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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
リュデンゲルツ地方 クルスの八百長ダンジョン編
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第四話 ラケッティア、インフラを整える。

「ガーッハッハッハッハ! 笑いがとまらんわい!」


 オークションの結果、地元の名家同士の結婚式があるとかで、三つのルミス石は花嫁の結婚指輪を飾るべく、金貨3122枚で落札された。

 それにルックヴィルがおれたちをだまくらかそうとしたことは秘密にしてやるかわりにやつの取り分を五パーセントに削ってやったので、こっちに入る分は手数料差っ引いて、金貨2965枚と銀貨54枚。

 日本円にして8900万弱。利益が1697万7千円。


 宝石転がしただけでこの額か。

 なんというか、日本にいたころには理解できなかった金持ちがさらに金持ちになる仕組みを垣間見た気がする。


 もちろん、ここで満足していたらゴッドファーザーにはなれない。


 で、翌朝のこけこっこー。


 あのダンジョンを金の生る木にする努力は続けられる。

 評判は立てたから、今度はインフラだ。


 要するに、ダンジョンでボコボコにされた冒険者たちを収容し、治療を行う施設が欲しい。

 それも無償の奉仕だ。


 なわけで、昨夜のきらびやかなオークション・ハウスから一転、今度は街で一番みすぼらしい女子修道院へ。


 すると、おお、町はずれのさびれた土地に、要塞の出来損ないみたいな修道院が立っているではありませんか。


 なんで、街で一番みすぼらしい女子修道院へ行かねばならんかというと、きれいで大きな大聖堂にはカネに汚い腐った聖職者しかいないからだ。

 無料施療所に必要なのは、世のため人のためならこの身も神に捧げる殉教者志願者だ。


 その点、この修道院は合格。カネがないのは一目で分かる。

 ステンドグラスの割れた部分は色を塗った鉛板で塞がれ、修道女たちは畑で鍬をふるい、養魚池で網を引っぱっている。


 ここにはくそ清らかな乙女たちがいるわけだ。


 ここはツィーヌの薬を飲んで、ゴッドファーザー・スタイルで行くことにした。


 役柄としては妻に先立たれて以来の男やもめで、引き取り手がいなかった孤児を四名、実の娘のように大切にしている篤志家だ。


「だから、今回はあのアサシンウェアはなしだ。ほら、それっぽい服用意してきたから、お前ら、全員、あどけない世間知らずのお嬢様になれ」


「えー」

「アレンカはあれが着たいのです」

「はんたーい」

「……」


 四人の抵抗は予想された通りだったが、マスター命令を乱発し、一人ずつブラウスと黒のドレスに着替えさせる。

 ジルヴァは意地でも覆面を取らないつもりで、さんざん手を焼かせたが、マスター命令を三十発くらいぶち込んでようやく覆面を引っぺがせた。


 馬車を修道院の前で止め、四人を引き連れ、修道院へぞろぞろ歩く。


 そのあいだも段取り、というか注意事項をしっかり言い聞かせる。


「いいか。マリス、一人称ボクはなしだ。それに男言葉は封印。アレンカ――はそのままでいいとして、ツィーヌ、ツィーヌはもっと大人しそうにしろ。バカじゃないのとか、アホじゃないのとか、絶対言うなよ。ジルヴァは――しゃべらなくてもいい。そのまま、恥ずかしそうにうつむいてくれればいい。それと、あの目、禁止。あの冷徹アサシンそのものみたいな目は絶対するなよ。シスターたちが、お前らのこと悪魔に取りつかれたと勘違いして、悪魔祓いにかけるからな」


 ノック用のリングがあったので、それで扉を叩く。


 出てきたのは垂れ目気味のちんちくりんのシスターで、なんの御用ですか、とたずねてきた。


「修道院長さまにお会いしたいのですが」


「ご用件を伺っても?」


「はい。この修道院への寄付をしようと思いまして。ほんの金貨三千枚ほど」


「はあ」


 はあ……はあっ?


 金貨三千枚寄付するってのに、はあ? しかいうことねえのか?


