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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
1350/1369

第三十四話 ラケッティア、ジルヴァの故郷。

 城のなかの敷地を区分する大きな門への道をてくてく歩きながら、


「こんなこと、おれが心配する道理はないけどさ、あいつら社会に溶け込めるの?」


「でも、需要があるんだよ。ああいうアサシンで部隊をひとつ作って送ってほしいとか」


 孤児院に持ち込んだぬいぐるみはすぐナイフ投げの的にされて、ズダボロになった。

 絵本は最初のページを開くと、どの登場人物が死ぬのかきいてきた。


 ひでえ法廷闘争に巻き込まれて、ここがアサシンの島だってことを忘れていた。

 孤児を冷酷で無感情なアサシンに育てるというステレオタイプの孤児院があったとしても、全然おかしくない。


 ともあれ、ぬいぐるみにしろ、絵本にしろ、もらうもんはもらったので、おれの評判もちっとは上がるかもしれないが、じゃあ、あいつらの誰かがおれのために証言台になって、おれがナイスガイだってことを証言してくれるかというと、その可能性は限りなくゼロに近い。


 おれが納得いかない顔をしていたので、プレーヴェがこんなことを言った。


「この島で最高と言われたアサシンはあそこの生まれなんだがね」


「へー。なんて、名前?」


「きみも知っているはずだよ」


「……」


「……」


「……それって、もしかして、ジルヴァ?」


「とっくに知っていると思っていたがね」


     ――†――†――†――


 音速の壁を光の速さでよじ登って孤児院へ。

 子どもたちが模造ナイフで一対一の殺し合い訓練をしている校庭をすっ飛ばし、おれに何か言ってきた教師をすっ飛ばし、校舎の入り口の『この門をくぐるもの、業を担う決意を見せよ』という碑文をすっ飛ばし、絞殺科をすっ飛ばし、刺殺科をすっ飛ばし、隠蔽科をすっ飛ばし、隠密行動科をすっ飛ばし、家庭科をすっ飛ばし、侵入科をすっ飛ばし、院長室をすっ飛ばし、すっ飛ばしちゃいけない部屋をすっ飛ばしたことに気づいて、靴をギャリギャリギャリ!と摩擦の悲鳴をあげさせて、七色の光を発しながら反転して、院長室に飛び込んだら、院長は子どもたちをアサシンに育てるクレージーな孤児院の院長らしからぬビックリドキドキして、


「ああ、あなたでしたか?」


 ――院長は紳士である。


「ジルヴァジルヴァジルヴァ!」


「は?」


「ジルヴァ、ここの生まれなんだろ? 教えて、なんでも教えて! カネならいくらでも払うからさ!」


 金貨袋を院長の机にひっくり返す。

 ジャラジャラと流れる金貨をうらやましそうに見ている案内係を無視して、おれは院長に詰め寄る。


「いや、あの――」


「だめ? これ、違法なキックバック? 分かった! じゃあ、こうしよう! これは孤児院に対する寄付だ! そして、あんたはその寄付で、おれが開いた輸入雑貨店からトマトペーストを買う。あんたはトマトペースト10キロ分の代金を払って、おれはトマトペースト11キロを売り渡す。で、あんたは差し引き1キロのトマトペーストをゲットして、それを売って、代金を懐に入れる。おれのほうはトマトペーストの代金で回収したカネをまたあんたに寄付する。それを繰り返せば、あんたはこの寄付額からトマトペースト10キロ分とちょろまかしたトマトペーストの販売コストを差し引いた額を懐に入れられる。な、いい話だろ? だから、ジルヴァについて教えろよ、コラ!」


「いや、教えると言っても――」


「ジルヴァは最高傑作だったんだろ?」


「そうですが、親が誰かなどは知りませんよ。ある日、この島の海岸に流れ着いてきたんです。彼女が赤ちゃんのとき、籠に乗って」


「なにぃ!? あんなクーデレ美少女を海に捨てるバカがいたのか? で、それから?」


「孤児院で訓練をしましたが、ここの訓練では持て余してしまうほどの才能を見せました。特に影魔法については」


「小っちゃい幼女のジルヴァが何してたか知りたいんだよ?」


「他の生徒と同じで、特に何かに興味を持つようなことはせず淡々と暗殺術を会得していきました。特に隠密科の点数は孤児院が開いて以来の高得点です」


「そりゃあ、クルス・ファミリーの隠密番長だもん。昔から顔隠してた?」


「はい」


「知ってるか? あれって恥ずかしがり屋だからなんだぜ」


「そうですか。ここにいたころはてっきりアサシンとしての生き方をいつも心に刻むためと思いましたが」


「で、どうして、アルデミルに?」


「あの国の王都にアサシン・ギルドを作った方がいました。名前はいいません。その方が自分のギルドに彼女を迎えたいといって、それっきりです」


 ガールズの前のマスターか。


「どんなやつだった?」


「小柄な方です。紳士的で」


「ジルヴァは?」


「あのときは九歳くらいでした。それでももう二件の難しい暗殺をこなしていましたからね」


「やーん。なんかきいてるこっちが誇らしくなるぜ。なんかジルヴァの面白エピソードとかないの?」


「面白……あの子は面白いところを見せる子ではなかったので、あまり」


 あーあ、知らないの?

 ジルヴァって雷怖いんだよ? しかも、おれが雷がへそを取るって話したら、それ以来、雷がなると、おへそ、キュッと押さえるんだよ? 取られないように。

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