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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
アサシン・アイランド 名探偵は真犯人編
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第十四話 ラケッティア、城の朝。

 人が窓を開けるのは朝のさわやかな空気を入れたいからか、激ヤバコスチュームを放り捨てたいから。


 ビー・マイ・ベイビーを口ずさみながら、ブツを放り投げる。


 すると、直後、ブツの包みがポーンと返ってきた。


 一度であきらめていては人間、何事も成し遂げられない。


 ビー・マイ・ベイビーを口ずさみながら、放り投げる。


 ポーンと返ってくる。


 窓から顔を出す。

 助手のフィッツくんの部屋は崖を繰り抜いた部屋で窓の下は五十メートルの谷へ切り込んでいる。

 谷はほとんど垂直でおれが捨てたブツをキャッチして投げ返せるような人間がへばりついていない。


「この部屋、冬、寒くない?」


「そうですね。冷えはきついです」


「ところで、ここじゃあアーティチョークはどこで買うんだ?」


「サンサルバド通りに八百屋がありますよ」


「へー、そうなんだ、それは素晴らしいねえ――と、見せかけて、うおりゃ!」


 まるでブツを捨てるのをあきらめたかのような挙動からのフェイント。


 人間とブツの違いは考えるアタマがついてることだよ、小林少年。


 もちろん人間の不幸の九十九パーセントはその考え過ぎるアタマから発生しているのだが。


「それで先生、これからどうするんですか?」


「刑事事件の捜査は誰がやるんだ?」


「治安判事がいます」


「カネで買えるかな?」


「え? い、いえ、試したことがないので」


「それはいけないな。是非とも、一度試してみるべきだ。治安判事を買えるかどうか。買えたら、夢が広がる。嫌なやつを階段から突き落したり、売春宿でオッパイとケツを追いまわしたり、高利貸しを刺したりしても、治安判事がカネで買えれば、何も心配することはない。もちろん、カネで買えない治安判事もいるだろう。実際、ひとり知っている。でも、買えないからなんだ? ただ、ちょっと牢屋に入るだけじゃないか」


「先生は探偵なんですよね?」


「当たり前さ。なんで?」


「うーん」


「とりあえず、この城のあちこちを見てまわりたい。さあ、ドアを開けよう。わくわく推理ゲームがおれたちを待ってい――って、どうぁ!?」


 ドアを開けると、そこには捨てたはずのブツが置かれていた。


     ――†――†――†――


 おれの助手になることで、フィッツはあらゆる労働から解放されている。

 それを考えると、こやつ、なかなか切れ味のある人間、つまり、切れ味人間なのだ。


 歳は十四歳で、おれより年下。

 だが、もっとおさなく見える。たぶん、小柄なせいだろう。


 アサシン・アイランドの住人だから、アサシンなわけで、これまでふたり殺したことがあるそうだ。

 ふたりとも船乗りで、ふたりとも人さらいで、ふたりとも治安判事をカネで買えるかチャレンジした。


 さて、朝の労働から解放されない召使いやコック、メイドたちは尻尾に火をつけられたみたいに暴れまわっていた。ポタージュの味がマズいとか、洗濯物の乾かし方が気に入らないとか、そういった些細なことでピキって、刃物を抜く。


 身を低くし、蟹のように動きながら、相手を牽制する。


 この殺し合うふたりのあいだを助手とともにグリコのポーズで走り抜け、グリコのポーズのまま大きな召使い食堂へ。


 高くて広い体育館のような大部屋に長いテーブルが何十本と並んでいる。

 ビスケットは黄色い岩石みたいな形をしていて、ポタージュはひっくり返した兜のようなスープ鉢に入っていた。コーヒーはおかわりし放題だが、調子に乗っておかわりしまくった次の日はチコリの偽物が出る。


 おれの対面にいる男はビスケットを口に詰め込めるだけ詰め込んでいた。

 そして、頬がパンパンに膨れ上がるとポタージュをごくごく飲む。


 ポタージュはヤケドしそうなくらい熱いはずだが、対面トイメンの食いしん坊は涼しい顔だ。


「食えるだけ食っとかねえと働けねえんだ」


「別に何も言うつもりはないよ」


「人間はなんであれ、物を食わなきゃいかん。聖人からレイプ魔まで食べなきゃいけないのは共通事項ってやつだ」


「それにどちらも暴徒に襲われて生きたまま焼かれる」


「聖人は後でステンドグラスになったり、お守りになったりしますよね」


 食いしん坊は立ち上がりながら、


「じゃあな。ところで、そのビスケットをひとつくれるなら、いいこと教えてやるよ」


 はい、とこたえる前にビスケットは食いしん坊のブラックホール胃袋へ。


「食ったんだから、教えろよ」


「分かってるって。伯爵が死んだ。殺されたのかもしれねえって話だ」


「それは知ってる」


「だから?」


「ビスケット返せよ」


「やだよ。もう食っちまったからな。あばよ」


「あっ、行っちまいやがった」


 食い終わった使用人の群れに混じり、食器を皿洗い場に持っていく。

 氷みたいに冷たい地下水が湧きだしていて、何か特殊な成分があるらしい、さっと皿を水にくぐらせるだけで、汚れはきれいに落ちている。


 洗い場では治安判事がやってくるとこの話で持ち切りだった。

 どいつもこいつも殺し以外の余計な罪を二、三個こさえちまっているらしく、それがバレるのにビクビクしていた。


 横領、窃盗、武装強盗。

 こいつら、ホントにカタギか?


 いや、アサシンだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 光の中をゆっくり降りてくるアサシンウェアですからね… きっと〇ァッキンな神さまが投げ返しているのでしょうかね(*^^*)
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