 あー、あれだ。額がデカすぎて、実感がねえんだ。よーし。


「とは言っても、大金ですからね。今、持ってきたのは金貨三百――いや、三十枚でして」


「はあ」


 また、はあ、かよ? こいつら、銀貨以上のカネに触ったことがないのかもしれねえな。貧乏修道院だし。


「とりあえず、院長さまにお会いになってください」


 はい。とりあえず、院長さまにお会いします。


 さて、街一番のみすぼらしい修道院、のはずなのだが、なんというかこう、みすぼらしさよりも味気ない頑丈さが目立つ。


 鉄枠のはまった長椅子、岩から切り出したような説教台、鋼の燭台。

 築城家が設計図面を引いたんじゃないかと思うくらい頑丈そうだ。


 まあ、確かに貧乏な修道院なら、ものがいちいち壊れて修理にカネをかけるよりもはじめに丈夫なものを一点買ったほうが長い目で見れば、カネはかからない。


 修道院長は恐ろしく背の高い婆さんで、腰に巻いた縄から大きな鍵がいくつもつながった鉄の輪を下げている。

 聖職者というよりは軍人みたいな威圧感が出てくる。


 なんというか、おれはもっとこう、穏やかに微笑む上品な婆ちゃんを想像していたのだが、彼女をこの地上に遣わした神さまには別の意志があったらしい。


「花嫁修業に来るなら、もっといい修道院がありますよ。ここは神に身も心も捧げる覚悟を持ったものだけが――」


 何言ってんだ?


「……ああ、失礼。最近はめっきり減ったのですが、よその修道院がいっぱいなのか、うちで花嫁修業をさせようとする方がいましたもので」


「いえ。この子たちを預けに来たのではありません」


「まあ。シスター・ヨハンナはまた取り次ぎの用件を伝え忘れたのですね」


「いえ。こちらも突然来たもので」


「それで、御用件は?」


「寄付です。この修道院に金貨三千枚を寄付したいのです」


 金貨三千枚ときいても、ぴくりともしない。


 これはちょっと面白いことになってきた。


「申し訳ありませんが、当修道院では寄付は受け付けないことになっているんです。お志だけいただきます」


「金貨があなたがたの法衣を汚すとは思えませんが」


「神の御心に従って生きるのに必要なものだけで、わたしたちは生きています。金貨は違います。それは恐ろしい欲の源になり得るものです。そのために親を殺し、子を売り、友を裏切る。悪魔の声に耳を貸し、涜神とくしんに走るものさえいます」


「それは使い方を知らないものの手に財貨が渡るからです」


「わたくしが見たところ、あなたはそれを知っておられるようです」


「わしが知っているのは、増やし方です。使い方については自慢できるものではありません。妻には先立たれ、子もなく、今では身寄りがなく引き取った彼女たちしか家族はいない。老年を迎えて、わしは商会を清算しましたが、神に対する清算ができていない。だから、教会に寄進したいが、市内の教会や修道院では聖職者の腐敗がひどい。わしはわしの財貨が正しく使われることを望むのですよ」


 修道院長は首をふった。


「わたしたちには金貨三千枚など、どう使えばいいのか分かりません」


「たとえば、ダンジョンの施療院などどうでしょう?」


「ダンジョン?」


「ええ。最近きいたのですが、ダンジョンから高価な宝物が見つかり、それが評判になりそうだと伺いました。しかし、その手の冒険には危険が付き物で、負傷者も出るでしょうし、ひどいものは命を失うやもしれません」


「なぜ人は神よりいただいたものだけで暮らそうとしないのでしょう?」


「それは我々人間に課された永遠の問題ですな。それで、そのダンジョンですが、考えたのです。わしも若いころは命を危険にさらすような無謀なことをして富を築こうとしました。だから、今度はその富で、若いものたちが蒙る害を少しでも減らせたら、と」


「それは立派なお志ですわ」


「その志を遂げる手伝いをしてもらいたいのです。金貨三千枚あれば、施療施設付きの教会を建てて、医薬品も相当買えるでしょうし、よい治療用の魔法書も整えられる。このままだと、ダンジョンで傷ついたものはなんとか外に脱出しても、癒す手も、看取る者もないまま、死んでいく」


「わかりました。やりましょう」


 うおっと。決断が戦国大名並みに速い。


「神があなたを遣わしたのもわたしたちには計り知れないご意思があるのでしょう。一人でも多くの人を救えるのであれば、すぐにでも取りかからねばいけません。シスター・ヨハンナ!」


 修道院長は、慌てふためきながらやってきた例のちんちくりんに厳かに命じた。


「シスターたちのなかでも若く体力に恵まれ、かつ忍耐力に長けたものたちを集めてください。これから、外へ出ます。行動のときです」

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