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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
リュデンゲルツ地方 クルスの八百長ダンジョン編
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第十二話 ラケッティア、感動の縄張り。

「貴様、嬉しそうだな」


 レイルクに指摘され、おれは喜色満面を隠すつもりもなく、


「わかる? いやあ、いろいろありましてね」


 八百長を仕込んで、四か月。

 ダンジョンも今じゃ地下二十階まであり、内装もありふれた洞窟ではない。

 森林に蝕まれた遺跡風だったり、明るい砂岩の通路だったり、氷に閉ざされた世界だったり、燃えるような花が咲き乱れるトンネルだったりと実にバリエーションに富んでいる。


 そんなわけで探検目的の冒険者もじゃんじゃんやってきていた。

 探索マニアから一攫千金目当てまで少なくとも三百パーティがあのダンジョンに潜っている。


 人が集まりゃ建物も必要というわけで、建物も木造のものがどんどん立ち、谷の入り口でやっている小さな料理屋からダンジョン手前のシスターたちの施療院まで、全部で二百軒以上の建物が建った。

 これには現在建築中の建物は含めていないし、冒険者や元手のない商人たちが立てたテントも含まれていない。


 建物のほとんどは冒険者のための宿屋や酒場だが、他にも刀剣商、魔法使いの店、公証人の事務所、素材買い取り屋、武器と甲冑の鍛冶屋、串焼き肉屋、魚売り、両替商、日常生活の小間物を扱う店、ダンジョン向けの薬剤店、大工、石工、服を売る店、革具屋といろいろ集まってきていて、見た目は西部劇の開拓村みたいだ。


 で、これらの商売が落とすショバ代だけで週に金貨三十枚から四十枚になる。


 しかも、このラケッティアリングは絶賛成長中だ。

 冒険者が集まれば半殺しにされる冒険者たちも増え、それでレイルクの魔力が強くなり、ダンジョンはより深くなる。

 それで冒険者たちの資金源であるさまざまな素材も増える。

 鉱石。薬草。肉。骨。モンスターから解放された精霊たちの力。

 こうしたものが売りさばかれ、稼ぐ冒険者のなかには一度潜っただけで金貨百枚の利益を上げた剛の者もいる。


 成功談が人を集め、カネを集め、町は大きくなる。


 そして、カネが集まれば、当然、ろくでもない連中も集まってくる。


 博奕打ち、娼婦、女衒ぜげん、金貸し、追い剥ぎ、詐欺師、スリ、殺し屋。


 こうしたろくでなしたちは道をそれた窪地に丸太小屋やテントを立てて、せっせと悪行に励んでいる。


 もちろん、こいつらからもショバ代は取る。

 だって、ここはおれの縄張りシマなわけだし。


 しかし、一から悪の集まるシマをつくったことには感動せずにいられない。


 正直、まだ投資分を全然取り返してはいないけど、これはカネの問題ではない。


 カネが欲しいなら、宝石を転売している。


 そうではない。ラケッティアリングがしたいのだ。


 そりゃ儲かるに越したことはないけど、おれが仕組んだ八百長ダンジョン経済の上に悪党どもが集まった暗黒街があるという快感は値千金ものだ。


 この連中を支配下に置きに行った夜のことがまざまざと甦る。


 おれはゴッドファーザー・モードになり、アサシンウェアに着替えた四人を連れて、この小さな暗黒街へと馬車で乗り込んだ。


 灌木に囲まれた町外れの窪地に、大きなかがり火が焚かれ、娼婦たちの掘立小屋と火酒を出すテントが並んだ悪の巣窟。

 住人からは〈窪地〉といえば、この物騒な連中の棲み家を指すまでになっていた。


 おれはそこの住人全員に〈窪地〉の中心に集まるように言っていた。

 欠席者はいなかった。

 払うべきショバ代や商売がどこまで許されるのかは彼らにとって死活問題だし、自分たちの上にどんなやつが居座るのか、興味もあるだろう。


 で、どんなやつらが集まったかというと、


 体の片側だけにマントをかけた鼻っ柱の強そうな娼婦。

 指の感覚を鋭敏にできると信じて一日に三十回は手を洗うイカサマ師。

 大きな髭をたくわえた寡黙な殺し屋剣士。

 酒場を経営しながら自作のスケベ劇をかける酔いどれ禁書作家。

 必ず六の出るサイコロをつくれる象牙職人崩れ。

 十歳の巾着切り。


 そして、そうした悪党たち全員を取り仕切る顔役。


 は? ふざけんな! おれのつくったシマを横からかっさらうような真似しやがって!


 でも、おれはあくまで落ち着いた態度で接する。


 横取り野郎はバンガネラという名前の騎士で、謀反だかなんだかで領土を失って以来、あちこちを放浪し、殺人や強盗を繰り返したという男。


 立派な兜をかぶっているが、鋼鉄の目庇まびさしはあげたままだし、胸に甲冑はなく、シャツの前をだらしなくはだけさせて樽のようにデカい胸板をさらけだしているが、本人はこれがセクシーだと思っているらしい。


 分厚い唇から大きな獅子鼻にかけて大きな刀痕かたなきずが残り、でかくて年季の入った両手持ちの剣を下げているところから見ると、この騎士殿、これまでの人生をオツムではなく腕力でわたってきたらしい。

