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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ アサシンウェアとPDW編
1366/1369

第四話 ラケッティア、四つ目の禁忌。

 カラヴァルヴァと王都ロンデのあいだにアロザンテって都市の駅場に着いたとき、ひどい雨だった。


 おれもジルヴァもアレンカもフレイも、外に出たくないなあ、と思ったが、アスバーリだけはエメラルドに人生狂わされた野郎を探すんだってドアを開けた。


 そしたら、その瞬間、ぴたりと雨が止んで、雲の切れ目から光が差して、石畳から白い湯気が立った。


「アスバーリは晴れ男なのです」


「おれも相当な晴れ男よ」


「マスターはなんとなく雨男なのです」


「ンなこと言っちゃって。おれの晴れ男ぶりを見せちゃる」


 って、言って出た途端、クソ雨が降ってきた。

 しかも、おれにだけ。


 つまり、アスバーリたちが立ってるところはギリギリ降ってなくて、おれが立っているところはギリギリ降ってくる。


 この執念深い雨雲から逃れるためにあれこれ知恵を絞ったが、結局一番いいのは――。


「アレンカ! 支援砲撃を要請する! 目標は空の雨雲!」


「あいあいさーなのです!」


 高圧縮された熱ボールが空を飛ぶと、雲は押しのけられたみたいにワッと広がって消え、こうして人類は天候をも操れるようになったのだった。


 でも、雨降らせる方法は確立されていないんだよな。


 まあ、でも、雨乞いもあるし。


「アレンカがいて、マスターは大助かりなのです。えへん」


「大助かりだけど、ずぶ濡れで死にそう」


「アレンカが乾かしてあげるのです」


「あの火の玉見た後にアレンカにそんなこと頼むのは破滅主義者だけですよ」


「むーっ」


「オーナー。どこかで宿を取らないか? ここは大きな街だ。やつもいるかもしれない」


 とりあえず手近な宿でパンツ一枚になり、替えのシャツとズボンに着替えると、おれは早速、


「なあ、親爺さん。この変でヤバいヤクやって死んだやついる?」


「なにきいてるんだ、お前?」


「詳述は避けるけど、ヤバイヤクを売ってるクズを探してるんだ」


 すると、店主は右見て、左見てをしてから、


「このあたりでその手のもんが入った酒を売ってるやつがいる」


「ボスみたいなもん?」


「このあたりじゃね」



     ――†――†――†――


 おれはいろいろ悪事に手を出し、稼いでいるが、そんなおれでも手を出さないのが三つ。

 ヤク、売春、人身売買。


 ところが、今日、手を出さないシノギが四つに増えた。


「こちらは初代アロザンテ公の騎馬像です。立派でしょう? 我が街の誇りです。アロザンテ公はロンドネ王リカルド三世よりこの地を賜り、この地に棲む蛮族を一匹残らず虐殺して、この地に文明を築き上げたのです。アロザンテ公はこの地に人頭税、封建領主への物納、初夜権の行使といった、まさに文明の証をどしどし導入し、民に領主に仕えることの喜びを教えたのであります。そして――」


 おれが手を出さない四つ目のシノギ――それは観光案内の押し売りだ。


 こいつらはカネを渡すまでおれたちに付きまとい、アロザンテ公の偉業をべらべらしゃべる。

 そんなに好きなら異世界転移に期待して自殺して憧れの初代アロザンテ公に人頭税なり初夜権なりやってもらえばいいのにと思うが、まあ、この手のカスどもには道理が通じない。


 結局、大銀貨一枚やるまで、おれたちについて離れなかった。


 カネをやると、次の哀れなカモに向かって突進する。


 ヴェネツィアのゴンドラに地元の住人が乗らないのには割高料金以外にも理由があるのだ。


 だいたいヴェネツィアに生まれたいとファンシーなこと言ってるやつがいる。

 おれはヴェネツィアに行ったことはないが、これだけははっきり言える。


 たぶん、あの街、どこに行ってもゴンドラ乗りの歌がきこえる。

 それに海藻臭いはずだ。


 まあ、平均的な日本の町に生まれ、育った来栖ミツルには関係のないことだ。


 さて、このあたりのヤクの元締めの家が見えてきた。

 こざっぱりとした一戸建てで警吏たちに目をつけられないようにしているようだ。


『アメリカン・ギャングスター』でもそうだったでしょ?

 フランク・ルーカスがリッチな毛皮着て、ゴージャスな女房と一緒にボクシング観に行ったら、すぐに賄賂の値上げを要求された。


 それがお巡りさんという生き物なのだ。


「よし、いいか。ルールをつくる。こいつがクズ野郎からヤクを買ってたら、それについて洗いざらいしゃべるまでぶっ殺すのは禁止」


 ジルヴァが手を挙げる。


「はい。ジルヴァさん」


「その後は……殺していい?」


「いいよ」


「司令」


「はい、フレイさん」


「この家から敵性反応ありです」


「どんな?」


「自爆型です。司令」


 件のボスが家のドアを蹴破った。


 腹と両手に導火線をバチバチさせてる爆弾を持って。


「え? なんで? なんで、おれのこと追いかけてくるの!?」


 それぞれがバラバラに逃げたのに、このボスはおれのことを追いかける。


「自分の商品キメやがってるな、コノヤロー!」


 もう、おれは逃げた逃げた。

 体育の成績はケツから二番目くらいのおれだけど、自己の生存がかかってる。


 だから、朝の市場で売られたレタスの切れ端に滑って転んだときはファーーーーーック!と叫びましたとも。ええ、そうですとも。


 ああ、もうダメだ。おれはジャンキーと一緒に骨肉眼球四散の憂き目にあうのだ。


 そう思ったが――、


「ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 ボスはおれを素通りし、あのウザい観光案内がわめくのも構わず、初代アロザンテ公の騎馬像へ突っ込んでいき、蛮族の虐殺者にして税金の導入者、花嫁の味見係を十万の欠片に吹き飛ばした。


 そこでおれは初めて気がついた。

 おれが逃げたルートがアロザンテ公の騎馬像への最短ルートだったことに。

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