第三十三話 ラケッティア、ミミさん→ミミちゃん。
戦場社畜のトキマルとシャンガレオンが一連の作戦で一番ひどい目に遭ったと言ったが、シャーリーンの狙撃用望遠鏡を格段いいものにしたらこの上なく上機嫌になって、一方、妹ちゃんにいかにトキマルが戦争難民を助けるために頑張ったか話したら、尊敬の眼差しがキラキラ獅子座流星群となり、トキマルも納得した。そして――、
「アレンカちゅわん! ヴォンモちゅわん! ペロペロを! ペロペロしましょ! ね!?」
「きゃーっ!」
「ひえーっ、なのですー!」
ミミさんはミミちゃんに戻った。
幼女救済軍はそれを国名として、ボストニアとセブニアに国をつくった。
幼女が国家の存在意義の国が誕生したのだ。
ミミちゃんは、まあ、生き神さまみたいになった。
幼女の危機が起きたとき、東の空よりあらわれるだろう、みたいな予言っぽいものを残したが、実際はアレンカとヴォンモをペロペロするための方便に過ぎない。
まあ、純粋な国家の国母が変態だった事実はよろしくないので、これでいいのではないだろうか。
「もう武器売買は懲り懲りだよ」
アスバーリがつくったジンジャー・ジョヴァンニーノを飲みながら、本当にこった肩を手で揉む。
何週間ぶりかの〈モビィ・ディック〉、フルメンバーである。
「ところで、イスラント。助けた女の子はどうしたんだ?」
「知らないね」
「えー、おいしいシチュだったのに? 敵だったアサシンと何度か戦い、捨て駒にされたところを助けるなんて」
「興味ない」
「ジャックさん、何とか言ってやってくださいよ」
「何か言ったら、殺すぞ」
「だそうだ。すまない、オーナー」
「じゃあ、アスバーリ」
「わたしか。そう、だな。イスラントはいいことをしたと思う」
出待ち幽霊とマリスがやってきた。
出待ち幽霊がバーボンダブルを、マリスが同じものを、と言ったので、素直にオレンジジュースにしなさいとたしなめておく。
一同、出待ち幽霊が飲んだバーボンが半透明の姿のなかをどのように落ちていくのか興味津々だったが、ダブルのバーボンは消化器系に落ちるかわりに神経系に吸収されて、そのまま一滴残らず脳みそにまわった。
「アル中待ったなしだな」
「みっちゃん、幽霊がアル中になると思ってん?」
「うん」
「ならへんわ。ただ、ちょっと手が震えるだけ」
死後の世界にもアルコール中毒があるとすれば、生存中のアル中は死後のアル中のお試し版ダウンロードに過ぎないことになる。
「ねえ、マスター」
「ん? マリスにききたいことがあるんだけど、なんか怒ってる?」
「怒ってないよ」
「でも、最近、いつもほっぺた膨らませてるじゃん」
「勝手に膨らむんだ。それになんか熱っぽい」
「それは――恋、なのではないか」
「アスバーリ、名探偵か?」
「絶対違うと思うね」
しかし、それは怒りでも恋でもない。
アサシン限定のおたふく風邪だと分かり、それがもとでトラブルの坩堝に放り込まれることを武器商売に懲りたラケッティアは予想もしないのだった。
ボストニア=セブニア二重王国 マッチ・ポンプ・セールス編〈了〉




