第八話 アサシン、神さまの真意はともかく。
アサシンには殺した人間が化けて出たものと出なかったものがいて、化けて出たものはいろいろご利益のありそうな石ころにカネを出し、あるいはもっと手っ取り早く聖職者になってしまうものもいた。
精霊の女神教会の司教会議は聖戦以外の理由で殺人を犯した聖職者にはご利益がないと決定を出していたから、苦労して神学校に通う意味はなかったのだが、奇跡的にもそれを知るアサシンは存在しなかった。
そもそもアサシンの標的が高位聖職者であることは珍しくないし、しかも雇い主側も高位聖職者なのだから、知ったところでどうということはない。
聖職者は自分にとって邪魔な競争相手(これは悪魔ではなく同業者なのだ)の頭に雷か岩が落ちることを神さまにお祈りし、どうも神さまはお忙しいらしいと思ったら、とりあえず神さまの代わりに自分で済ませてしまうことにする。
司教が司教を殺すとき、それは聖戦になるのだ。
しかし、問題は司教が直接アサシンを飼いならす場合で、これはかなり罪深いのだが、こうした司教たちは自分が地獄に落ちてでも、神の御意思を成し遂げんとする歪んだ正義感の持ち主であることが多かった。
神の御意思、神の御言葉。
それが正しいのかどうかは神さまに降臨してもらうまで分からない。
降臨したら降臨したで「え? おれ、そんなこと言ってない」とか「考えたこともねえよ、そんなこと」なんて言われるかもしれない。
それでも聖職者はアサシンを飼いならす。見当はずれの天罰を下すリスクを負いながら。
なあに、間違えたら自殺して地獄に落ちればいいだけだ。
ところで中世ヨーロッパ風コミュニティにおいて、教会は何でも相談所であり、お祈りのときエッチなことを考えたけど神さまは勘弁してくれるかなとか、隣の国に戦争を仕掛けるのだけど神さまは許してくれるかなとか、いろいろたずねる。
ヴォンモたちの相談は第一に来栖ミツルの居場所。第二に泊まれる場所の紹介だった。
「それなら、教会に宿泊施設があります。好きなだけいてくださって結構ですよ」
にっこりと笑う優しそうな司祭。
その後ろには司祭のためなら神でも殺す覚悟の少年と少女がふたり。
宿泊施設を利用するにあたって、問題は朝と夕のお祈りに強制参加させられることと職業のことだった。
ヴォンモは神さまのためのアサシンに近いメンタルをしているし(モレッティとゆかいな仲間たちのことはなかったことにしておく)、クレオは親を大切にするという道徳を押し出すことができるが、ジャックはバーテンダーなのだ。
お酒禁止は神さまが最も「だから言ってないって、そんなこと」と言いそうなルールだが、この若き司祭はしっかり守っているようだった。
「クックック。これは困ったなあ」
「別に問題ない。バーテンダーで通す」
「え? でも、それだと最悪、あの後ろの子たちが襲ってくるかも」
「受けて立つ」
「うーん」
「バーテンダーはオーナーがおれに用意してくれた生き方だ。それを恥じるつもりはない」
「わかりました。おれも覚悟決めます。今日は野宿になるかもしれないし、ちょっと殺し合いが起きるかもしれませんけど、おれも師匠たちに叩き込まれたアサシンです。殺ってやります」
「ククク。どうやら、僕がしっかりしないといけないみたいだね。そうだ、こうしよう」
司祭にそれぞれの職を言う。
アサシンであることは構わないが、バーテンダーであることはいろいろとマズい奇妙な神の家にて、ジャックは司祭相手に自分の職はバーテンダーだとはっきり言った。
後ろの少年少女が短剣を抜き、ジャックも薪割りナイフを抜き、殺し合い待ったなしになったとき、クレオがつけ加えた。
「彼はノンアルコールカクテル専用のバーテンダーなんだ。クックック」




