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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
〈学院〉 ベンダー・マシン・ミミック編
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第二十三話 ラケッティア、そのうちジョブチェンジもするかも。

 つまり、おれとアレンカがいないあいだにこういうことが起きた。


     ――†――†――†――


 ペイショトとペイショトの手下AからZがおそってきた!


 ミミちゃんの攻撃!


 ペイショトとペイショトの手下AからZは食べられた。


 モンスターを倒した。


〈学院〉の利権と経験値99999を手に入れた。


(ちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーん)


 ミミちゃんのレベルが上がった。


 牙の鋭さが2あがった。

 釣銭の輝きが4あがった。

 陳列棚の広さが5あがった。

 スロットが1あがった。

 ロリコンが5あがった。


 スキル『ジャンプしながら移動』を覚えた。


     ――†――†――†――


 と、こういうわけだ。


 おれとアレンカが出てきたとき、妙にみんな大喜びしてたなと思ったら、もうペイショト問題は片づいて、あとはおれとアレンカが無事ミミちゃんから出てくれば大団円だったのだ。


 さて、ペイショト一派が駆逐されたので、こちらとしては目的もかなったし、あとは出来上がった権力の空白について交渉することになった。

 バケダーノ商会の縄張りの確認やクルス・ファミリーのスロットマシン利権の確立、ペイショトが押さえていた教科書供給利権はこちらが挿絵付きの教科書を供給する条件でこれまでどおりの値段で納入することになった。

 もちろんベンダー・ミミックに対して〈学院〉は国として法律をつくって忖度しまくることも約束させた。

 製造、販売、メンテナンスのために確保される人員や販売物品の決定などなど。


 学院長だの事務総長だのといったお偉方のじいさん連中はこれまで〈学院〉で敵なしでのさばっていたペイショトがあっという間に消えてなくなり、またフォンセカとジーナがペイショトの言った通りすでに救出されていたことを知り、おれという人間がどれだけえげつない人間であるかを認識すると、ペコペコしておれのご機嫌を取った。


 世界最高にして最大学府の最高幹部たちは君侯に対するがごとく頭を下げるが、彼らは知るまい。

 その下げた先にある来栖ミツルの頭こそが、ほんの数分前まで土下座のためにゴツゴツと床を打っていたことを。


 というのも、移動手段を手に入れ、血の報復を求めるミミちゃんに対し、おれはまさに高校がテロリストに占拠されたときに使おうと思って技を磨いたジャンピング土下座を披露することになった。


 この躍動感あふれる謝罪行為とヴォンモに会わせるという約束でギリギリ命をつないだ。

 ただし、嫌がるヴォンモに無理強いはしないという条項付きだ。


 そりゃそうだ。

 ヴォンモは嫌だと思っても、おれのためにミミちゃんに呑まれようとするだろう。

 そんなの切なすぎるし、たぶんミミちゃんもあまりの切なさに呑み込めない。


 死一等を免じられると、おれは〈弾力のある繊維〉〈巨獣の骨〉〈水晶の樹の実〉〈虹鉄外殻〉を専門に採取する冒険者のギルドをつくり、〈メガロドン商店〉と牙の供給に関する契約をしたが、その後が大変だった。


 国内外の目ざといポーション製造業者たちがわんさと押し寄せて、ベンダー・ミミックで自分のところのポーションを売らないかとセールスに来たのだ。

 ポーション市場は飽和気味であり、新形態の販路を求めていたところでベンダー・ミミックによるダンジョン販売の話が転がり込み、各社デッドストック寸前のポーションをさばこうと死にものぐるいでやってきた。


 キックバックだのストックオプションだのとカジノ利権みたいな話になり、契約書の難易度が上がり、毎日、接待を受けるハメになり、部屋に籠ってくたくたになりながら契約書を読んでいたら、ビッグ・ママ・バケダーノがあらわれた。

 なんでもドッグレース場を復興させるらしい。


「よかったじゃん。ドッグレースは間違いなくカネのなる木だよ」


「ああ。あんたのおかげさ」


「おれはベンダー・ミミックを製造したかっただけだよ。でも、前から不思議に思ってたんだが」


「あたしら夫婦のなれ初めだろ」


「やっぱりみんなにきかれるんだな」


「息子たちはみんなきいたね。でもさ、あの人だって、生まれたときからチャウチャウ犬みたいだったわけじゃないんだよ」


 ふたりが初めて会ったのは、チャウチャウ犬が〈殿堂〉を占拠して〈学院〉から大金を強請り取ってやろうとしてたころ。

〈造船所〉じゅうの悪党どもが集まるなか、まだ十六歳の少女だったビッグ・ママは唯一の女志願者だった。

 男たちは笑ったが、ビッグ・ママはマジだった。

 そして、そんな彼女を襲撃メンバーに入れたのが、首謀者たるチャウチャウ犬だった。


 そのころのチャウチャウ犬は全然チャウチャウ犬などではなく、背が高くて、目つきは鋭く、頭も剥げていなかったし、恐ろしくハンサムだったが、その冷たい目で見据えられるとビッグ・ママでさえ震えたという。


 ビッグ・ママがあくまでバケダーノ商会のボスはチャウチャウ犬だと言うのは、このころのことがあったからなのだそうだ。


「それがいまは立派な愛玩動物じゃないですか?」


「うーん。結婚してしばらくはあんな感じじゃなかった。たぶん子どもが生まれたあたりかなあ」


「子どもがいる……つうことは、チャウチャウさんもセックスするんだ」


「当たり前だろう。あたしらはボウフラじゃないんだ」


 ビッグ・ママと入れ替わりにフォンセカとジーナがやってきて、戦勝祝いのスイカを持ってきたが明らかに酒を染み込ませた代物だったので、ご遠慮いただいた。


 ジャックは新作キャキャオ・リキュールの開発で忙しい。


 予定では明日には帰る予定だが、この書類仕事が終わるか微妙である。


 そのうち寝落ちしたわけだが、こんな夢を見た。


 世界じゅうで幼女が好きな幼女がポーションを売る夢だ。

 幼女ひとりにつき金貨一枚の売上が上がっていて、このピラミッドの頂点にいるのがミミちゃんである。

 その文明はアレンカを神として崇め、神と唯一交信できるミミちゃんはFBIのビルのなかでアレンカと追いかけっこをしている。


 ロリコン自販機からアレンカを救うべく、善良なラケッティアであるおれは追いかけるのだが、その前に『グッドフェローズ』の世界からヘンリー・ヒルがあらわれて、「どうしてトミーが殺されたのか本当の理由が知りたくないか? 少なくともビリー・バッツを殺したせいじゃない」と言われて、うわー、すげー知りてえ、って話になるのだが、そうやって立ち止まろうとするたびに、アレンカの声がして、おれはうさぎの人形を追いかけて走るドッグレースの犬みたいに我が身の性に身も引き裂かれん思いをしながら、煩悩目がけてひた走るのだった。


               〈学院〉 ベンダー・マシン・ミミック編〈了〉

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