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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ バイバイ・ドラックロード編
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第四話 ラケッティア、永世中立クルス・ファミリー。

 ヤクの縄張りに関する話し合いを骸騎士団としたいから、おれに、というよりヴィンチェンゾ・クルスに仲介役をしてくれという要請が来た。


 骸騎士団は全部の商会を敵にまわしているし、警吏や判事はカネ次第でどうとも転びそうであてにならない。で、中立なのはクルス・ファミリーだけ。


 別にやってもいいけど、というより、ヤクから身を引いているマフィアの長老が殺し合うガキどもに忠告垂れるようなシチュエーションも悪くないと思うけど、それでも各商会と骸騎士団にはおれの顔に泥を塗るような真似だけはするなよと念を押しておいた。


 中立というのは平和憲法つくっておけば自動的に守れるものではなく、おれのことコケにしたら後が怖いぞという脅しがあって初めて成立する。

 もし、商会か骸騎士団のどちらかが、おれの中立をいいことに相手を殺そうとケチな待ち伏せなんかしたら絶対に許さない。

 もちろん商会側がそれを逆手にとって骸騎士団の仕業に見せかけておれを抗争に巻き込む、ってこともやるかもしれないし、その逆もあり得るが、こっちは諜報戦専門の忍者が二人いるし、ジルヴァはどこにでも忍び込めるし、ツィーヌの自白剤は天下一品だ。

 つまり、下らん陰謀考えたところですぐにバレる。


 そのこともきっちり伝えておいた。


 誰でも参加してもいいけど、連れは一人だけ。

 場所は〈ちびのニコラス〉の食堂。


 テーブルにはカノーリ、果物、水、それにワインを置き、ゴッドファーザー・モードで約束の時間になるのを待った。


 ガッタン、ドンドン、ガッタン。


 なんか〈モビィ・ディック〉から音がするなあ。


 降りて見れば、アサシン娘たちがいつもの黒一色メイド服風アサシンウェア姿で椅子取りゲームをしていた。


「……ちみたちはなにをしとるのかね?」


「見ての通り。椅子取りゲームだよ」


「椅子取りゲームってのは椅子に座るゲームであって、椅子で相手の命をとるゲームじゃないぞ。とりあえず、みんな手に持ってる椅子をいったん下に置け――で、なんで、椅子取りゲームなんかしてるの?」


「だって、マスターのお手伝いがしたいのです」


「おれの手伝い?」


 任意の事情聴取から分かったのは、この子たち、やってきた商会のボスたちを応対する役の取り合いをしていたらしい。


 つまり、ボス連中が来たら、


1.馬車のドアを開ける。

2.『ようこそ、いらっしゃいました、マスターが上でお待ちです』っていう。

3.会議のあいだ、おれの後ろにつく。


 それを血も涙もない冷酷なアサシン少女の役にはまり込んでやりたい。

 こう、個性が死んじゃった、ちょっとかわいそうにも思えるアサシン少女のふりをしたいのだ。


 ところが、役職は三つ。

 アサシン娘は四人。


 ということは、誰かひとりがスカを引く。


 アズマにいたあいだ、ずっとおれと一緒にいたということでジルヴァに貧乏くじを引かせようという考えもあったのだが、逆の立場になることだってあり得るのでやめたらしい。


「でも、馬車のドアは馬車に乗ってる馭者なり召使いなりがやるぞ」


 これで椅子の数は二つに減った。


「それに役職のひとつはヴォンモに譲ってやれ」


「えー」


「師匠でしょ。我慢しなさい」


「ぶー」


 これで椅子はひとつになった。


 もう四人は椅子を手にもって棍棒みたいにふりまわす気満々だ。


 待てよ。今回の会議ではおれは仲介者としての能力を求められている。

 ここで前哨戦を勝利で飾るのも悪くはない。


「じゃあ、こうしよう。今回の会議にはレリャ=レイエス商会、ケレルマン商会、オルギン商会、んで骸騎士団が来ることになってる。会議のあいだ、おれの後ろにいる役はヴォンモに譲って、あとは出迎えを四人で分担する。もちろん、全員一度に食堂に呼んだんじゃつまらないだろうから、それぞれの組織は〈モビィーディック〉や東棟一階の大部屋、西棟の三階の花壇置場と別々の場所に案内し、全員がそろったら、食堂まで案内してくれ。これでどうだ?」


