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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アズマ ラケッティア天下統一編
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第十八話 怪盗、からくり忍者参上。

 三つの魂が一つのからくり忍者のなかに集まって動きを為すのは、三人四脚に似ている。

 全体の部署ごとに担当ができ、一つの頭脳が全体を動かすことが不可能になるのだ。


 いまだって、渓谷を埋める松の枝から枝へと忍者らしく、怪盗らしく、アサシンらしく飛び移っているのだが――、


 ドシン!


 なにせ三人四脚である。息が合わねば落っこちる。


「なにやってんだ、この馬鹿! 左足はお前の担当だろうが!」


「はあ? おれの担当は膝まででそこから先はそっちの担当だろ!」


「宙返りの真っ最中だぞ? 背骨と右手の面倒見なきゃいけないのに、どうやって左足の面倒なんか見られるんだよ!」


「誰だ、宙返りなんてしようとしたのは!」


「……わたし」


 ジルヴァにそう言われると、それ以上なにも言えない。


 参魂丸を動かすことは操縦といって間違いない。

 しかも、三人の管轄は参魂丸に取らせようとする行動によって激しく入れ変わる。


 ついさっきまで右足の膝から下を受け持っていたかと思ったら、次の瞬間、左手首から先の微妙な動きの面倒を見なければならなくなる。

 かといって、右足の膝から下が完全にお役御免になったかといえば、そんなことは全然なく、今度は右足全体の動きを司るハメになる。


 秒単位での入れ替えで三人は目もまわるような思いをしていたが、その一方で参魂丸の中心で動いている心臓は誰の管轄でもなく、勝手に動いている。


 来栖ミツルの言葉を借りるなら『おれはカフカを読んだことはないけど、文学大好きのカズヲ従兄にいさんがカフカの小説コンプしてて、そのカズヲ従兄さんいわく、カフカの作品の中心にあるのは不条理でもないし実存主義でもないし自分の居所が分からないユダヤ人の空虚さでもない。お役所仕事の馬鹿馬鹿しさこそがカフカの描きたいことなんだそうな。それ、きいただけで読む気が失せるよな』


 このまま参魂丸の操縦を続けていると、管轄にちまちまこだわる役人根性を持った人魂が三つできあがる。


「なあ、こんな調子で、おれたち戦えるのか?」


「言うなよ。できるわけないんだから」


「でも、このままぶっ壊されたら、地獄行きだぞ。おれはいやだ。地獄に行くの」


「お前、あのちっぽけな島で三十人の女騎士と一緒に暮らしてたでしょ? たぶん、地獄ってあんな感じ」


「ますます行きたくなくなった。別に女の子に興味がないわけじゃないし、むっつりスケベを気取るわけでもないけどな、三十人の意志が統一された女騎士相手に男一人で暮らすのは想像以上にきついんだぞ。まず、こっちの意見は通らない。通るわけがない。それに酒が入ると、やたらと人の眉毛を剃り落したがる」


「孤独な戦いだな」


「それに加えて、ミツルがマスケット銃なんてもたしたもんだから、もう、あいつら、向かうところ敵なしだ。もし、あの三十人の銃士隊に男一人を生贄にするってんなら、おれはごめんだ。おれはもう自分の義務を果たした。誰か別のやつがいって眉毛剃られてこい」


「なに、眉毛剃られたの?」


「剃られたけどなにか?」


「ぷっ、笑える」


「あのなあ、剃られた眉毛を復活させる魔法は竜の眷属を言いなりにさせる魔法と同じくらい難しいんだぞ」


「次からはマスクで隠れるぞ、よかったな」


「はーん。面白いこと言ってくれるじゃん」


「二人とも……しっ」


 ぴたりと黙る。


 いま三人がいるのは切り立った渓谷の出口で、古い石組みの橋が瀬音をまたいでいた。

 その橋のちょうど真ん中に侍が立っている。


 あまり友好的な雰囲気ではないのは、その手に錆びている血まみれの刀で一目瞭然だ(来栖ミツルの言葉を借りるなら『日本刀つかって、トーストにイチゴジャム塗ってただけかもよ?』)。


「人斬りだな」


「……うん」


「どうすんの? あいつ、すんなり通してくれそうにないよ」


 橋の左右は削り落とされたような深い谷で、迂回できる場所は皆無。


 参魂丸が近づくと、人斬りはぶつぶつつぶやきながら、下段の構えを取る。


 対する、参魂丸は突けるもんなら突いてみろの大上段。


「おい、なにやってんだ! これじゃ心臓串刺しにしてくださいってお願いしてるようなもんだろうが! 下に構えろよ!」


「やってるって。なってるでしょ、下段に」


「なってねえよ、めっちゃ上に構えてるぞ」


「ジルヴァ~、肘、下げて~」


「……こう」


「おっ、下がった」


「左腕だけな」


「ということはいま、片手大上段か」


「事態が悪化してやがる」


「来る……」


 ジルヴァの言う通り、下段に構えていた人斬りが摺り足で間合いを一気に詰め、突きかかった。


「下げろ! 下げろ!」


 三人がかりで刀を持ったまま高々と上げられて右腕を下ろすと、その刃は人斬りの肩に真上から食い込み、そのまま脇まで切り下げた。


 人斬りは自分の肩から噴き上がる血を見ると、ケタケタ笑い出し、


「赤! 赤赤赤赤あかアカあカアかあかかかかがががががあああ」


 と、耳にざらつく不快な歓声を上げながら、谷間の沢へと落ちていった。


「勝てた、のか?」


「そうらしい」


「はー、一時はどうなるかと思ったが、なんとか勝てた」


「でも、どうなってんの? 骸骨でも魂でもない。生身の人間だ。ムゲンに生身の人斬りが出るなんて、きいたことがない」


「人斬りだからこそ、この地獄みたいな国に落ちたんじゃないのか?」


「落ちるとしたら、骸骨か人魂の姿で落ちるはずだ。ましてや、こっちに落ちてからも人斬りを続けるなんてありえない」


「それ、こいつの操縦方法を極めるより重要か」


「さーね。分からない。ただ、これが最初じゃない。そんな気がする」

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