第一話 ラケッティア、異端の女騎士。
いま、女騎士からポルノ・ビジネスにカネを出さないかと持ちかけられました。
いえね。事の次第はこうなんでげす。
――†――†――†――
二月に入ってからというものカラヴァルヴァでは毎日雪が降ってくる。
割と温暖なカラヴァルヴァだが、二月ともなれば、それなりに寒い。
が、毎日、雪が降るのはめったにない。
〈ラ・シウダデーリャ〉は現在、二十軒ほどの屋台が入ってきていた。
数十の屋台が入れるから、まだ空き地は目立つ。
だが、商売熱心で雪にも負けず、店を出している。
そら、雪が降ろうが、槍が降ろうが、店子は商売があるんだから、店を出さないわけにはいかない。
しかし、市場は野外商売だから雨や雪が降れば、客足が鈍り、儲けが少ない。
どっこい〈ラ・シウダデーリャ〉は今日も大盛況。
店の無い空きスペースには人が集まり、焚火をしている。
まあ、それもそうで、こんな寒い日だからこそ、強くてうまい酒を飲みたくなるのだろうし、錬金術師にしたら、お空の悪魔星と天使星が喧嘩をする今日この日にこそ、ソーダ灰を手に入れて、霊薬を合成しなければいけない。
雪ともなれば、外套専門のひったくりは大活躍するから、コーデリアは大繁盛だし、サイクスにしたって雪が染み込まないいいブーツを分解する仕事がどんどん舞い込んでくる。
そんなわけで、我が市場は雪の不況知らずでやってきている。
そんなときでした。
女騎士ディアナ・ラカルトーシュがやってきたのは。
最初はサアベドラ2号がやってきたのかと思った。
ディアナはまさにファンタジー世界に出てくる女騎士で、すっげえ美人でめちゃくそお堅い雰囲気だったから、ナンバーズか服の故買か酒の密輸か、ともかく何かが気に入らなくて、おれにヤキを入れに来たのかと思ったのだ。
「来栖ミツルだな?」
「え、えっと、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どういう意味だ?」
「もし来栖ミツルを半殺しにするつもりなら、おれは来栖ミツルじゃないってこと」
「半殺しに来たのではない。ここには剣を抜き放ちに来たわけではないのだ」
えー、でも、剣は抜かないけど、グーで殴らないとは言ってない。
だいたい魔物に捕まって辱められそうになって、「くっ、殺せ!」って言いそうな美人の気高い女騎士がだよ、おれみたいなラケッティアを半殺しにする以外の目的でおれに会いに来るとは思えないんよ。
もちろん、おれとどこかの通りですれ違って、これまで騎士道一筋に生きてきた頑なな心に違和感を感じ、心臓の音がトゥンク、トゥンクとやけに鋭敏に感じられるようになって、最初は心臓病かと思ったが、この違和感が恋なのだと気づき、街じゅう探し回ってついにおれを見つけて、「一目見たときから惚れた! わたしと結婚を前提に付き合ってくれ!」と超男らしい告白を受けたりする可能性もあるにはある。
ただ、もし、それで賭けを開帳するとなると、そのオッズは一対百億になり、そもそも賭けとして成立しない。
ああ、そーだよ。おれに一目惚れするやつなんていねーよ、ばーか!
と、自分で自分をなじるほどの大混乱を経験した後、
「えーと、では、どのようなご用件でしょうか?」
とようやくたずねることができた。
すると、女騎士はおれの机に一枚、また一枚と写真くらいの彩色画を置いていった。
どひゃあ! いや、どんな絵かって、それをディティール満載のねっとり描写で説明すると青少年健全育成条例違反になりかねないシロモノ。
まあ、オブラートに包んで説明するなら、この異世界では美人の代名詞である〈ふくやかな女性〉のすっぽんぽん、美男子のすっぽんぽん、美男子二人がからみあったすっぽんぽんもあれば、豚面の魔物が女騎士をすっぽんぽんに剥こうとするものもあるし、エルフと獣人らしいのがすっぽんぽんなのもある。
とにかくいろんな客層を考えたすっぽんぽんがずらりと並んだ。
この手の猥褻札を見たことがないわけではないが、カラヴァルヴァで出回っているものよりもはるかに出来はいい。
絵もうまいし、通常この手のポルノは三色のインクを使うが、これはパッと見ても十五色以上のインクを使っている。
何よりその肉感である。女騎士の突然の来訪に縮み上がっていなければ、我が息子も大ハリキリになれるレベルのものである。
女騎士はそんなエロ札を十二枚並べて言った。
「これを印刷して売りたい。力を貸してほしい」
「え?」
「ん?」
「え?」
おれは虚空を眺めた。
そこに誰かいれば、「こっち見んな」って言われそうな顔で。




