第七話 ラケッティア、ヴォンモの闇魔法。
昨晩、デ・ラ・フエンサ通りのダンス・ホールで死人が出た。
生存者の話ではあるカップルがやってきて、最初のうちはお行儀よくダンスし、軽めの酒を飲んでいたが、なにかつまらないことで口論になり喧嘩になり、すると魔力の爆発が起きて、十人が巻き添えを食って死に、怪我人はそれ以上。
肝心のカップルはというと、なんか言いたいこと吐き出したらすっきりしたらしく、また熱く抱擁してダンスを再開したという。
ダンス・ホールは半壊してしまったのだが、そこになんたる偶然ラロ・モンディーニがみかじめ料を取りに来ていて、哀れモンディーニはバラバラに吹き飛ばされた。
「で、あんたが討伐隊の指揮を執るってことになったってわけかい?」
「ああ」
「でも、警吏がおれたちの一隊を率いるってのは無理があるっしょ……他の連中は納得した? 説得できたのか?」
「ああ」
「マジで?」
「ああ」
「でもさ、あんた、さっきから『ああ』しか言ってないよ。そんなんでホントに説得できたのか?」
「ああ」
そんなわけでツィーヌとジルヴァは最強クラスの警吏の指揮下、ボニーとクライド狩りに出かけていった。
なんだか仲間を警吏に引き渡したみたいでドナドナっぽいが、戦後間もない渋谷にて台湾人や朝鮮人の愚連隊が暴れると、ヤクザと警察が手を組んでこれを鎮圧したという話もある。
ルケーゼ・ファミリーはふたりの刑事に殺しを請け負わせたりしていたというし。
「倫理的な後ろめたさがあるなら、サバ・パイを食べないかい?」
クレオの持つパイからこんがり焼けたサバの頭が生えている。
「食べない」
「おいしいのにねぇ。ククク」
「それより、セオドアとテオドラを探さなくていいのか?」
「それだけど、案内が必要でね」
「おれにそれをやれってか?」
「顔は広いだろう?」
「まあ、どのみちあちこち出かけないといけないから、それについてくるってんなら止めないが」
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「その前にその殺気、どうにかならないのか?」
「無理だね。だって、僕の商売道具だから。ククク。きみは殺気で人を殺すのを見たことがあるかい?」
「ないね」
「ぜひ見てみるべきだね」
どうやら、クレオは殺気を武器にして標的を仕留める技を持っているらしい。
「ジルヴァの影魔法、ヴォンモの闇魔法みたいなもんか」
「影魔法と闇魔法を使える子がいるのかい?」
「いる。闇魔法のほうは現在絶賛修行中だ」
「それは興味深い……とても興味深いね。きみもそう思うだろ?」
ウン、ソーダネ、とサバの頭が高い声で言った。
――†――†――†――
二階から降りてきたヴォンモはいつものブローチを首元につけ、アサシンウェアと同じワインレッドの生地でつくった外出用ドレスを着てきた。
「いま、カルデロンさんから教えてもらっていたんです。湧き水詐欺のやり方を」
湧き水詐欺というのはカモに土地を売りつけるときにアメフラシの尻尾を土に埋めて、優秀な水源があるかのように見せかけて、土地の値段をつり上げるテクニックらしい。
カールのとっつぁんはヴォンモの物覚えがよいのをいいことにあれこれ詐欺の手口を吹き込んでいる。
「それは問題ないんじゃないかな」と、クレオ。
「と、いいますと?」
「アサシンには相手の心理を読んで、自然とこちらが優位に立てるように誘導する技が必要なのさ。詐欺の手法はいい暗殺の鍛錬になるんだよ。ククク」
「きいたか。ヴォンモ。それも修行のうちなんだって」
「はい。マスター。おれ、頑張ります」
「どうだ、うちの有望株」
「殺す直前まで追い詰めてもいいかい?」
「ダメに決まってるだろ!」
「ダメかあ。そっかあ。闇魔法みたかったなあ……半殺しならいい?」
「小売王に吹き込むぞ。お前がヴォンモに危害をくわえようとしてるって」
「分かったよ。四分の一殺しで手を打とうじゃないか」
「小売王-っ! 小売王ーっ!」
「冗談さ。大丈夫。手出しはしないよ。今はね。クックック」




