第二十七話 ラケッティア、人身売買は雑魚敵のお仕事です。
マフィアのなかには病的なサイコパスは大勢いる。
それは間違いない。
だけど、フランク・コステロは? ラッキー・ルチアーノは? カルロ・ガンビーノは?
そして、リトル・ニッキー・レンジリーは?
サイコパスはせいぜい殺し屋か拷問係どまりだ。
マフィアものの実録本で人気のあるのは抗争と殺人、ハリウッドとの関係、ラスベガスのカジノ、そしてケネディ暗殺事件だ。
シカゴ・マフィアの重鎮サム・ジアンカーナの弟チャック・ジアンカーナは兄についての実録マフィアものを書き、マフィアがケネディ暗殺に関わったような関わっていないような描写を売りにした。
ただ、この本にはサイコパスどもの何気ない日常が描かれている。
ある床屋の話だ。
その床屋はふたりの老人が経営していた。
確か兄弟ではなかった。古くからふたりでやっている、小さな床屋だ。
ところが、ふたりは理髪師組合に入っていなかった。
他の床屋はみな入っている。
組合を牛耳っているマフィアに組合費を払い、マフィアが指定したところからだけ割高なシェービングフォームを買うのだが、ふたりの老人はその組合に入ろうとしなかった。
そこでマフィアがその店を訪れた。
「みんな組合に入ってるんだぜ」
「入ってねえのはお前らのとこだけだ」
「わしらは入らんよ。静かに商売したいんだ。放っておいてくれないか」
ふたりの老人を、マッド・サム・デステファノがバットで殴り、ウィリー・ポテトズ・ダッターノが指を踏み折り、フィフィ・ブッチエリとターク・トレロが店のなかのものを片っ端からぶっ壊した。
おれはサイコパスなのかなあ。
違うと思ってるけど、狂人のほとんどは自分が狂っていることに気づいていない。
まあ、ラケッティアの道は険しいってことだ。
ただ、あの国王に同じにおいを感じ取られるのはどうもよろしくない。
いつかはっきり言ってやる。おれは狂ってないって。
――†――†――†――
と、思っていた時期がわたしにもありました。
「マスター、狂ってる!」
「ハイハイハイ!」
以前、木の棒と材質不明のボールで草野球の真似事をしたことがあった(デル・ロゴス商会のそばで見つけたボールだったから干からびた生首である可能性が捨てきれないのが怖い)。
そのときにピッチャーの煽り方を教えてあげたのだが、それがこんなふうに返ってくるとは思わなかった。
ガールたちは宿屋を出て、二ブロック行った先の曲がり角から顔だけ見せて、おれを煽る。というか、断罪してくる。訴因はもちろん――、
「まあ、ミツルさま。マフィアにとっては〈狂ってる〉ことは大変好ましいことだと教わりましたわ。マッドドッグ・コールやマッド・サム・デステファノやクレイジー・ジョー・ギャロみたいな情け容赦のないあだ名がいただけるよう、このウェティア、日々精進を重ねていきます」
「マッドの称号って精進で得られるものなのかな、という疑問は置いておいて、おれ、これから人身売買に手を染めるよ? 売るのはウェティア。美少女エルフを売るなんて、チート・ハーレム系の最初に出てくる雑魚敵奴隷商人みたいだよね」
「よく分かりませんが、ミツルさまがなさることは、ジェノヴェーゼ・ファミリーのウィリー・モレッティがニューヨークからニュージャージーへ派遣されるようなものと理解しておりますわ」
「前向きに取ってくれていてうれしいです」
ハングド・マン通りを行くと、もう住人のおれを見る目が違った。
生き残った奇跡の人。キング・オブ・死の商人。戦争侯爵。
物見高いやつらはおれがどんな武器を売りに行くのか興味津々だ。
だから、ウェティアしか連れずに(ガールズたちはずっと後ろからついてきていた)歩いているのを見て不思議がっていた。おれが、この武器は敗北主義者には見えないというと、みんなが、空中を指差して、なんて素敵な戦車なんでしょう!と騒ぎ始めた。
世界平和へのアプローチはこのあたりのペテンにあるのかもしれない。
その後、ガールズたちはおれのすぐそばまでやってきたが、それというのも、ウェティアが敷石のつなぎ目でつま先を引っかけて、どんがらがっしゃんのどんまで鳴ったので、大慌てで抱きかかえた。そりゃ、こんな美少女エルフを抱きしめるなんて、と思うが、もしあと少し遅れていたら、二、三百人巻き添えにしてちゅどん!する。もちろん爆心地のおれもだ。たぶん、母ちゃんを呼んでも、おれとは分からないだろう。爆死したおれはへその緒よりも小さくなってる。
王さまのもとにやってくると、ちょうど〈将軍〉がデカいが動けない青銅砲のセールスをしているところだった。
国王陛下に置かれましては、ひどく退屈そうなご様子だったので、おれはサッとウェティアの足を引っかけた。
おれは耳を塞いで、口のなかで舌を巻き、目を固くつむって伏せた。
そのうち、体全体に固い細かいものがビシビシ当たるので、瓦礫片が降ってるのかと思ったが、それは金貨だった。
謁見の間の半分がきれいさっぱり消えていて、ついでにカンパニーの売り物も消えていた。
「こういう武器が欲しかったのですよ!」
少年王は高笑いしながら、金貨の雨を降らせた。




