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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
海竜騎士団領 真夏の海のラケッティア銃士隊編
211/1369

第十一話 少女騎士分隊、無気力な会話の集合。

 騎士団兵舎を囲む城壁に女騎士たちが上っている。

 全員が少女、というより、この兵舎に勤務する騎士の年齢はみな十六か七なのだ。


「おーい、人がこっちに来るよー」

「魔族じゃなくて?」

「三人いる。本部騎士かもしれない。誰か望遠鏡持ってきて」

「チャンバラごっこで壊しちゃった」

「なに!?」

「チャンバラごっこしたいなら本物の剣使いなさいよ、バカ」

「本物の剣じゃ怪我すんだろ、アホ」

「あれは本部騎士じゃないわよ。旗もないし、鎧もないし、だいいち馬に乗ってない」


 そのうち、少女騎士たちは城壁の上の通路へ梯子を上り、やってくる客たちが何者なのか好奇心をたくましくした。


「絶対本部騎士ですよぅ! わたしたち、ガザリーヌ島に帰れるんでしょうか?」

「ルビアンたちがあたしらを歓迎するとは思えないけど。そいつらの髪の色は?」

「全員黒」

「じゃあ、わたしたちと同じルネドか」

「きみにはがっかりだ!」

「あのー、着てるものも黒いようですけど」

「てことは、司祭かも。ひえー、またお布施だなんだってわたしたちの食料庫を漁るんだ」

「どんなに巧妙に隠しても肉を見つける彼らの嗅覚をもっとこう、軍事的に利用できないのか?」

「そんなことわたしに言われても困ります」

「軍務長官あてに手紙でも書いたら?」

「ここから出してくれー」

「もう、ウミガメの卵の目玉焼きは一生分食べたー」

「みんな注目! 二人はイケメン!」

「どこどこ?」

「どれどれ?」

「一人はキュート系。一人はちょっとダークな雰囲気」

「え? あの子、女の子じゃないの?」

「違う。男だ」

「限りなく美少女に近い美少年」

「――わたし、負けたかも」

「何の勝負をしていたんだ、そもそも」

「もう一人はちょっと癖毛のもさもさ」

「ダークもいいけど、明るくなってもいい感じだね」

「真ん中は、なんというかフツー系?」

「うん、フツー」

「そもそも、あの人たちは何者なんでしょう?」

「知らんがな」

「わたしの手旗信号テクを発揮するときね! オマエラ、ナニモノ、ダ?」

「無理だよ、あの人たち、旗持ってないもん」

「きみにはがっかりだ!」

「門は閉ざしとく?」

「閉ざしとけばいいんじゃないですか?」

「ちょっと待った。何か用件があるみたい」

「じゃあ、誰か一人城壁の外に出て、用をきいてきてよ」

「わたしは嫌だ」

「あたしだって嫌だよ」

「じゃんけんで決めよっ、じゃんけんで」

「二十九人でじゃんけんしたら決着つかない」

「二人一組になって勝ち抜き戦にすればいい」

「二十九を二で割ってみろ。余り一から魂の叫び」

「ぼっちは辛いです」

「ええーい! まどろっこしい! わたしが降りて、用件をきいてくる! 梯子を出せ!」

「おお、男前!」

「これは惚れざるを得ない」

「これに惚れない男はおるまい」


     ――†――†――†――


「で、何だって?」

「キャプテン・コルネリオを釈放してほしいそうだ」

「なにそれ?」

「カラヴァルヴァの治安判事なのだが、頭を打ってから、急に海賊王になると言って、こちらに来たらしい。海賊を自称しているが、それは頭がパーなだけで、本当は治安判事だというんだ」

「でも、わたしたち、ここに赴任して以来、誰も逮捕なんてしたことないですけど」

「あ、クリストフが捕まえたやつじゃない?」

「あいつ、誰か逮捕してたっけ?」

「知らないけど。ずっと牢屋の前で番をしてる」

「じゃあ、誰かパクったわけだ」

「釈放しちゃえば?」

「別に害はないだろうし」

「それに誰かを逮捕したら書類仕事もしなきゃいけない」

「いやだなあ、書類仕事」

「書類仕事を回避するために釈放するのはいいんですが、クリストフが黙っていないと思いますよ」

「誰かー、クリストフを詰める袋、調達してきてー」


 二十九人の少女騎士はわっと襲いかかり、クリストフというこの砦唯一の少年騎士を袋詰めにした。

 少女たちは牢屋を開けると、


「はい。こことここにサイン。はい、どーも」


 と、簡単に囚人二七七号ことコルネリオ・イヴェス、またの名をキャプテン・コルネリオを釈放した。

 

 少女たちはまた城壁に上り、帰っていく来栖ミツルたちを眺めながら、


「キャプテン・コルネリオもいい男だったね」

「バイバイ、囚人二七七号。バイバイ、書類仕事」

「あー、今日も一日よく働いた」

「ごはん食べて、寝よ」

「不規則な生活はお肌の敵」

「ところで、クリストフを入れた袋は?」

「放っておきましょう。お腹が空いたら、そのうち現れます」

「それもそうか。今日の料理は?」

「ウミガメの卵の目玉焼き」

「また?」

「もう一万回食べた」

「きみにはがっかりだ!」

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