第二十八話 ラケッティア、年上のおねーさんは別腹。
ひでえ雨の後、雲がひでえ色になった。
血みたいに真っ赤なのだ。
街も真っ赤だし、部屋のなかも真っ赤だし、外の水たまりは真っ赤な穴みたいになってる。
街を探っていたトキマルが言うには、骸騎士団の幹部でトレボールという偉くめかしこんだ軍服みたいなもんを着てる洒落男が、あの爆弾騒ぎは自分とパブロ・ケレルマンが仕組んだと吹聴しているらしい。
それに街じゅうの情報屋がおれにネタを売りに来た。
そのなかにはたぶん真実と突いているものもあるだろうし、まったくのガセもあるだろうと思っていたが、それらを取捨選択すると、トレボールは団長と側近のクラウディアを殺って、骸騎士団を乗っ取るつもりらしい。
骸騎士団とケレルマン商会がツートップになって、グリードをさばく。
賭けてもいいが、この同盟は一週間ももたない。
仲間割れのにおいがぷんぷんするし、そもそも、このクソバカどもはおれのことをドン・モデストの邸で吹っ飛ばそうとした張本人なのだ。
こっちとしては調べる手間が省けた。
こんなふうにカミングアウトするのはクルス・ファミリーが報復しないという誤解したからだが、残念、ぶっ殺す。
それと情報屋が持ってきたネタで荒唐無稽なもんがあった。
骸騎士団の団長はまだ二十歳も越えていない枯れ葉色の髪をした若造だというものだ。
その情報屋が網を張っているのはモンキシー通りあたりだが、たまたまグラン・バザールの地下にパエリアを食いに行って、誰もいない空き部屋で寝転んでいたところ、話声がきこえたとのこと。
このネタ誰も買ってくれず、鼻で笑われ続けていた。
普通なら信じないが、さっきやってきたふたりの兄ちゃん、ひとりは枯れ葉色の髪をしていた。
ちょっと仮定をもてあそんでみる。
仮にさっきの兄ちゃんが骸騎士団の団長で、しかも異世界からやってきたやつだったら?
おれが麻薬以外のシノギで稼ぐが、向こうは麻薬でしか稼げないとしたら?
マフィアのボスになった少年犯罪の極みなおれから見ると、ちょっと興味がある。
ほら、やっぱ、さ、男は一度はきれーな大人のおねえさんに興味が湧くもんじゃないですか。
いや、あの子たちはかわいいし、いい子だよ。
でも、ほら、大人の魅力を前にしたチェリーのもじもじ。そこに別腹思考が働く。
こんな妄想バレた日には半殺しにされるから、口には出さんけど。
ただ、あのクラウディアっておねえさん、根性極まってたな。
いったい、どうやって二人は出会ったんだろう?
そのとき、クリストフが怪盗の姿でシュタッと上から降りてきた。
「おうわっ!」
「そんなに驚くなよ」
「驚くわ! 他人の部屋に入るときはノックぐらいしろっての」
クリストフは仮面を外すと、おれの部屋にある蠟引きの長椅子に深々と座り込んだ。
「なんかお疲れだな」
「ああ。ケレルマン商会に行ってきた」
「自称、カラヴァルヴァ一、イケてるギャングのケレルマンね」
「あいつらがこの街のグリードを独占するなら、やつの商会は絶好の仕事場だろ? それでちょっと探ってみたが――流血の大惨事だよ」




