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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
リュデンゲルツ地方 クルスの八百長ダンジョン編
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第八話 ラケッティア、仕込みは上々。

 おれは確かにマフィア・オタクだが、RPGロープレを全くやらずに生きてきたわけではない。

 人並みにドラクエやFFをやってる。


 そして、そうしたロープレをやっていると、パーティの仲間と一緒に宿屋にとまり、その食堂でこの次に冒険するダンジョンのことを話しながら、揚げたじゃがいもをつまんだり、ワインで酔っぱらったり、イカサマポーカーをしたりといったわちゃわちゃに、ちょっとした憧れを抱くこともある。


 まあ、おれの場合、パーティ・メンバーとしてではなく、宿屋のオヤジとして、その光景に参加することになった。


 そのパーティーのメンバーは五人、平均年齢二十代半ば、軽装の剣士、デカい盾を持った重装備の剣士、魔法使い、回復を司るらしい聖職者、それに盗賊。


 バランスの取れた編成で、剣士二人が盾になり、魔法使いと聖職者が援護、盗賊は宝箱の解錠やダンジョン内に目印をつけて位置を把握するなどのオールラウンド。


 五人にはとりあえずエールと何かつまめるものをつくった。


 聖職者は明らかに十八を超えていないし、未成年の飲酒については苦い思い出があるが、まあ、この世界、十六くらいから飲酒は普通になるらしい。

 ウェストエンドでは八歳の子どもがビールをジョッキで頼み、口についた泡をなめながら、このために生きてるとかほざいていた。


 エールのほうはツィーヌにもっていかせて、おれは厨房にて、ニンニクで卵とベーコンを炒めた。


 この旅籠、大人がいない。労基に見られたら、児童就労で一発アウトだろうが、まあ、この世界、そこまで労働者を大切にしているとは思えない。


 厨房ではジルヴァが隅のテーブルで、だいぶ前から暗殺用の短剣の手入れをしていた。

 大きなものだと刃渡りが山刀なたくらい、小さなものはダーツの針くらい。


 他にも十字の鍔のついたものや、塗り込んだ毒が長持ちするよう溝を刻んだもの、刺さったら抜けない恐ろしい形の手裏剣もどきなどいろいろあって、ああ、おれ、アサシンギルドのマスターやってたんだなあと思い出させられる。


 と、思い出させられているあいだに卵とベーコンが焼けたので、サラダの鉢と一緒に出す。


「お待ちどうさま」


「おお、はやいな、坊主」


 いかにも大食いそうな重装備の剣士が嬉しそうに手をこする。


「そりゃあ、うちは、はやい、やすい、うまいが売りなもんで」


「工事をしてるけど、泊まれる部屋はあるの?」


「二部屋なんとか修理できてます。一泊大銀貨二枚」


 大銀貨は補助貨幣で、銀貨三枚の価値がある。一枚につき1500円だ。


 部屋の相場はそんなところでいいらしく、不平を言う声はない。


「それとお客さん。目薬を買っていったほうがいいですよ」


「目薬? 治療なら、もう、聖職者がいるから別にいらないよ」


「そうですか」


 ツィーヌは自分のつくった目薬以外にあの毒を解毒できるものはないと言っていた。

 まあ、そういうわけで、目薬はまたの機会。毒については体で覚えてもらおう。


 あ、ちょっと待てよ。


「実はこの上に修道院が救護テントをつくってるんですよ」


「へえ。気の利いたもんがあるんだな」


「はい、ダンジョンでどえらい目にあった人たちを保護するためのものなんですがね、早速一人患者がいて、やっぱり毒に目をやられてるんですが、解毒がうまくいかないみたいで」


「シスターたちがいるのに?」


「ええ。そうなんス」


 聖職者の少女はちょっと行って、診てくると席を立った。


「へー、やさしい人なんですねえ。困った人は見過ごせない。いいですねえ」


「セシリアの場合、気にしすぎなところもあるけど」


「こんな世の中ですもの。優しすぎる人間が一人はいたってバチはあたりませんよ」


「そうかもしれないな。エールおかわり」


 しばらくして、聖職者のセシリアが戻ってくる。浮かない顔だ。


「わたしの魔法は効きませんでした」


 他の四人がほんとか?とどよめく。


「特殊な毒なようです。時間が経てば、効果は薄れて、治せるそうですが」


「ダンジョンのなかでそんなもん食らったら、えらいことだ」


「全員まとめて救護テントの世話になるかもな」


 五人は顔を寄せ合って、ひそひそ話している。


 おれはというと、シメシメと思いつつ、厨房で赤ワインと香辛料で味付けた鶏のスープを煮込んでいた。


「おーい、店主さん!」


「きたきた。ジルヴァ。この鍋、頼めるか?」


 ジルヴァがこくんとうなずいたので、いそいそとテーブルへ向かう。


「何かご注文で?」


「さっきの目薬なんだけど、人数分もらえるか?」


「一枚につき銀貨三枚になりますが」


「大銀貨でもいいか?」


「はい。まいどあり」


 リポビタンDくらいの大きさの陶器の瓶にコルクで封をしたものが銀貨三枚。

 しかも、原料はツィーヌが森から拾ってきたキノコだから原材料費はタダみたいなもの。

 おまけに彼らは瓶をダンジョンで使い捨てるだろうから、それはモンスターに回収させて、再利用。


 とはいっても、儲けはたったの銀貨十五枚。


 すでに金貨四千枚をぶちこんでいるところから考えると、ちっぽけな利益だ。


 でも、今回のラケッティアリングは長い目で見ていく。


 あの崖から見た谷を店や家が埋め尽くすようになるのが目標だ。


「ね、ね。ジルヴァ、ジルヴァ」


 厨房に帰り、鍋をまわすジルヴァに小声で持ちかける。


「あのパーティなんだけど、ダンジョンのなかで気づかれずに尾行できるか」


 こくり。


「じゃあ、尾行を頼む。それとモンスターが強すぎるようなら、手加減するように手をまわしてくれ。あのパーティは生還させたい。ただ、レイルクまで行きそうになったら、手加減はいらない。ぶちのめして、救護テント送りにしていい。つまり、ジルヴァに課す任務はあのパーティを地下二階まで行かせて、そこから生還させること。全部、隠密裏だけど、できる?」


 こくり、こくり。


「さすがクルス・ファミリーの隠密番長。では、よろしく。あ、スープはもうおれがやるからいいよ」


 よし、これで決まった。

 地下二階から帰還だ。


 あのパーティは食事を待ちながら、戦いのときの陣形とか敵の出方についてとかを一生懸命論じ合い、考えているけど、彼らの命運は彼らのために鶏の赤ワインスープを煮込んでいるコックさんの一存で決まる。


 え? それは夢がないって?


 それが、八百長ってもんです。

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