第二話 ラケッティア、ギルドマスターになる。
1.まずオリーブオイルを垂らす。
2.そして、ニンニクを炒める。
3.トマトとトマトペーストを入れて、焦がさないよう注意。
4.煮立ったら、ミートボールとソーセージを入れる。
5.そして、ワインを少々。
6.砂糖をちょっと。
7.「のんきにメシ作ってる場合か。ポーリーはどうした?」
「消えてもらった」
秘訣は7の会話。
裏切り者を始末したことを片手間で話しながら料理するのがゴッドファーザー流。
そこから塩茹でしたスパゲッティをぶち込み、混ぜ合わせれば、ゴッドファーザーでクレメンザがマイケルに教えていたスパゲッティが出来上がる。料理は紳士のたしなみですよ。
さて、床下の食料庫で見つけた材料から二十人分のスパゲッティをつくっているおれの後ろでは四人の少女がおれのメシを待っている。
ラインナップは以下の通り。
・ちんまいいもうと系
・ボクっ娘少女剣士系
・勝気なツンデレ娘系
・無口ミステリアス系
さらに全員に大食い属性がついている。
さらにさらに全員がおれをマスターと呼ぶ。
わおっ。これはもうその手の趣味の人なら数え役満だろう。
しかしだ。世の中そんなに甘くない。
この手をツモる前に、おれはその少女たちに頭をかじられ、おれが食べるはずだったスパゲッティを奪い取られ、さらに料理をすることを強要され、上記の工程のうち、1から5まではその少女たちに短剣で延髄のすぐ後ろをチクチク突かれながらの作業だったのだ。
それが満腹になった途端、マスター呼びである。
言っとくけど、まだ頭にはかじられた痕、残ってんのよ。
ちきしょー。思い切りかじりやがって。
しかし、まあ、ひもじい少女たちがおれのつくったスパゲッティをうまいうまいと食べてくれるのは見ていて、気持ちのいいものだ。これからはハーレムときいたら、一番に美少女ハーレムを思い浮かべてもいい気にすらなってきた。
食うのに忙しくて、この世界の説明をしてくれないので、詳細は分からないが、おれはなんのマスターかというと、ギルドマスターらしい。
で、なんのギルドかというと……暗殺者ギルド。
え、アサシンギルド?
ここで我がハーレムのラインナップに情報を追加しよう。
・ちんまいいもうと系 ⇒ 火力命の魔法使い
・ボクっ娘少女剣士系 ⇒ 暗殺専門の人斬り
・勝気なツンデレ娘系 ⇒ 毒殺のプロフェッショナル
・無口ミステリアス系 ⇒ オーソドックスな黒ずくめ系暗殺者
「つまり、腕は一流だけど、自分たちのメシすらつくることもままならぬ生活力ゼロのアサシン少女たちを率いるべく、おれはこの世界に転生したってこと?」
「そういうことなのです」
「マスターは合格だ」
「久しぶりにたらふく食べたもんね」
「……」
「で、目下の問題はおれがアサシンギルドを率いることに抵抗がないかってこと?」
「マスターは前世ではごく普通の人ですから」
「もちろんアサシンギルドのマスターともなれば、誰かの命を奪うよう命じることもある」
「まさか尻込みしないでしょうね?」
「……」
そう。おれはついさっきまでおれのいた世界では普通の高校生。
でもね。
「全っ然問題ない」
「要するにおれがボスになってファミリーを率いろということ。殺す相手は悪人に限定して、カタギには手を出さない掟をつくれば、ノープロブレム。むしろ、おれを転生させて大正解。校内球技大会でトトカルチョの胴元やって校長室に呼び出されたおれだもの。日本にいたころには法律と社会道徳観念が邪魔してできなかった闇商売の数々をここで実地で試せる。任せろ! おれがこのポンコツギルドを世界一のファミリーにしちゃる」
少女たちがやったあ!と大喜び。
「これで雑草にドレッシングをかけて食べる生活は終わりなのです!」
「野良犬と残飯の奪い合いをしなくて済む!」
「ま、まあ、どうしてもっていうなら、マスターの料理、食べてあげないことはないんだからね!」
「……」
いったい、どんな食生活してきたんだ、こいつら?
まあ、いい。
思いのほか、当たりを引いた転生だ。
よし、まずはどうやって金を稼ぐかだ。
まあ、アサシンギルドなんだから暗殺任務を受けるのがいいんだろうけど、相場はどのくらいなのかな? 待てよ、ここ、ひょっとして禁酒法があるのかな?
あったら、いいなあ。あったら。