 古風な騎士道なら、こいつにだって忠誠を誓った姫がいたろうが、こいつに忠誠を誓われた姫はそれだけで悲劇だ。


 このバンガネラくんの後ろには〈窪地〉の住人がみな従っている。

 まあ、その顔色を見ていると、彼らの服従は人望ではなく、暴力の結果だった。


 そして、バンガネラの手先となって動いているらしい剣士が六人。

 人ごみに紛れて油断なく(と本人が思っている顔つきで)こちらをじっと見ている。


 だが、こっちはバンガネラの子分の数もリサーチ済みであり、うちのアサシン娘たちには最悪、このバンガネラと六人の子分を殺るつもりだと言っておいてある。

 ちょっと前まで、誰が誰を殺るかを決める死のあみだくじが行われていたことをこいつらは知らない。


 さて、くどくど言っても仕方がないので、顔をあわせるなり、こっちの条件を伝えた。

 バンガネラがこの〈窪地〉からまきあげたうちの二割を寄こせばいい。


 この寛大な申出に対して、バンガネラはこの手の悪党が考えつきそうな悪態をついた。

 それがあんまりにも目新しいところがなく、あくびものだったので、やつの言葉は右耳から入って、すんなり左耳から出ていった。


 それよりおれが気になったのは中立地帯にいる一人の女剣士だった。


 バンガネラが大勢を後ろに従え、おれはその対面で四人のアサシン娘を後ろにして立っている。


 この両者のあいだのいわば無人地帯に四十も半ばを過ぎたらしい長身の女剣士が一人、山の丸いつば広のフェルト帽を足元に置いて座り、両者のやり取りを見守っていた。


 一言でいえば只者じゃない感をめっちゃ漂わせたシブいおばさま。


 癖が強くてくしゃくしゃになっている頭髪にもだいぶ白いものが混じっているし、彫りの深い面長の顔と薄い色の目が手伝って、めっちゃハンサム。美人とかきれいとかじゃない。ハンサムなのだ。

 マントを体の片側に寄せて、剣を抜きやすくしているところを見ると、火の粉がふりかかったら払うが、そうでなかったら、黙って眺めているだけのつもりらしい。


 ふと、我らのバンガネラくんがこのおばさまからも上前をはねているのか気になった。


 で、きいた。


「バンガネラくん。こちらの剣士からもきみは上前をはねているのかね?」


 この質問はキラーパスだったらしい。

 威勢がよかったバンガネラは思わず、口ごもった。


「そんなこと、てめえになんの関係がある?」


「はねてないのか。それなら、きみは思っている以上に――」


 大したことがない、と言おうとしたら、バンガネラがナイフを抜いた。


 大きな剣ばかり見ていたので、バンガネラのシャツの内側に差されていたナイフにおれはまったく気づいていなかった。


 バンガネラがおれの腹をへそから喉まで切り裂くつもりだったのは間違いない。


 それに対して、おれはあっぱれな態度を保って、一切びびらなかった。


 えっへん。誉めてよし。


 いや、正直な話、ビビったりするヒマも与えないくらい物事がはやく動いたからなんですがね。


 バンガネラがナイフの柄に手をやったのをちらっと見て、すぐ、おれの背後から黒い風が四回、びゅうっと吹いた。

 かと思うと、バンガネラの額にナイフが一本、胸に三本、鍔から小指一本分のところまで突き刺さり、仰向けにぶっ倒れた。

 しかも、額に刺さった一本はバンガネラがおれの腹にぶち込むはずのナイフだった。


 ここまでたったの三秒。ひえー。


 バンガネラがおっ死ぬと、その権力は瞬時に崩壊した。


 娼婦やペテン師たちが歯をむき出しにして呻り声を上げながら、残った六人の子分に襲いかかり、文字通り八つ裂きにしたのだ。


 あとで分かった話だが、バンガネラは稼ぎの六割をぶんどっていたらしい。それ以外にも何かと理由をつけて、カネや売り物をむしるし、娼婦はタダ乗りされるし。


 そりゃ、八つ裂きにされるわけだ。


〈窪地〉の住人がバンガネラたちの死体からカネになりそうなものをむしる様は養殖ウナギの池に餌を落としたときみたいなグロさがあった。

 その一方でバンガネラの財布をおれに捧げたり、アサシン娘たちが投げたナイフを丁寧に血をぬぐってから返してきたりするやつが現れて、おれを中心とした新しい権力体制があっという間に出来上がったのもエグい。


 結局、人間、自由を謳歌するよりも権力の傘の下に生きるほうが気楽ということだろうか。


 あの剣士はどうしてるかとまわりを見回すと、くだんの人物は帽子を拾って、無数にあるボロテントの一つに姿を消すところだった。


     ――†――†――†――


 そんなことを思い出しながら、席を立った。


「で、次はいつ来てもらいたい」


「勝手にしろ」


 レイルクは塩対応をしている――ように見えるが、これでも結構デレてきている。


 以前なら、もう二度と来るな、と言っているところだ。


 それに五行前に戻ってみてもらいたいのだが、おれは『席を立って』いる。


 つまり、座る場所が用意されているということだ。


 これまでおれが遊びに来ると、氷の世界にしろ、森林の遺跡世界にしろ、椅子は一つ。


 レイルクが座っている背の高い赤い椅子だけだった。


 ところが、今回はレイルクと向かい合う位置に切株があった。


 ダンジョンの最深階のレイアウトは全部レイルクが決めるから、おれのケツの落ち着き場所を設置したのも、レイルクの意志だ。


 ゴッドファーザー・パート2の最後のシーンのマイケル・コルレオーネみたいに孤高なはずのダンジョンの主だって、孤独を貫くのは難しいってことだな、こりゃ。


 ましてや〈窪地〉の住人たちはなおさらで旧い支配者が消えると、さっそく新しい支配者に身をゆだねようとする。


 で、ふと思うんよ。


 あの女剣士の孤独はどこまで深いものか。


 徹底的な自由は孤独にならなければ得られないものなのか。


 実に気になる。 


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