第十二話 ラケッティア、小さな会話。
「カールのとっつぁん。ルコニ派って知ってる?」
「ああ、知っている。やつらの前で生まれたての子豚を必死に育てて、大人の豚にし、それをつぶして肉にして、焼いて、ポーク・ソテーにしてやつらの食卓に出すと、このポーク・ソテーは神さまがつくってくれたのだ、と臆面もなく言う。恩知らずどもの集まりだ。ルコニ派がどうかしたか?」
「そいつらのひとりでペレスヴェトってやつと知り合いになる機会に恵まれてね」
「それはご愁傷様。しかし、そのペレスヴェトというやつはきいたことがないな」
「若いやつだった」
「じゃあ、無理もない。やつらにまつわる事件は現役時代にいくつか取り扱ったことがある。よくあるリンチ殺人だ。神託が絡んだものでな。たいていは外国人の高利貸しが殺された。ルコニ派を起訴するのはひと苦労どころの騒ぎじゃない。宮廷にもコネのある連中だから。もちろん、わしはきれいな判事ではなかった。昔は賄賂も多少は取った。だが、わしは誰かを起訴してぶち込むことをある種の挑戦と思っていた。挑戦するなら難しいやつほど、ぶち込んだときのやりがいがある。その意味でルコニ派はいい獲物だった」
「ルコニ派から不起訴にしてくれたら、いくら払うとかって話はなかった?」
「ない。あいつらには人に感謝するという考え方が欠落している。やつらが判事の家族を人質にとって、有利な判決を引き出そうとしたという噂をきいたことがあったのでな、わしは一縷の望みに賭けて、やつらが遣わした司祭の前で、わしがいかに妻を愛しているか、延々と語ってやったが、やつらは妻をさらわなかった。まあ、しょうがない。わしもそこまで期待はしていなかったさ」
「そいつら、ルフェレル王国の内戦に介入したいらしいんだけど」
「どうやら、ケルベロスの頭は三つになる定めから逃れられないらしいな。革命を起こした商人たちも追放された王太子派もろくでもない連中に違いないが、そこにルコニ派が入れば、さぞ楽しかろう」
「ガルムディアもきっときてるんだろうなあ」
「メダルの騎士に要注意だ。最近、メダルの騎士たちのトップがすげ変わったそうだ」
「っていうと?」
「それまではベタンコルトという貴族が仕切っていたのだが、ほら、最近、メダルの騎士たちはお前さん相手に連敗中だろう? その責任を取らされてやめさせられたらしい」
「で、今のトップは?」
「それまで名前だけだったメダルの騎士団をほんの数年でいまのような諜報暗殺機関に育て上げた、まあ、実務を担っていたやつがトップになった。名前は知らない。用心深いやつで、自分の正体は外に漏れないよう最大限努力しているとのことだ」
「恥ずかしがり屋さんだな。そういうやつほど毟りたくなるのが人の本能っちゅうかなんちゅうか――」
——かかってこい!
床が震えるほどの大声。
「またグラムが哀れな借金取りをぶちのめすらしいな」
カールのとっつぁんは、そうすれば一階の様子が分かるとでも言わんばかりに床に目を落とした。
「毎日休まずコツコツと」




