第二十一話 弐号社畜、目をつむればイケる。
当然と言えば、当然か。
クレオとイスラントが乗った馬車は人気のない森に入っていった。
武器を全部箱に入れ、車体の下にベルトで縛りつけられている。
丸腰だが、ふたりとも素手で人を殺す方法を五十以上学んだ暗殺者である。
前の席に座る親衛隊員は暗殺について、全くの無学というわけでもなさそうで、ここぞというときに助手席にいる親衛隊員がさっと後ろを見て、気の置けない言葉をかけてくる。
「盗賊が出てるんだ」
すっかり砕けた口調で助手席の男が言った。
「だから、ちょっと道を変えないといけない」
「お気遣い痛み入るねえ。クックック」
「あんたたち、殺しをネタに生きてるんだろ? つまり、暗殺者ってこと」
「まあ、そうだね。本業はそっちだよ」
「どうなんだ? 殺しで稼ぐってのは? おれも秘密警察の暗殺部隊に入りたいんだよ」
「リーファみたいにか?」
「あの娘か? あれは長官の秘蔵品だ。ここぞというとき、あれを使うらしい」
「ククク。暗殺者として成功するのは簡単さ。ベリーを育てる母親がいればいい」
「なんだ、それは? 引っかけ問題か?」
「本当のことさ。ククッ」
後部座席の右側に座るクレオの左の袖が空っぽになって風になぶられている。
「少し眠りたい」
イスラントが言った。
「僕も寝たいな」
「寝てていいぞ。おれが起こしてやる」
目をつむると、クレオの唄がきこえてきた。
――ひとつ、ポケットにベリーがいっぱい。
――ふたつ、バケットにベリーがいっぱい。
――みっつ、風呂敷にベリーがいっぱい。
助手席の男が素早く振り向いて、イスラントにピストルを向けた。
イスラントとクレオが同時にその銃に飛びついた。
「はやく殺せ!」
馭者席で手綱を握っている男が叫んだ。
銃の射線はイスラントの頭をギリギリで外している。助手席の男はひとりでイスラントとクレオを相手にしたが、徐々に人差し指を引き金にかけたまま、銃口が自分の顔へと近づいてくる。
「アアアアアア!」
イスラントが咄嗟に目をつむると、銃声がして、助手席の男の顔が吹き飛んだ。男の体が馬車から落ちて、後輪がメキャッとその体を轢いた。
手にクレオの空っぽの袖が触れると、イスラントはその袖を馭者の首に巻きつけて、力いっぱい後ろに引いた。
足を突っ張った馭者は暴れたが、イスラントはきつく目をつむったまま、袖を引き続けて、そのうち、カリッと音がすると、馭者はぐったりと椅子に座り込んだ。
「袖が伸びたよ」
イスラントが目を開けると、白目を剥いて、舌を伸ばしきった馭者の顔が見えた。
血はどこにもなく、手綱を引かれた馬の尻が大人しく並んでいるのがランタンの光で夕闇のなかから浮かび上がる。
「ククク。たまにはこういうのも悪くない」
箱から引っ張り出した武器を全部身につける。
「確かに非常時の立ち回りは学べる。ところで――ここはどこだ?」




