第二十八話 弐号社畜、ビバ・レボルシオン。
このごろ、セブニアの兵器商たちのあいだで、ボストニアにおける兵器商の粛清の話がきこえてきて、ちょっとしたパニックがあった。自分たちにも同じことが起きるのではないかと思っているのだ。
その結果、武器のお値段が下がり、不良品が減った。
死の商人とは呼ばれるが、そこは人間、死んだら終わりである。
こうして、強欲老人君主のご機嫌を取り始めた今日この頃、クレオは全く別の行動をとることにした。
革命組織との接触である。
もともと考えが悪魔っぽいところのあるクレオなので、いつか役に立つだろうと思い、この戦争に反対する革命党との接触は考えていたのだが、他の兵器商たちが君主制度の尖兵となるためにゴマをする今こそ、革命家たちに武器とカネを流すときだと考えたのだ。
旧市街の迷路のような道を抜けた先にある小さな広場に出る。
「あのー」
と、フェリスがたずねる。
「なんだい?」
「わたしってここの王さまに味方するようにって、ミツルくんに言われたんだけど」
「ああ、それか。それについても考えたんだけど、きみには革命組織のお手伝いをしてもらうことにしたんだ。彼らは王侯貴族は生きるに値しないと思ってる過激派だから、きみが味方になったら、王都はパニックに陥ると思うんだ。クックック」
「えー」
「パニックはいいよね。パニックは健康にいい」
「イスラントさんはどこに?」
「秘密警察の尾行を引き受けてる」
「ああ。なるほどー」
革命組織の秘密本部は書店の裏にある倉庫にあった。
積み重ねた本に座り、革命党の党首はクレオに、
「何でも吹き飛ばしていいんだな?」
「ええ。もちろん。ククク」
「秘密警察の本部も? 貴族の舞踏会も?」
「なんでも望みのままに」
「じゃ、じゃあ、王宮もやっていいのか?」
「じゃんじゃん、やってください。ククク」
セブニアの救われないところは革命家が王さまに負けないほどのアタマのおかしい人間だということだ。
その日からフェリスは同志となり、革命の苦楽をともにする、というわけでもないが、とにかく革命勢力の火力を一手に担うことになった。
クレオは空気に満ちみちたパニックをマイナスイオンみたいに貯金する手立てをつけると、自身の健康を祈って、ベリージュースを一杯飲んだ。
戦時下のベリージュースは薄くて、明らかにベリーではないものが入っていたが、二度言うように戦時下である。欲しがりません勝つまでは。
だが、クレオはフラマー村で母親が摘んだベリーを食べたくなった。
パニックは体にいいが、一番は母が摘んだベリーのジャムである。
「ああ。ジャムが食べたいなあ。トホホとか言ったら、母さんのジャムが降ってこないかなあ」
と、見上げた空にはバジル卿の戦艦がある。
「ああ、いかん。空中戦艦がジャムの壜に見えてきた」
バジル卿の家に戻る。
主人が空にいて、メイドも空にいるので、あちこち掃除が行き届かず、出したものが出しっぱなしになってきている。
イスラントはまだ帰ってこない。
そう思い、バジル卿の図書室から、歴史上の虐殺かおいしいベリーの料理法の本を探していると、玄関のドアノッカーを打つ音がきこえた。
あの鉄のライオンが鉄の輪っかをくわえたノッカーはガンガンと高圧的な音を屋敷じゅうに響かせる。
ドアを開けると、秘密警察のスパイがニコニコしていた。
「きみの相棒は――」
肘を曲げてショットガンをぶっ放す。
殺気を毒化する古い手法を浴びせた散弾はスパイの体を内側から焼き蝕み、しばらく見ていると、肋骨と空っぽになった腹があらわれた。内臓は溶けてなくなったらしい。
「ふむ。これはなかなか使えるぞ。ククッ」
さて、要件はなんだったか?
まあ、大切な要件だったら、また人をよこすか。
図書室に戻ると、またノッカーがガンガン鳴った。
「もー。うるさいね」
ドアを開けると、重騎兵用の鉄板をゴテゴテつけたスパイがいた。
「貴様――」
肘を曲げてショットガンをぶっ放す。
今度の弾は大口径ドリル弾である。二倍の厚さの鉄板もぶち抜く。
ただ、今回は手に持った手紙が残った。
それを拾って読んでみると、
『貴殿の相棒はこちらにあずかっている。生還を望むならば、最終兵器を持って、本部まで出頭すること』
と、あった。
「ふむ」
クレオはうなずくと、図書室に戻り、その昔、王さまが一揆勢力との講和をするといって城に呼び、夕食の席で罠にはめて皆殺しにしたという本を読み、そのまま安楽椅子にかけたまま、寝てしまった。




