表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アズマ ラケッティア天下統一編
395/1369

第八十九話 会話劇、〈ガレオン〉にて。

【ヴォンモ】「あ、師匠。見てください」

【マリス】「うん?」

【ヴォンモ】「イヴェス判事たちがあそこの席に」

【マリス】「あ、ほんとだ。ボクら尾行されてたかな?」

【ヴォンモ】「そういう様子ではなかったですが」

【マリス】「でも、賄賂取らないイヴェスの甲斐性で四人分のここの勘定を持てるとは思えない。聖院騎士団のおごりと見た」

【ヴォンモ】「なんだか世知がらいですね」


【ギデオン】「おや?」

【イヴェス】「どうかしたか?」

【ギデオン】「先生、見てくださいよ。クルス・ファミリーのマリスとヴォンモがいますよ」

【ロランド】「なんだって?」

【ギデオン】「おっと。立ち上がらないでくださいよ。せっかく見つけたのに逃げちゃうじゃないですか。それより――」

【イヴリー】「……」

【ギデオン】「この人、大丈夫なんですか? さっきからパンケーキ相手に押し黙ってますけど」

【ロランド】「気にするな。彼女はパンケーキ仲間なんだ」

【ギデオン】「聖院騎士がパンケーキ・カルトにハマってるんですか? 採用基準はどうなってるのやら」

【ロランド】「性悪な治安判事助手は取り除けるシステムになってる。問題ないだろ? それにしても、あいつら、なにを話してるんだ?」

【ギデオン】「マリスがいるんですよ。殺し以外になにを話すんです? ね、先生?」


【ヴォンモ】「これは間違いないことですが――」

【マリス】「うん」

【ヴォンモ】「ジャックさん、間違いなくピクルスが嫌いです」

【マリス】「ほんとに?」

【ヴォンモ】「おれ、見たんです。ジャックさんがすごく嫌そうな顔をしてサンドイッチからピクルスをフォークで取り除くのを。その後、ピクルスと密着していたハムを洗い、レタスを洗い、パンを洗ったら、ぐしゃぐしゃになっちゃって、で、結局、自棄を起こして、ずぶぬれのサンドイッチをまるまる油で揚げて出したのが、新メニューのフライド・サンドイッチです」

【マリス】「あの魅惑の新メニュー誕生の裏にそんな話があったとは」

【ヴォンモ】「意外ですよね。食べ物の好き嫌いはなさそうに見えますけど」


【イヴェス】「そろそろ会食の目的について話そう」

【ロランド】「そうですね」

【イヴェス】「この三か月、イドや〈蜜〉とは違う、新手の麻薬がカラヴァルヴァで流通している。小さな光沢のある丸い玉の形をしていて、色は青みがかった緑。グリードの名前でさばかれている」

【ギデオン】「既存の〈商会マフィア〉はグリード密売には絡んでいません。それどころか、彼らがさばくイドや〈蜜〉と競合しています。新しい組織なんですよ。それが古株の組織とぶつかって抗争が起きてます。聖院騎士団としての意見を先生はきくべきだって言うんです。ぼくはそんなの必要ないと思うんですけどねえ」

【ロランド】「……聖院騎士団でも、その動向を注視しています」

【ギデオン】「へー」

【イヴェス】「ギデオン」

【ギデオン】「すみません、先生」

【ロランド】「新組織は『骸騎士団』と呼ばれています。カラベラス街の暗殺組織『骸党』との関連は不明ですが、おそらく無関係です。騎士団のほうの骸は構成員が元軍人。世界じゅうのあちこちで起きている戦争の食いはぐれた傭兵や盗賊みたいな騎士たちがあちこちで立ち上げた麻薬組織のひとつです」

【イヴェス】「続けてくれ」

【ロランド】「情報提供者がいない以上、詳細は分からない。裏切りに対する報復は過酷で容赦がない。誰も組織の秘密をもらそうとはしない。ただ、おれが気にしているのはクルス・ファミリーの態度です」

【イヴェス】「彼らは麻薬は扱わない」

【ロランド】「その通りです。だから、普段の商売に骸騎士団の邪魔は入ることはない。ただ、骸騎士団はクルス・ファミリーの市場や劇場でもグリードをさばいている。クルスはそれを容赦しないでしょう」

【イヴェス】「(うなづきながら)それにヴィンチェンゾ・クルスと甥の来栖ミツルは国外に出ている。何人かのメンバーも一緒で、なかには怪盗クリスも含まれている」

【イヴリー】「怪盗クリス!」

【ギデオン】「わ、びっくりした」

【イヴリー】「クリスがどうかしたのですか?」

【ロランド】「国を出ているという話だ」

【イヴリー】「ああ、そのことですか。確かにクルス・ファミリーのボスとナンバー・ツー、それに主要メンバーが数人、カラヴァルヴァにいません。でも、ヴィンチェンゾ・クルスがグリードをめぐる状況をどう考えているのかは分かります。〈インターホン〉の通称で知られているメンバーが魔族の人間のハーフであるサアベドラとともに密売人潰しに躍起になっています。最初はイドや〈蜜〉が狙いでしたが、最近はグリードをさばく密売人が頻繁に潰されるようになりました。クルス・ファミリーの麻薬に対する態度は微塵も変わらないことを内外にアピールすることが狙いでしょう」

【ギデオン】「パンケーキ・カルトも脳みそまでパンケーキにされるわけじゃないんですねえ」

【イヴリー】「頭脳がパンケーキだなんて最高じゃないですか」

【ギデオン】「ぼくは遠慮したいですね」

【ロランド】「おれもだ」

【イヴェス】「ともあれ、現状では市内の麻薬市場が塗り替えられつつある。各商会のボスたちはヴィンチェンゾ・クルスの帰還を待ちわびている。おそらく抗争に有利な形で参入させる気だろう。だが、各商会だって麻薬は扱っている。それを考えると、共同で行動を取るとは言いづらい。結局、クルス・ファミリーは麻薬に対しては新旧問わず我が道を行くだろう。そして、問題は情報の少なさだ」

【ロランド】「そのことなんだけど――おれは骸騎士団に潜入してみようと思ってます」


【ヴォンモ】「なんだか深刻な顔して話し合ってますね」

【マリス】「おごるつもりが財布を落としたことに気づいたみたいな顔だ」

【ヴォンモ】「食い逃げでもする気でしょうか?」

【マリス】「ギデオンはともかく、イヴェスと聖院騎士たちはしないだろう。プライドがあるから――女の聖院騎士が言ってるな。ダメです、絶対にダメですって。なるほど、食い逃げか。ふーん」


【イヴリー】「ダメです。絶対にダメです。危険すぎます。アストリットさんだって、きっと反対します」

【ロランド】「もともと、おれは潜入の腕を買われて聖院騎士団に入ったようなもんなんだ。朝飯前とは言わないが、しくじらない自信がある」

【イヴリー】「……わたしにできることはありますか?」

【ロランド】「つなぎ役をしてもらいたい。おれときみ、きみと治安裁判所。共同捜査だ。ただし、ここにいるイヴェス判事以外に情報を流すな。たぶん、治安裁判所には骸騎士団に買われた警吏がかなりいるはずだから」

【ギデオン】「大丈夫ですよ。やつらにばれても、生きたままバラバラにされるだけです」

【イヴェス】「ギデオン」

【ギデオン】「すいません、先生」


【マリス】「あれ? 勘定払ってるぞ」

【ヴォンモ】「財布が見つかったみたいですね」

【マリス】「残念だなあ。聖院騎士の食い逃げなんて一生に一度見られるかどうかの一大喜劇なのに」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