第十五話 アサシン、門番との対話。
「お城には探偵以外は入れないよ」
「えっと。理由をきいてもいいですか?」
「伯爵さまが殺されたんだ」
「それは大変ですね」
「容疑者は全員だ。なんたって全員アサシンだからな。だろ?」
「はい。おれもそう思います」
「これ以上アサシンを入れて、容疑者を増やすなんて、馬鹿げてるよな」
「はい」
「だから、探偵のアサシン以外、入れることはできんのだ」
「わかりました。ちょっと出直してきます」
――†――†――†――
「お待たせしました。探偵のアサシンです」
「アサシン探偵ってわけか」
「そうです。入ってもいいですか?」
「それがな、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんがいないあいだに情勢に変化があった。探偵を自称するアサシンどもがわんさかやってきたんだ」
「わんさかですか?」
「そうだ。わんさかだ。わんさかが気に入らないなら、どっちゃりと言ってもいい」
「わんさかでも大丈夫です」
「そうか。ありがとよ。お嬢ちゃんは優しいな。おれの死んだ妻の名前がワンサカでな」
「それは、お気の毒です」
「まあ、嘘なんだけどな」
「傷つきました」
「じゃあ、お詫びに入れてやるよ」
「ううん、それでは負けた気がするので、出直します」
「お嬢ちゃん、男前だな」
――†――†――†――
「おや。お嬢ちゃんは?」
「考えてる」
「それであんたは?」
「バーテンダーで探偵だ」
「バーテンダー探偵か」
「そんなところだ」
「探偵はもう入れないのはお嬢ちゃんからきいてるか?」
「ああ」
「だから、入れん」
「だが、バーテンダーだ」
「なあ、この城を見てくれよ。この陰気な城をよ。芋でつくった火酒を脳みその血管がパチパチ切れるまで飲むような連中が住む城に、かき氷乗せたジュレップ飲むやつがいると思うか?」
「確かめたことはあるか?」
「ない。でも、あんただって火に飛び込まなくても、飛び込めば焼け死ぬことは分かるだろ?」
「カクテルを飲むのはそこまでのことか?」
「まあな」
「じゃあ、待っていろ。ドライなやつを作ってくる」
「おい、城に入りたいんじゃないのか? おーい」
――†――†――†――
「クックック」
「また、別のが来た」
「僕はベリー探偵さ」
「ベリー探偵? っていうか、もう探偵はいらないって言ったよな」
「僕はベリーなんだよ」
「ガリガリの赤毛の目が大きくてギラギラしてるカボチャパンツのタイツのぴっちりとした上衣のナイフを隠し持ってる黒ずくめを通したら、おれの上司はおれのことをメチャクチャにどやしてくる。しかも、そいつは自分がベリーだとクスクス笑っている。精神が不安定な証だ」
「ベリーはとても安定した物質なんだ。国王が奴隷に、奴隷が国王になる混沌の世において、ベリーはいつもベリーなのさ。クックック」
「でも、ベリーは潰して砂糖漬けにしたらジャムになる」
「潰して砂糖漬けにしてジャムにならない物質なんて存在しないだろ」
「そんなことはない。人間を潰して砂糖漬けにしたことがあるけど、立派な人間ジャムになった。これから殺す標的たちにそれを壺に詰めて送ってやったら、こっちが手を下さずに半分が死んでくれた」
「人間ジャムなんて食ったら、コミュニティの敵とみなされる」
「アサシン・アイランドなのに?」
「島の原住民には食肉の習慣があるのは知っている。だが、おれたちは食わん」
「まあ、人間のことをジャムの原料としか見ないやつは危なっかしい。でも、ベリーは違う。とても安定している」
「じゃあ、お前はパニックは嫌いか?」
「ククッ、そんなことはないよ。パニックは大好きさ。パニックは体にいい」
「おれの従兄弟は酒は体にいいって言いながら、死んじまったよ」
「それは空想の従兄弟なんだろう?」
「これは本当だ」
「ヴォンモからきいた話とは違うねえ。ククク」
「別におれは病的な嘘つきじゃあないんだぜ」
「知ってるかい? 嘘も潰して砂糖漬けにすればジャムになれる」
「嘘なんてどうやって潰すんだ?」
「怪しげな証券とか、壺とか」
「何が悲しくて、そんなジャムを作らないといけないんだ?」
「そこでベリーが登場さ。ベリーはおいしいだろう?」
「分かった。じゃあ、お前はベリーなんだな?」
「うん」
「じゃあ、通っていいぞ」
「だけど、それはヴォンモに譲ろう」
――†――†――†――
「で、お嬢ちゃん。今度はなんだ?」
「おれはお屋敷付きの幼女になることになりました」
「お屋敷付きの幼女ってのは何なんだ? おれもこの職について五年。いろんなやつに門前払いを食らわしたが、お屋敷付き幼女ってのはきいたことがない」
「あなたがお城の廊下を歩いていて、クッキーが椅子の下にあるとき、お屋敷付きの幼女がいたら、代わりにかがんで取ってあげられます。でも、もし、お屋敷付き幼女がいなかったら、そのクッキーを取ることができません。お屋敷付き幼女がいなかったばかりに取ることができないクッキーはどうなるか、分かりますか?」
「どうなるんだ?」
「ゴのつく生き物の餌になって――」
「なんてこった! やつが増殖するのか!? おい、お屋敷付き幼女! はやく行け! 城じゅうの椅子の下にあるクッキーを取ってくれ! やつらが食い太る前に!」




