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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
リュデンゲルツ地方 クルスの八百長ダンジョン編
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第九話 ラケッティア、騎士が青い。

 さて、例のパーティだけど、ジルヴァの報告書を読む限り、三人が目つぶしをくらったが、目薬で無事に治癒。


 今後、目薬を買い渋ることはなさそうだ。


 で、どのくらい儲けたかということなのだけど、ジルヴァによれば、三種類の素材を見つけたから金貨三枚は固いという。


「素材?」


 つまり、こういうことらしい。

 あのダンジョンにはスライムが出るが、これを氷の魔法で倒せば、凍ったスライムとして錬金術師あたりが買い取ってくれるそうなのだ。


 他にもおれからしたら、ただの色違いの岩の筋も魔法使いの研究に役立つ鉱石を含んでいることがあるし、モンスターを倒すと、そのモンスターの内部にとらわれていた精霊が解放され、お礼をくれることがある。


 そうしたものが重なって金貨三枚の稼ぎになるらしい。


 これはいい知らせだ。

 パーティが儲かったのだから、きっとこのダンジョンは儲かるとみて、第二、第三のパーティがやってくる。

 しかも、その儲け自体は冒険者たちが自分で勝ち取っている。


「しかし、素材か。このラケッティアリングにそんなうまみがあったとはな。おれはてっきり宝物を自分で仕込まないと駄目かと思っていたが。そうと決まれば、よし!」


 おれは帳簿とインク、羽根ペンをリュックサックにいれると、ほうれん草と卵を炒めて、そのフライパンを手にしたまま、ダンジョンへ入っていった。


 こないだ渡したメダルの効能で、ダンジョンの階層が地下四階まで掘り下がった。


「わっ、なんだ、こりゃ?」


 一面雪景色、いや氷景色。樹木のような氷の柱と何かが蠢く凍った水面。


 そして、氷でできた巨大なゴーレム? まあ、とにかくそんなボスクラスのモンスターもいる。


 そのゴーレムが、ああ、お前か、といった感じに指を差し、レオルクがいる場所を教えてくれた。


 レオルクは相変わらず、不愛想でこちらを見る目もゴミ溜めを見るようだ。


 だが、どんなふうに見ようと、結局はおれの好きな通りに物事が運ぶのだから、視線くらいは相手に勝たせないといけない。


「素材、だと?」


「そう。このダンジョンで採れる素材」


「そんなもの考えたこともない。人間が勝手に見つけていくだけだ」


「つまり、こっちで狙ってつくることができないってことか」


「訳の分からない話をきかせにきたのなら用は済んだはずだ。帰ってくれ」


「これ、食ったら、帰ってやる」


「なんだ、これは?」


「ほうれん草のスクランブルド・エッグだ。ビタミン取らんといけないよ、きみは」


「そんなもの必要ない」


「いいから、食えって。中身をそこらにぶちまけても無駄だぞ。食うまで通い詰めてやる」


 レオルクはため息をついて、卵を一口食べた。


「どうだ?」


「冷たい」


「そりゃ、こんな氷のなかだからな。温めればうまいぞ。ほら、指から火とか出してみろって」


 その火は限りなく黒に近い紫色だったが、まあ、卵と温めるのに火の色なんか関係ない。


「で、どうだ?」


「……」


「感想言うまで帰らんぞ」


「……それなりに食べられる」


「それでちっとは顔色もよくなるだろ。じゃ、おれは帰る。食べ終わったフライパンはきちんと洗っておいてくれ。今度来たとき持って帰る」


     ――†――†――†――


 三日後、また新しいパーティがやってきた。

 一言で言い表すなら、青!


「青騎士党? きいたことがないな」


「主に南部で活動をしていました」


 おれの前にカウンターを挟んで座っているのは、その青騎士党の代表を名乗る人物でエルネストに似ていた。ただ、こっちは眼鏡をかけていて、髪の色が濃い。


 そのパトリックという男の他に青騎士党のメンバーと思われる男女が十人、テーブルについて、おれとパトリックのやり取りを観察している。


「わたしたちは錬金術の極意を通して、世界の真理を認知すべく、あちこちのダンジョンを旅していました。このたび、この土地での活動を行いたいのですが、このあたり一帯を所有しているクルス氏にお会いしたいのですが」


「ああ、それ、おれの伯父です。言伝があるなら、伝えますが?」


「できれば、ご本人とお会いしたい」


「じゃあ、そこでちょっと待っていてください」


 そういえば、最近、ゴッドファーザー・モードになってなかった。厨房の隠し戸棚にある薬をキッチンドリンカーのごとき卑しさでぐいとあおる。


 変身したおれはのそのそとカウンターに現れ、パトリックを厨房に手招きした。


「クルスだ」


「パトリック・デ・レイモンです。よろしく」


「甥の話では錬金術師の団体を率いているとか」


「はい。わたしたちがここでできることについて、お話ししたいのです」


「錬金術師だが、帯剣をしているな。ロングソードか?」


「ええ。俗に言う魔法剣士です」


「きみたち全員がそうか?」


「わたしたち全員がそうです。魔法と剣術の双方に長けた魔法剣士という職種こそダンジョンを探索するのにふさわしいのです。攻守や補助の立場を柔軟に変化させることができますから」


 それって、一歩間違えれば器用貧乏――。


 まあ、いっか。最悪、救護テントで目が覚めるだけだし。


「冒険がしたいのなら、剣を抜き、ダンジョンへ入ればいい。それ以外に何かがある。それで、わしを呼んだのだろう?」


「このダンジョンで発見された素材の買い取りをさせていただきたいのです」


 なるほど、それは悪くない。


 わざわざ素材を売りによその町までいく時間が消える。

 その分、パーティは冒険に励むことになるだろう。


「それに素材を生かしたアイテムの製造と販売」


「結構」


「そして、そちらの希望する取り分を教えていただきたい」


「土地の使用料として、三十平米の大きさの施設一つにつき月に金貨一枚。プラス買い取った素材の値段の百分の一、販売したアイテムの額の五十分の一を納めてもらおう」


 パトリックは爪を噛もうとして青い手袋を噛んだ。

 見た感じでは、施設の家賃には納得がいったが、みかじめに納得がいかないらしい。


 つまり、それほど大がかりな額を動かすつもりでいるのだろう。


「売上ではなく、収入から支払うわけにはいきませんか」


「いやなら、他のダンジョンをあたるといい。ちなみに、紅の剣士団という輩はこの倍の額を呑むと言っている」


「紅の剣士団? やつらが、すでにここに?」


 パトリックは驚いた。


 そして、それ以上におれのほうが驚いた。


 緑のタヌキがいるなら、赤いキツネもいるかもしれないと思ってつけた適当な名前だったが、ドンピシャだったらしい。

 しかも、きのこの山派とたけのこの里派くらいに仲が悪いらしい。


 事実、あんなに穏和だったパトリックの表情は今や異端審問官の怒りに燃えていた。


「分かりました。クルスさん。その条件で結構です」


 一応、釘を刺しておいた。


「言っておくが、わしはここで誰かの独占市場を許すつもりはない。この土地で独占が許されるのは、わしだけだ」


「つまり?」


「もし、紅の剣士団がここで同様の事業を始めると言ったら、わしは止めるつもりはない」


「それで結構です。事業で打ち負かします。わたしたち青騎士党があのような愚かな偶像崇拝者に負けるわけがありませんからね」


「では、協定成立ということで」


 と、手を差しだす。パトリックは強く握り返した。

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