第十一話 少女騎士分隊、無気力な会話の集合。
騎士団兵舎を囲む城壁に女騎士たちが上っている。
全員が少女、というより、この兵舎に勤務する騎士の年齢はみな十六か七なのだ。
「おーい、人がこっちに来るよー」
「魔族じゃなくて?」
「三人いる。本部騎士かもしれない。誰か望遠鏡持ってきて」
「チャンバラごっこで壊しちゃった」
「なに!?」
「チャンバラごっこしたいなら本物の剣使いなさいよ、バカ」
「本物の剣じゃ怪我すんだろ、アホ」
「あれは本部騎士じゃないわよ。旗もないし、鎧もないし、だいいち馬に乗ってない」
そのうち、少女騎士たちは城壁の上の通路へ梯子を上り、やってくる客たちが何者なのか好奇心をたくましくした。
「絶対本部騎士ですよぅ! わたしたち、ガザリーヌ島に帰れるんでしょうか?」
「ルビアンたちがあたしらを歓迎するとは思えないけど。そいつらの髪の色は?」
「全員黒」
「じゃあ、わたしたちと同じルネドか」
「きみにはがっかりだ!」
「あのー、着てるものも黒いようですけど」
「てことは、司祭かも。ひえー、またお布施だなんだってわたしたちの食料庫を漁るんだ」
「どんなに巧妙に隠しても肉を見つける彼らの嗅覚をもっとこう、軍事的に利用できないのか?」
「そんなことわたしに言われても困ります」
「軍務長官あてに手紙でも書いたら?」
「ここから出してくれー」
「もう、ウミガメの卵の目玉焼きは一生分食べたー」
「みんな注目! 二人はイケメン!」
「どこどこ?」
「どれどれ?」
「一人はキュート系。一人はちょっとダークな雰囲気」
「え? あの子、女の子じゃないの?」
「違う。男だ」
「限りなく美少女に近い美少年」
「――わたし、負けたかも」
「何の勝負をしていたんだ、そもそも」
「もう一人はちょっと癖毛のもさもさ」
「ダークもいいけど、明るくなってもいい感じだね」
「真ん中は、なんというかフツー系?」
「うん、フツー」
「そもそも、あの人たちは何者なんでしょう?」
「知らんがな」
「わたしの手旗信号テクを発揮するときね! オマエラ、ナニモノ、ダ?」
「無理だよ、あの人たち、旗持ってないもん」
「きみにはがっかりだ!」
「門は閉ざしとく?」
「閉ざしとけばいいんじゃないですか?」
「ちょっと待った。何か用件があるみたい」
「じゃあ、誰か一人城壁の外に出て、用をきいてきてよ」
「わたしは嫌だ」
「あたしだって嫌だよ」
「じゃんけんで決めよっ、じゃんけんで」
「二十九人でじゃんけんしたら決着つかない」
「二人一組になって勝ち抜き戦にすればいい」
「二十九を二で割ってみろ。余り一から魂の叫び」
「ぼっちは辛いです」
「ええーい! まどろっこしい! わたしが降りて、用件をきいてくる! 梯子を出せ!」
「おお、男前!」
「これは惚れざるを得ない」
「これに惚れない男はおるまい」
――†――†――†――
「で、何だって?」
「キャプテン・コルネリオを釈放してほしいそうだ」
「なにそれ?」
「カラヴァルヴァの治安判事なのだが、頭を打ってから、急に海賊王になると言って、こちらに来たらしい。海賊を自称しているが、それは頭がパーなだけで、本当は治安判事だというんだ」
「でも、わたしたち、ここに赴任して以来、誰も逮捕なんてしたことないですけど」
「あ、クリストフが捕まえたやつじゃない?」
「あいつ、誰か逮捕してたっけ?」
「知らないけど。ずっと牢屋の前で番をしてる」
「じゃあ、誰かパクったわけだ」
「釈放しちゃえば?」
「別に害はないだろうし」
「それに誰かを逮捕したら書類仕事もしなきゃいけない」
「いやだなあ、書類仕事」
「書類仕事を回避するために釈放するのはいいんですが、クリストフが黙っていないと思いますよ」
「誰かー、クリストフを詰める袋、調達してきてー」
二十九人の少女騎士はわっと襲いかかり、クリストフというこの砦唯一の少年騎士を袋詰めにした。
少女たちは牢屋を開けると、
「はい。こことここにサイン。はい、どーも」
と、簡単に囚人二七七号ことコルネリオ・イヴェス、またの名をキャプテン・コルネリオを釈放した。
少女たちはまた城壁に上り、帰っていく来栖ミツルたちを眺めながら、
「キャプテン・コルネリオもいい男だったね」
「バイバイ、囚人二七七号。バイバイ、書類仕事」
「あー、今日も一日よく働いた」
「ごはん食べて、寝よ」
「不規則な生活はお肌の敵」
「ところで、クリストフを入れた袋は?」
「放っておきましょう。お腹が空いたら、そのうち現れます」
「それもそうか。今日の料理は?」
「ウミガメの卵の目玉焼き」
「また?」
「もう一万回食べた」
「きみにはがっかりだ!」