「あう。アレンカは師匠なお姉さんなのです」


「まあ、花道は愛弟子に譲るとしよう」


 ツィーヌとジルヴァもそれでいいとのこと。


 ファミリーは内部抗争の危機を乗り越えた。

 カラヴァルヴァじゅうのヤクをめぐる縄張り会議があと一時間もないところでだ。


     ――†――†――†――


 まったく。

 開催にあたっての校長先生のお言葉みたいなことをしようとしたが、ぜんぜんだ。


 開始早々怒鳴り合い。構図としては、


 レリャ=レイエス商会

 ケレルマン商会       VS     骸騎士団

 オルギン商会


       【中立!】クルス・ファミリー【中立!】


 と、こんな感じだ。うんざりだぜ。


 三つの商会は自分たちの縄張りでグリードを売るな、売りたいなら誠意を見せてグリードの製法を教えろ、と来てる。


「時間とカネをかけてつくってきたシマを新参者に好きなようにされてたまるか」


 ドン・モデスト・レリャ=レイエスが言った。


 パブロとカルロスのケレルマン兄弟、エグムンド・オルギンも同意見らしい。


 この三つの商会はヤク以外に賭博と売春、密輸で相当儲けているはずだが、この怒り様を見ると、ヤクから上がる儲けはおれが考えていたよりもずっと多かったようだ。


 それにグリード自体が出回ることには賛成だし、可能なら自分たちで独占したいとも思っている。


 その強欲グリードぶりはマフィアのボスとしては百点満点だな。


 でも、こいつらはおれが用意したワインやカノーリに手をつけなかった――骸騎士団が寄こしたねーちゃんが手をつけるまで。


 そう、骸騎士団は女幹部を寄こしてきた。

 これが三つの商会の怒りの炎に油を注いだ形になったが、当の女幹部はそんなもの一日経ったゆたんぽみたいにぬるいと言わんばかりの顔をしている。


 見た目はこう、やり手のキャリアウーマンだけど根性もすげえ。

 街じゅうの人間から恐れられてる商会のボスたちがかわるがわる食ってかかるのを淡々と落ち着いて返答し、骸騎士団としての立場を明確にしている。


 骸騎士団は元騎士や傭兵で構成されているが、このクラウディアってねーちゃん――といっても、おれよりずっと年上だろうが――は魔法使いに見える。薬草とか錬金術とか。


 怒鳴り合いが少しおさまりかけたところで、おれの意見を言った。


「治安裁判所の考えを推測してみようか? やつらはあんたたちが平和共存するのを望んでいる。三つの組織よりは四つの組織からのほうがもらえる袖の下が増えるからな。やつらは賄賂の額を跳ね上げて、天秤にかけさせようとするだろう。つまり、やつらは抗争の激化を望んでいない。抗争が長引けば、いずれ治安裁判所とぶつかることになるし、もっと最悪なのは聖院騎士団が本腰を入れることだ。そうなれば、ヤク以外のシノギにも影響する。わしはこれから今の時点では誰も食いつかないが、最後にはこうするしかない解決策を提案しよう。まず、三つの商会はそれぞれ縄張りの一部を提供して、骸騎士団にグリードをさばかせる。骸騎士団は割譲された縄張りでの各売上から一部を三つの商会に上納金として納める」


「ドン・ヴィンチェンゾ。それじゃ死んだものが浮かばれん」


「ドン・モデスト。死んだものはどうやったって浮かばれん。わしらはとっくに地獄行きが決まった人間じゃないか。なら、地獄に落ちるまでのあいだに生きているわしらがいまを楽しまねば。それには妥協が必要だ。ミス・クラウディア。あなたもこれには賛成しかねるかね?」


「せっかくですが、ドン・ヴィンチェンゾ」


「じゃあ、話はお開きだ」


     ――†――†――†――


 全員が帰った後、おれはヴォンモにきいてみた。


「どう思った?」


「すごい女の人ですね」


「あの、クラウディアって人ね。よっぽど肝がすわってるか、カンフーの達人か。まあ、骸騎士団はタフな交渉役には事欠かないらしい」


「でも、マスター。このまま殺し合いが続くと思いますか?」


「そりゃ続くだろう。どっちも力ずくでヤクの市場を独占できると思ってる。おれとしては、あの仲介案を飲む準備ができるまで、どんな話し合いの仲介もしない。それにしても、やつらは忘れてるな。天空にかかる不吉の星、ヤクの売人のネメシス、サアベドラ・アンド・ザ・〈インターホン〉を。やつらの抗争が血の雨を降らせるなら、あの二人が降らせるのは直径三十センチの血の雹だ。ほんと、ヤクなんぞシノギにするもんじゃない。つーか、〈インターホン〉のいまの状態はどうなってるの?」


「え、と。うまくいってるみたいですよ」


「それって友だち以上、恋人未満ってこと?」


「そ、そうかもしれません」


「売人殴る以外のやり方でデートができればいいんだけどなあ」


「うーん」


 残り物のカノーリはゴッドファーザー・モードの年寄りの胃にはずんときた。


 恋はカノーリのように甘く、とは行きそうにない。まいったね。

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