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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アズマ ラケッティア天下統一編
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第九話 ラケッティア、話し合い・イン・出島。

 サカイは外国との取引もけっこうあるので、外国人居住区がある。

 出島みたいなもんだが、出入りは自由だ。


 アルデミルやロンドネ、バルブーフ、ディルランド、セヴェリノ、それにガルムディアといった諸外国の商館がある表通りと住宅や店が並ぶ裏通りがある。

 建物は和風でそこに無理やりテーブルや椅子といった西洋家具をぶちこんでいる。

 ビリヤード台だって持ち込まれていた。


 ベニゴマ一家とオニグマ一家の話し合いの場に出島を使ったのは、そこが中立の土地だからだ。


 ガルムディアについては分からんが、他の国はアズマの内戦に首を突っ込む筋合いはない。

 彼らはここにビジネスでやってきている。殺し合いはよそでどうぞ。


 なわけで、セヴェリノ公国の商館にあるガレオン船が見える畳部屋で膝を詰めて話し合うことになった。


 こっちは親分のミツさん、若頭のオリュウ、そんでもって客分のおれ。

 客分を巻き込めないと言われたけれど、一宿一飯の恩義ってもんがある。


 向こうはオニグマ・ブンゾウに、用心棒のゴリラが二頭。


「縄張りを決め直さなきゃいけねえ」


 ブンゾウは続けた。


「お互い所帯は大きくなった。線引きを新たにすりゃあ、無駄な血も流れねえ」


「こっちはそちらさんのシマにつっかかったことはありませんよ。オニグマの親分さん」


「ベニゴマの親分。確かに若いもん同士がぶつかっちまう不幸はあった。でも、連中の言い分もきいてやらなきゃあいかんのですよ。おれも稼業の親だからね。さっきも言った通り、うちは所帯が大きくなった。これまでのシマじゃあ、やっていけねえ。だから、そちらさんの使ってないシマを貸してくれれば、上がりはおさめますぜ」


「オニグマの親分さん。子分たちが体を張ってつくったシマ、銭金みたいに貸し借りできるもんじゃあ、ございません」


「古い考え方だな、そいつは。アズマって国全体が変わろうってときに、そんな古くせえ義理を持ち出すようじゃ、ベニゴマ一家も七代で代終わりってことになりかねませんぜ」


 てめえ、と唸りながら立ち上がりかけるオリュウの肩をミツがつかむ。


「座んな、オリュウ」


「でも、親分」


「座れ」


「……へい」


 オニグマ・ブンゾウは勝ち誇った顔だ。


 向こうの狙いは抗争。

 サカイに動乱を持ち込み、そのどさくさにハリマの軍勢を呼び込む。

 オリュウがこの調子なら、近いうちに戦争だ。


 だから、止めないといけないが、その前にこのいけすかねえクソ野郎の鼻を折ってやる。


「ハリマの殿さまはあんたに何を約束したんです?」


 ブンゾウのドヤ顔が凍りついた。


 そりゃそうだ。

 誰にも知られてないと思ってるんだから。


 ブンゾウのドヤ顔が復活した。

 当てずっぽうだと思ったんだろう。

 まあ、向こうから見れば、おれは十七歳のクソガキだからな。

 この世界、成人と認められる年齢は現代日本より、ややはやいが、まあ、それでもクソガキには変わりない。


 ブンゾウがふんぞり返って言う。


「お客人。あんた、よその人間だから知らんのだろうけど、サカイはどの大名にも属さねえ勝手処分が認められてる湊なんだよ。武家の出る幕はねえのさ。ベニゴマの親分、客分は選ばねえと思わぬ恥をかきますぜ」


「カンベエ湯屋の離れ」


 ドヤ顔粉砕ミサイル発射!


