第一話 ラケッティア、共同クルー。
リーロ通りの〈金塊亭〉はカラヴァルヴァでも有数のレストランで、個室が二十以上、コックは貴族や王族のお抱えだったことがあり、食いでのあるポトフが評判だ。
もちろんポトフと一緒に出来上がるコンソメスープも。
だが、一番はこんがり焼いた豚の頭で、わざと薄く肉を切って、パリパリの皮を楽しむ贅沢な食べ方がオススメされる。
「エル・マチェテに!」
みんなが乾杯する。
今日、新しい支部が作られる。
カサンドラ・バインテミリャとフェリペ・デル・ロゴスがカネとヒトを出し合ったクルーはそもそもふたつのファミリーが共同して、組をつくるという点から異例だった。
あとで揉めないよう、利益の分配と費用の負担割合をかなり厳密に決め、さらに街じゅうの〈商会〉のなかでも有力な幹部たちを集めて、エル・マチェテ誕生の瞬間に立ち会わせる。
その平和的な志向は素晴らしいし、抗争を減らすことにもなるだろうが、これ、今度、共同で〈石鹸〉を製造、販売することを見越しての同盟なんだよなあ。
「こっちは本気なんだよ」
カサンドラ・バインテミリャが言った。
「うちとデル・ロゴス商会で錬金術士や薬剤師、それに売人に使う連中を用意する。工場だって、ひとつの大きなヤク工場じゃなくて、十二か三くらいの中規模工場で〈石鹸〉を合成し、カラヴァルヴァだけではなく、船で川を下らせて、他の都市にも売るのさ」
「近年まれに見るデカい取引っすか。稼働してる製造所は?」
「七つ。今度のことでうちは金貨三万枚も払ってる。エル・マチェテはカネのなる木になるのさ。支払い方法を受け持つ銀行家もついている」
「判事たちは?」
「邪魔するやつは誰でもサイコロステーキにしてやる。やつらにはこれまで渡した以上のものは引き出させない。サイコロステーキみたいになりたいなら、別」
エル・マチェテはザ・山刀って意味です。
ガラスの火屋がついたランタンの黄色い濁った光のなかで、食ったり飲んだり寝たりしているマフィアたち。
のちに知ることになるが、おれたちが飲んで吐いてしているあいだ、とんでもねえことが起こっていた。
†(短剣符)三つと傍線四本を挟んで三人称でお伝えしよう。
――†――†――†――
「あんた、何してんのよ!」
東方の宦官みたいに太ったオカマがわめく。
その手はケラケラ笑っている裸の男の髪をつかんでいる。
匕首横丁の雑貨店の裏の赤い鉄の扉の向こうにエル・マチェテの管理下にある〈石鹸〉工場がある。
そこは製造ではなく、濃度の再調整と小分けを主にしていて、十人の男女がこっそり〈石鹸〉を隠して着服できないよう、裸になって作業をしていた。
天井からは香辛料の入った箱と薬草が吊るされていて、警察犬がにおいを辿れないようにしてあった。
「ほーんとに何を見張ってたの? こいつ、こっそりヤクをつまみ食いしてんのよ!」
見張りを仰せつかっていた男――腰に手斧、手に火縄銃――は肩をすくめた。
「どうしろっていうんだよ? 飲んじまったもんはしょうがないだろ?」
すると、オカマは笑いが止まらない男が再調整した〈石鹸〉を手に取って、軽く歯茎にこすりつけ、ペッと唾を吐いた。
「このバカは濃度を薄めてないじゃない。こんなのキメたら、ドラゴンだって死んじまうわよ! これ、全部工場に戻して、作り直さないといけないのよ!」
ドンドンドン。
オカマと見張りがドアを見る。
「くそっ。きっとまたサツよ」
白銀貨を三枚、見張りの手に押しつける。
「とっとと追っ払ってよ。いまはサツの相手をしたい気分じゃないの! ああ、もう! こんなに怒ったら美容に悪いじゃないのよ」
見張りがドアのそばにより、
ダダダダダダダ!
銃声。三十発の銃弾が鉄製のドアを貫き、見張りの皮と骨と内臓をズタズタにし、犬除けの薬草と香辛料がバラバラと落ちてきた。
白い髪の青年。
その左腕に機関銃が――銃身と銃剣と撃発装置が肉と骨と融合している。
顔はヤク中の大量殺人鬼らしい歪んだ笑み。
この世界の人間には縁のない箱型の弾倉を取り換えて、二の腕の機関部に三十発入り弾倉をカチンと音がするまで差し込む。
「ちょっと、あんた、やめ――」
オカマと九人の裸の男女、そして笑いが止まらない男を薙ぎ倒す――ケラケラ笑いながら。




