第十一話 死霊使い、葡萄の秘密。
その夜、カンツァンドルネの修道院跡地にドン・エットーレの姿が見えた。
ランプを片手に外にふたりの手下を待たせ、自分はかつて修道院だった黒い影のなかへとさっさと入っていった。
その放棄された建物には大きなカタコンベがあり、そこでは乾かした亡骸に生前の職業を思わせる服装をつけて保存する習慣があった。
司祭、道化師、農民、大工、軍人。
実験に使う死体の数には困らないし、それにサラザルガ地方全体は二百年前の内乱の中心地なのだ。
その名もサラザルガ戦争という二十年に及ぶ王位をめぐる戦乱があった。
死体はそこいらじゅうの土の下に埋まっている。
サラザルガ地方がうまい葡萄の産地であるのはそういうわけだ。
まったくドン・ヴィンチェンゾに『復活』の術のことを話さなかったのは正解だった。
ドン・エットーレはほくそ笑んだ。あの傲慢な都会者は生きている人間に不死を授けるだけだと思っていたのだろうが、ところが実際は既に死んだものたちを蘇らせる魔術が完成していたのだ。
ドン・エットーレは早速、ひとりの少女を地下の石の台に横たえた。
不思議とこの少女は乾燥により引きつりや猿みたいに歯が剥き出しになることもなく、少し肌の色が黄ばんでいるだけで、それ以外は生前のころの趣をそのままに残していた。
石板の説明によれば、彼女は十五歳で今から八十年前に流行り病で死んだのだった。
ドン・エットーレはいよいよその魔術をもって、少女を蘇らせようとする。
特殊な薬を注入すると、それが血液にかわって、少女の体をめぐり、新たな命、それも不死の命を与えるのだ。
少女が目を開けたとき、ドン・エットーレの喜びを表現するのは難しい。
ただ、彼はひとつ、大きな勘違いをしていた。彼は死者たちの救世主になったつもりでいたのだ。
だが、死者から見れば、彼は胴体のなかに様々なおかずを詰めたお弁当に過ぎなかった……。




