは穀倉地帯を押さえていて、兵糧は常に余っていた。

 そこで彼らはその余った兵糧を王太子派に売りつけた。


 それって利敵行為じゃないのかと思うのだが、


「でも、やつらが払ったカネで傭兵を雇って、やつらを叩き潰すんだから、なにもおかしいところはない」


 と、この地の平均的な商人が言うのだった。


 なら、兵糧攻めにしたほうがはやく戦争の決着がつくんじゃないのかと思うが、パンの値段が高騰している場所があり、手元にパンが余っているのになにもしないほうが商人たちにはよっぽどつらいらしい。

 そんなわけで王太子派にパンを売るのはやめられない。


 そして、王太子派はサーマインの革命商人たちが売るパンがないと補給が立ち行かないので、サーマインを攻撃できないでいる。


 王太子が即位するにはそのサーマインがどうしても必要にもかかわらずだ。


 さて、ウィリアムがいるという髑髏隊はこのサーマインに駐留しているか、これから駐留する予定らしい。


 時間に余裕があるので、ひまなやつを見繕って、街をぶらついてみた。


 街を見て、最初に感じたのは浮浪者の多さだ。

 それこそあちこちにいる。

 商人がトップになると浮浪者が増えるのは薄々感じていた現象で、実際、これまでもそういう町を何度も見たことがあるが(他ならぬカラヴァルヴァがそうなのだが)、サーマインの浮浪者の多さは異常だ。


 ボロの腰をロープで巻き、欠けた椀を手にしたボロボロの人びとが通りいっぱいに物乞いをしてまわっている。

 そして、街の半分が浮浪者たちのスラム街と化しているのだが、それらは商人たちが政治を牛耳って以降、広がったらしい。

 というのも、その住処が最近までは貴族の屋敷や劇場だったらしく、大きな建物の正面がぶち抜かれ、衝立のようなもので区切られ、その棺みたいに狭い部屋に浮浪者が二家族住んでいる。


 没落貴族もいるだろうが、浮浪者のほとんどは有力商人の独占によって廃業に追い込まれた中小規模の商人や職人だった。


 庶民や浮浪者は前よりも生活が苦しくなったと文句をたれていて、そのせいか監獄は超満員。

 たとえ禁固刑であっても賄賂の原資を持たなかったら、生きては出られないと評判だった。


 それでもお偉方がパレードをしたりするときはみな声のかぎり万歳と叫ぶのだから、パンの取引同様、市民感情は意味不明である。


 そのときも黒山の人だかりができていて、金属くずのにおいのする外套を着た背伸び男になにがあったのかたずねないといけなかった。


「エティエンヌ・マルチェロが演説をするんだよ」


 マルチェロ。ルイジアナのボス、カルロス・マルチェロと同じ名前だ。エティエンヌのほうは知らん。


「そいつ、そんなに偉いのか?」


「本気で言ってるのか? やつは商人頭しょうにんかしらなんだぜ」


 このシャッター商店街のヘッドみたいな称号が革命派政府の最高権力者の称号なのだ。


 近くにある民家の三階へ行き、カネを払って、その窓から商人頭の姿を見てみた。


 カワウソ皮の襟をつけたガウンのようなものを羽織り、説教師みたいな平べったい帽子をかぶった六十代くらいの男が壇上で黒板に様々な図や数字を書き殴りながら、なにかを叫んでいた。

 聴衆たちが騒がしくてなにを言っているのか分からないが、どうやら今後の市の財政状況や次の戦いでの勝利の確率を統計からはじき出したものについて説明しようとしているようだ。


 その姿は有名予備校の人気講師みたいに自信たっぷりだ。


 そういえば、おれは高校一年のときにここに飛ばされたから、予備校のお世話にはなっていない。

 でも、刑務所のお世話にはなったことがある。


 まいったね!


     ――†――†――†――


 三階建ての家から出ていくと、聴衆は三々五々散り始めて、またさほど儲かりそうもない生業に戻っていった。

 そして、既得権益と独占による質の低下と気まぐれな価格令がまかり通る市場を通り抜けようとしたとき、こぎれいなヒゲをの紳士があらわれて、ちょっと話をきいてほしいといってきた。


「ここではいけません。そこの店はどうです?」


 細長い洞窟みたいな店の一番奥の席につくと、その紳士は小さな箱を取り出した。

 象嵌細工の凝った箱で、ライオンの足を象った青銅の留め金があり、それをふたつ外すと、ビロードで内張された箱のなかで赤、青、黄色の砂糖でコーティングされた小さな丸い玉があらわれた。


 グリード。

 まさか、こんなところで再会することになるとは。


 商人頭の黒板の右肩上がりの収益グラフを思い出し、その原動力がなんであるのかをはっきり悟った。


 一国の国家元首が自分の国民にヘドロを売りつけて儲けようとしてるのだ。


「悪いけど、おれ、ヤクはやらない主義なんだ」


 立ち去ろうとすると、洞窟の出口を蓋みたいにデカい男がふたり並んで塞いでいて、親衛隊士官の制服を着た男がおれのほうへつかつかとやってきた。


「来栖ミツルさまですね。突然の訪問をお許しいただけたい。商人頭エティエンヌ・マルチェロさまがお会いしたいそうです」

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