第三話 ラケッティア、帳簿見て驚く。
この世界は一つの大陸でできている。
いくつか島国もあるが、ほとんどの国はこの大陸にある。
ちなみに大陸に名前はない。この世界には大陸は一つしかないので、大陸といえば、自分たちがよちよちあんよで立ってるこの地面のことを指すのだ。
そんな世界でもアルデミル王国はなかなか栄えた国であり、その王都アルドは王国の政治・経済・文化の中心地で世界有数の大都市なのだそうな。
ここまでは眠たくなる地理の話。
本題はこれからだ。
大都市というのはカネが集まる。
そして、カネが集まるところに貧富の差がある。
貧富の差は貧民街をつくり、貧民街には犯罪者が集まる。
泥棒、詐欺師、ギャンブラー、娼婦、殺し屋、高利貸し、誘拐魔、汚職役人。
そして、よりカネを儲けたいと思った悪党たちは徒党を組む。
組織犯罪の誕生だ。
そうやってできたのが、盗賊ギルドであり、賭博ギルドであり、暗殺者ギルドなわけだ。
で、我がギルドなのだけど、帳簿を見せてもらったが、どうしようもない赤字。
校内トトカルチョの元締めをやるときに勉強した複式簿記の知識がなくても分かる。
こいつら、まったく仕事を受けていない。食費だの薪代だのでお金は出ていく一方なのだ。
殺る気がないわけではない。むしろ自分たちの暗殺術を思う存分発揮したくてウズウズしている。
じゃあ、なんでこんなことになったのかと言えば、理由は簡単。
彼女たちは暗殺以外は何もできないのだ。
アサシンギルドは犯罪組織だ。たとえ、仕事を暗殺に限定したとしても、他にもいろいろとやることはある。カネで買える役人を見極めたり、情報屋を飼ったり、万が一警察に逮捕されたときの弁護士費用のために収入の一部をプールしておくとか。
映画のなかでは違うかもしれないが、本物のマフィアは賭博、売春、麻薬、それに合法企業への投資や労働組合に寄生してカネを儲けるが、殺人でカネをもらうことはない。殺人は自分たちの金儲けの邪魔になるやつを消す手段であって、収入源ではない。
いざというとき、引き金を引ける人間は必要だが、それ以上に重要なのは引き金を引けて、さらに金儲けがうまい人間だ。
振り返れば、このギルドは逆だ。
暗殺だけが収入源なのだ。
で、いま、組織として機能不全を起こしている。
このギルドを立て直すためにおれがすべきことは暗殺以外の収入源を得ることだが、いかんせん軍資金がない。
家じゅうひっくり返す勢いで探して見つかったの大きな銀貨一枚。
これがギルドの全財産。
ティアルデン銀貨と呼ばれていて、一ティアルデンは日本円で換算して三万円に相当する。
ここが高校ならレート三十円の大貧民大会で寺銭を稼いだり、秀才の宿題の写しを空売りしたりするところだが……。
「マスター。本当にお金増やせるの?」
勝気ツンデレが不安そうな顔。見れば、他の三人も同じく表情が暗い。
そりゃそうだ。
こいつら四人、殺すこと以外のことは知らず、ろくにメシも食えずに、そろって食堂でぶっ倒れていたのだ。前任のマスターがギルドを投げ出して以来、突然自由を与えられて、その大きさに途方に暮れ、不安の日々を送ったのだ。
もう二度とそんな思いをしたくないに決まってる。
「まあ、なんとかなる。まかせろ」
最初の目標。一枚の銀貨。これを十倍に増やす。
もちろん、闇商売でだ。