第二十七話 アサシン、司法への誘い。
フェルディナン・リサークが心にかかる夢を見て、目覚めたら、自分がベッドの上で『怪奇! 頭突きブラザーズ!』という名目の見世物になっているのを発見した。
彼とヨシュアのベッドのあいだに帽子がひっくり返っていて、小銭が二十枚くらい放り込んである。
静かにその帽子をヨシュアのほうに寄せると、少し頭痛を覚える他に体に異変はないらしいので、とっととこの部屋を出ることにした。
来栖ミツルはどこにいるのだろう?
彼がアサシンウェア姿できりっとかっこいい立ち回りをして、死んだことは覚えているし、地獄に三度落ちて、ヨシュアと頭突きをして、三度目にして地獄の悪魔が、
「またかよ!」
と、いい、来栖ミツルを観察できる水盤をめぐって頭突きをした後、薄れゆく意識のなかで、もう二度と来るんじゃねえぞ、と地獄を出禁にされてしまったのをなんとなく覚えていた。
もし、自分たちが気絶してから、服を与えられていなければ、来栖ミツルはあの格好のままなのだなあ、と思いながら歩いていると、黄色と青の縞の制服を着た役人が掲示板に官報を貼りつけていた。
そこには来栖ミツルが起訴されたことが書いてあり、リサークは慌てて、役人にたずねた。
「彼が何をしたというのです?」
「伯爵殺害を自供した」
「それで起訴されたのですね」
「いや、違う」
「じゃあ、どうして?」
「それは分からない」
「分からないのに起訴はされているんですか?」
「事件の前に起訴されることだってある」
「彼のかわりにわたしが自首することで彼を自由にできませんか?」
「真犯人が名乗りを上げるなら、それも可能だが、あんた、何の罪を自供するんだ?」
「それは分かりません」
「だよな」
「ですが、事件の前に起訴があるなら、自首の前に起訴があってもよいのではないですか?」
「ちょっと、あんたは誤解があるようだが、起訴されることが必ずしも被告の不利益になることではないんだよ?」
「?」
「起訴されることによって、ともかく彼は法的立場が得られる。現在、この来栖ミツルには何の立場もなく、法的には無だ。無である限り、判決は下らないし、恩赦だって得られない。そもそも刑に服することができないから、刑が満期を迎えることも永久にない。あんたはこの来栖ミツルのことを考えて、自首を考えているらしいが、それでもこの来栖ミツルは自由になるわけじゃないんだ」
「官僚機構の悲劇ですね」
「いや、これは喜劇なんだよ。喜ばしいことなんだ。なぜなら、官僚を制するものが世界を制する。世界征服の方法が具体的な形になって目に見えている。我々は常に世界征服の可能性に触れて生きている」
「世界征服の方法はふたつだけです。スロットマシンによる征服とそれ以外の方法による征服。そして、スロットマシン以外の方法で征服される世界はそもそも征服する価値がないのです」
「どこの国の風刺作家の引用だい?」
「これはわたしと将来を約束したフィアンセの言葉です」
「怖い女だな」
「え?」
「え?」
「……まあ、そのことはよいのです。それよりもミツルくんを救う方法はないのですか?」
「一番手っ取り早いのは、あんたが裁判官になることだな」
「わたしは一応、アサシンですよ?」
「ここはアサシン・アイランドだぞ」
「そうでしたね。しかし、裁判官に任じられるには専門の教育を受けないといけませんし、そういつも募集しているものではないでしょう?」
すると、役人は城を指差し、
「お城のなかに試験場がある。そこでいつも募集しているよ」




