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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
海竜騎士団領 真夏の海のラケッティア銃士隊編
218/1369

第十八話 ラケッティア、サウススター発足。

 カレイラトス島最大の港町フォリゼーで前代未聞の一大事。


 なんと、なんと、なな、なんと。


 港で働く全てのルネド人たちが賃上げを求めて、一斉にストライキを始めたのだ。


 桟橋にはあとは船に積むだけだったラム酒の樽と砂糖袋が山積みになり、沖合の船は小麦や鉄製品が降ろせず、困り果ててプカプカ浮かんでいる。


南の星サウススター・兄弟団ブラザーフッド〉の設立が宣言され、カレイラトス島の他の港町へ使者がやられて、港湾労働者たちに合流の意志があるかを確かめに行く。


 ルビアンの騎士が二人、馬にまたがって、


「集会をただちに解散しろ。さもないと武力行使でこれを鎮圧する」


 と、言ってきたので、騎士の後ろに林立する槍目がけて、マスケット銃を一斉に撃ち込んだ。

 長槍は折れて、地面に転がり、槍兵たちは逃げ出した。


「火縄銃はご存知の通り、装填に時間がかかる。たった二人で抜刀突撃したいというなら止めないが、その後の出来事に責任は持てない」


 ラケッティア銃士隊の後ろにはストに参加したルネドが五百人以上いる。


 荷揚げと荷下ろしが出来ず、荷主たちは一日に金貨二枚から三枚の損を被り、治安維持に責任を持つ騎士団や民兵隊にイラつき始める。


 特に海外の商会から品物を持ち込もうとした商人たちの怒りが激しく、さっさとルネド人たちの要求を呑んで、港を使えるようにしろと騎士団の行政府に矢の催促。

 ルビアンの大商人たちに言わせれば、ルネドに膝を屈するなどあってはならないことだが、外国人商人にはそんな民族主義的事情は知ったことじゃない。

 商人らしく腹をくくって利益のために行動しやがれ、とこういうわけである。


     ――†――†――†――


 ちなみに賃上げだが、昨日は銀貨二十枚だったのだが、銀貨三十枚に格上げして、おれの取り分も一人につき銀貨三枚から六枚に増やすことにした。


 蜂の巣になった港湾事務所をとりあえずの本拠地にし、騎兵隊がやってきたら鉛玉をお見舞いし、他の港町の使者がやってきたら、ストに参加する意図があるかを確かめる。


 この島のルネドにとって、港での労賃は生まれたときから銀貨十五枚だった。

 それが雇う側の気まぐれで減らされることはあれども、増えたことはなかった。


 それがいきなり二倍になる。

 しかも、クルス・ファミリーはルネドの子どもを誘拐者たちの魔の手から取り戻した。


 そして、その後も、銃士隊は騎士たちを港に近づけまいと威嚇射撃をしている。


 こいつらには義理を通すだけの力がある、これはワンチャンあるかもしれんとルネドたちに思わせることができた。


 それが今日のストライキだ。


 カレイラトス島の西部にある港町のクーベと南部のカランダールから使者が返ってくる。

 それぞれの港でちょっとした顔になっている沖仲士がついてきていて、フォリゼーで起きていることが使者たちの言った通り事実なのだと分かると、すぐ港に戻って、フォリゼーの運動に続くよう、港のルネドたちを説得すると約束し、こちらが手配した辻馬車を全速力で走らせながら帰っていった。


 恐喝ストは順調に進んでいて、拡散していっている。


 サウススターのデビューは華々しいものになった。


 だって、五百人の賃上げでおれに入る手数料は一日銀貨三千枚。


 一枚日本円にして500円の計算だから、合計で150万円。

 つまり、金貨五十枚。

 一日で金貨五十枚だ。


 それはフォリゼーの港湾労働者に限定しての数だ。

 クーベとカランダールの労働者が加われば、それもそのまま増収だ。


 おれが今までチームスターが欲しい、チームスターが欲しいと何度も言ってきた理由がよい子のみんなにも分かってもらえたと思う。


 空中庭園のカジノ建設も最初は金貨五万枚といわれていたが、今では再計算の結果、金貨十万枚は必要とされている。

 偉大な先達ベン・シーゲルを参考にすれば、必要経費が金貨百万枚に跳ね上がってもおかしくない。


 そんななか、サウススターのような強力な労働組合ギルドを発足できたのはおいしい。


 後は雇い主側が交渉を申し込んでくるのを待つだけだ。


 耳を澄ませば悔し涙を飲み込んだ苦いノックがきこえてくるようだ(汚れた布を垂らしただけの出入り口にはおれが青銅のライオン風ノッカー付き扉をはめこませた)。


 トントントン。


「あーい」


 交渉者たちを怖がらせないよう、満面の笑みで扉を開ける。


「あれ、誰もいない――ん?」


 下を見る。

 十歳を超えているかも怪しい小さな浅黒い子どもが麦わら帽子を手に上目遣いに立っていた。


「おれたちも――おれたちサトウキビ農園の小作人も、旦那の仲間に入れてもらえますか?」

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