「あそこを使うのはよすことっす。湯気出しの窓から全部丸ぎこえ。まったく湯屋で逢引きの相手がいい女じゃなくて、ハリマ・ヤスミチの軍師だなんてねえ。背中でも流してやったんすか?」


 ファルコンからベースプレートへ。ドヤ顔を粉砕した。繰り返す。ドヤ顔を粉砕した。オーバー。


「あんたがそのサカイの勝手処分の権限をハリマに売ろうと知れれば、町衆はついてくか? なわけないよな」


「馬鹿馬鹿しい!」


 オニグマが立ち上がる。釣られてゴリラも立ち上がる。


「町衆なんざ、なんでもねえ! アズマはな、動いてんだ! なにもかも変わっちまうんだ! そんとき吠え面かくのがどっちか楽しみに待ってやがれ!」


 オニグマが立ち去る。釣られてゴリラも立ち去る。


     ――†――†――†――


 商館を出たら、オリュウに、ありがとうよ、と肩を叩かれた。

 溜飲が下がって、あの場で刀を抜くようなことを仕出かさずに済んだからだ。


 向こうは戦争をしたがってる。

 だが、それをやれば相手の思うツボ。


「だから、こっちは我慢するのさ」


 うーん。


 親分はそういうけど、でも、それじゃ解決にならない。


 生きてる限り、オニグマは仕掛けてくる。


 だから、抗争になる前にだまし討ちでもなんでもして、ぶち殺すべきなのだ。本当は。


 でも、それをやるにはベニゴマ一家はあまりに侠気に生きすぎてる。


 犯罪組織として、とんでもなくピュアなのだ。

 だまし討ちなんて卑怯なことするくらいなら自分が死んだほうがいいと本気で思ってるのだ。


 結局、それが侠客なのかもしれない。

 マフィアは儲けることが重要で、侠客は損をかぶることが上等なのだ。


 夜になってベニゴマ屋敷に戻り、庭の濡れ縁に座り、そのことばかり考えていた。


 どうやって、この人たちを救えばいいのか。


「旦那、会合はどうだった?」


 ひょこっとジンパチが現れ、隣に座った。


「お前の情報のおかげでMVPがとれたよ」


「えむぶいぴい? 旦那、ときどき変な言葉使うなあ。で、結局どうなるんだい?」


「結局、こっちが我慢するのが続きそうだ」


「でも、それじゃあ――」


「うん。嫌がらせは終わらない」


「おいらが暗殺下手じゃなきゃオニグマの首の一つや二つ取ってこれるのになあ」


「お前はオニグマと軍師のことをすっぱぬいた。それ以上望んだら、バチが当たらぁ」


「でも、トキぃがいてくれたら、あんな野郎あっという間にオダブツなのに」


「うちもジルヴァがいたら、あっという間にオダブツなんだけどなあ」


 あいつら、元気にしてるかなあ。


 ベタな話、生きてりゃ、同じ星空を見上げてるわけだ。


 星に伝達機能がないことが悔やまれるな。


「なにしてんだい、お客人?」


 見ると縁側にオリュウが立ってる。

 毎度のことだけど、この人の服は目のやり場に困る。


「いや、一緒に船に乗ってたやつらが元気にしてるかなあって」


「海賊どもにやられたんだってね」


「そうなんす」


「妙な話だねえ」


「と、言いますと?」


「確かに海賊は前からいた。でも、この一年、異常に増えてるんだよ。それに凶暴になってきてる。荷さえ奪えれば、それで逃がしてもらえてたのが、最近じゃ皆殺しも厭わねえってんだ。昔は義理人情を知ってる海賊がたくさんいたもんだけど――いまじゃ、どこで何をしてるやら。なんだか、変だよ。いまの世の中」


「そう言われると、おいらも変だと思う。犬神踊りなんてのもこの半年だ。流行り出したのは」


 うーん、と、オリュウは腕を組んで考えたが、


「やめやめ!」


 と、首をふった。


「ふん。考えるなんざ、あたしの性にゃあ合わんのさ。それより、いい話があるんだよ」


「いい話?」


「お社の縁日が三日後にある。まあ、うちの稼ぎどきなんだけど、例大祭の日にお参りすれば、神さまも機嫌がいいことだろうし、あんたの仲間との再会、神頼みする価値があると思うよ」


 縁日か。いいなあ。和風の縁日。


 縁日で遊ぶついでにあいつらの無事も祈ってやれば、誰もがWin-Winだ。

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