第六話 騎士、入団試験。
デーヴィドはエビ漁師の溜まり場というささやかな縄張りで四十年以上商売をしてきた。
賭博。高利貸し。エビ漁船を使った密輸や密航。
さらに集落のなかに石造りの酒場と雑貨屋を持っていて、手下として屈強な男を五人ほど抱えていた。
デーヴィドははぐれ騎士を――名前を誰にも明かさないので、誰かがそう呼び始めた――六人目に加えようかと思っているようだった。
「脳みそまで拳骨でできてるようじゃ困る」
デーヴィドがリーロ通りにあるお気に入りの料理屋で語ったところでは彼から金貨十枚借りておきながら、一度も払いに来ないやつがいて、そいつは利子すら入れてこない。
「だから、お前にちょっと行ってきて、そのチビ野郎を連れてきてほしい。ここにな」
奇妙な話だが、エビ漁師の集落ではエビは食べられない。
エビはみな外に出荷されるから、エビのハーブローストが食べたかったら、こんなふうにリーロ通りまで出張らなければいけないのだ。
デーヴィドから教えられた獲物街の番地はふたつ続きの古い長屋が並ぶ区域で、カラベラス街の住人も多く見られる場所だった。
つまり、カラヴァルヴァ市内でもかなり物騒であり、縄張りも複雑、警吏に払う銀貨があれば誰でもカードができた。
望まない形だったが、小さな肉屋の地下で開かれているカード賭博をめちゃめちゃにすることになった。
デーヴィドのいうチビ野郎は壁みたいにデカくて分厚い男だったので、素直についてきてカネを返すのが得だと分からせるのに店がひとつオシャカになるほどの大騒ぎをすることになったのだ。
心得のよくない債務者を引きずりながら、外に出ると、手に斧や棍棒を持った男たちがはぐれ騎士を取り囲んだ。
そのうちのひとり、眼帯をした頭目らしい男が一歩前に出て、
「その賭場が誰のシマか、分かってんのか?」
「いや」
「おれだ」
「あんたのもんか?」
「そうだ」
「それは済まないことをした。修理代なら払うよ。いまは払えないが」
「カネも大事だが、おれの店で暴れるってのはおれへの敬意がねえってことじゃねえのかよ?」
「おれはただ、この借金野郎から銭を取り立てにきただけだ」
「誰の命令で?」
「悪いが、それは言えない」
目玉はひとつしかないが、そこから発する危険は三つ分はありそうな男だった。
そんな男の質問にこたえないのは極めてまずいが、デーヴィドの名前を教えるのはチクリ屋のすることだ。
眼帯の男が手下にはぐれ騎士を好きにしていいと命じかけたところで、デーヴィドがあらわれた。
デーヴィドを見ると眼帯の男は態度を軟化させて、
「デーヴィド、あんたがこっちに来るなんて珍しいじゃねえか」
「ちょっと用があってな。それでそっちの男だが、そいつはわしの身内だ」
「あんたの?」
「そうだ。カネはどれだけとれた?」
はぐれ騎士は銀貨と銅貨の混じった小銭をデーヴィドに渡した。
「デーヴィド、あんたも人が悪いぜ。前もって知らせてくれれば、そのクズ野郎はおれのほうから引き渡してやれたのに」
「いや、お前の手を煩わせるのもなんだしな。修理代はわしが持つ」
「いや、その必要はないんじゃねえかな? そいつはあんたの身内なんだろ?」
「ああ」
「なんで、お前、デーヴィドの仕事をしてるって言わなかったんだよ?」
「密告はしない主義なんだよ」
これでようやく騎士にも話が飲み込めた。
テストだったのだ。なにもかも。
そして、自分は正しいこたえを選んだ。
帰るとき、デーヴィドが眼帯の男に、
「その馬鹿がわしから借りてるのは金貨十枚だ」
「なんだって? この野郎、ここに通ってるやつ全員から借りてるのにまだそんなに借りてやがったのか? おい、エドワルド。借金返すまで、二度とこいつをうちの賭場に入れるな。それと、これはおれからだ!」
眼帯の男は多重債務者の尻を思い切り蹴飛ばした。




