第五話 ラケッティア、あのときの悪夢。
将を射んとする者はまず馬を射よっていうけど、
「義伯父上。肩が凝っていないか?」
「義伯父さま。なにか飲むものを買ってきましょうか?」
来栖ミツルを射んとする者はまずドン・ヴィンチェンゾを射よ。
いや、下心見え見えですよ。
ちなみに以前ヴォンモに このことわざを教えたら、
「おれはお馬さんがかわいそうだから、最初から将を殺します」
と、言っていた。尊くて、男前。
しかし、考えてみたら、このふたりもアサシンだったな。
この姿ならレイプはないが、あまり気分のいいものではない。
老人の心臓がケツの危機にさらされ続けたら、ぽっくり逝くかもしれん。
そうなったら、カラヴァルヴァで抗争が起きる。
一応、ボスがドン・ヴィンチェンゾで、アンダーボスが来栖ミツルなのだが、一気にふたりいなくなったら、どうなるだろう?
ボス引き継げる人間がいないんだよなあ。
ところで、さっきから、ちょっと怖いことがある。
港から店が並ぶ通りへ上り坂を歩いているんですが、そのうちの一軒の前でヨシュアとリサークが止まって、売り物をじいっと見ている。
その店は少女暗殺者専門の店だ。
少女暗殺者専門の店、というのが、もうパワーワードっていうか、いろいろアウトな気がするが、ふたりはこの店にずんずん入っていく。
おいおい、お前ら少女じゃないだろ、って突っ込んでもいいが、なんか怖いこたえが返ってきそうなので言えない。
とりあえず、現実逃避するためにおれも品揃えを見てみる。
軽めの短剣。毒の小瓶。絞殺にも使えるリボン。それに仮面が顔全部隠す、目の周りを隠す、口元を隠すの三パターン。
「お孫さんへのおみやげですか?」
「自分の孫を暗殺者にしたがる老人はいるのかね?」
「三年にひとり、そういう狂ったお客が来ますよ」
「ああ。そこは狂っていると思えるわけだ」
「そりゃそうですよ。わたしたちを何だと思ってるんですか?」
「そう怒らないでくれ。さっきここの官僚機構から死を宣告されたばかりなんだ。こんなか弱い老人にひどい話だろう?」
「そうですかねえ。わたしにはか弱い老人には見えませんよ」
暗殺用の黒装束もある。
ぴったりと全身を覆うオーソドックス・タイプ、オーソドックス・タイプにスカートみたいなものとか飾り紐を組んだ胴衣がついたアサシンウェアに近いもの、ボーイッシュな短パンデザインに猫耳カチューシャをつけたもの。
「ところで、お客さま。あっちのふたりはお連れさんですよね」
「忘れようとしていたのだが、そううまくいかないな」
ヨシュアとリサークはあるひとつの衣装に目を釘付けになっている。
ファック。
あのときのアサシンウェア。
猫耳と絶対領域付き。
それがガラスケースに入って、プレミアム。
おかしい。おかしいおかしいおかしい!
確かに処分したはずなのに! なんで!?
――†――†――†――
「あー」
「どうしたんだい、コーデリア?」
「急に思い出したことがあって、それというのも、ほら、クルスのところの女の子たちが着てる仕事着。あれをちょっと改良したものを用立てたことがあるんだけど、あれって防火加工がしてあるのよ。だから、ドラゴンの口のなかに放り込んでも燃えないの」
「どうして、急にそんなことを思い出したの?」
「うーん。なんでだろ」
「でも、ドラゴンの口のなかで燃えない服――詩情をくすぐられる。ああ、僕にペンと紙を!」
「待ってて! 今すぐ持ってくるから!」
――†――†――†――
ヨシュアがリサークにドヤ顔する。
ヨシュアは見たことがある。
リサークはぐぬぬ顔する。
リサークは見たことがない。
でも、知っている。
「これをくれ」
「これをください」
ほぼ同時だった。
店員さんは「すいません。こちらは一点もので」とこたえる。
すると、リサークが――、
「きみ、遠慮したまえ」
「貴様が遠慮しろ」
「わたしはまだ見たことがない」
「それがどうした? あれはミツルがおれに心を許した証だ。あとは体が許されるだけだ」
「死ね」
「ほう。奇遇だな。おれも同じことを考えていた」
「表に出ろ」
「いいだろう」
三分と経たないうちに、凄まじいハイレベルのアサシンがふたり、マジ切れの一騎討ちで殺し合っているという話が島じゅうをめぐった。
あまりにも凄まじい戦いに島民はなぜふたりが戦うのか、あれこれ予想をした。
そのうち誰かが帽子をひっくり返して賭けを引き受け(アサシンばかりの島にだって賭け屋はいるのだ)、島でも高位のアサシンたちが集まって、ふたりについて出た結論は大陸一のアサシンを決めるために戦っているのだろうという結論が出された。
そのあいだ、おれは原因を買った。
「その服をくれるかな? 焼いてしまおう。こんなものがあるから戦争がなくならんのだ。ああ、それとあっちのリボンをいただこう。これはプレゼント用に包装してくれ」




