第六話 ラケッティア、ネタバレを食らってる気がする。
おかしい。
確か、おれはラケッティア憲法の『全ての国民は美少女添い寝権の享有を妨げられない』の一文のもと、幸せベッドで睡眠を楽しんだはずなのに、目が覚めたら、別の場所にいた。
古くてタイル張りの、大きなバスルームで、おれの足は水道管に鎖でつながれている。
よーく見ると、部屋の反対側にクレオがいて、やっぱり足を鎖でつながれている。
そして、おれとクレオのあいだに銃を握って倒れる、頭半分が吹っ飛んだ下着姿の男。
「SAWで見た。でも、SAWは見たことない」
「ククク。なんだか、面白いゲームみたいだね」
「とりあえず、経験から察するに、これは現実ではなくおれの脳みそをトレースした夢のなかだ。たぶん、モレッティ絡み。モレッティ! いるなら出てこい!」
すると、真ん中で倒れていた死体が立ち上がった。
なんだろう。よく分からないけど、おれはいま物凄いネタバレを食らっている気がする。
「どうも。おはようございます」
皆さん、喜んでください。
イケメン悪魔の下着シーンですよ――頭半分吹っ飛んでるけど。
「ぱっくり開いたアタマから脳みそがボトボトこぼれ落ちてるけど、いいの?」
「少しくらい頭を軽くしたほうがいいときもあります」
「悪魔の脳みそって便利だな」
「わたしも同感です。それで経過報告と申し出があるのですが、どちらからおききしたいですか?」
「クレオ、どっちがききたい?」
「ミツルくんが決めてくれないかな? 自分が決断するより、人が決断して、その失敗を批難するほうがずっと楽だからね。クックック」
「いい性格してるな。じゃあ、申し出から」
「いちいち古城までやってきて、兵器を持ち運ぶのも大変でしょう? ですから、この悪夢チャンネルを使って、あなたたちのもとへ直接お届けいたします」
「それは楽でいいけど、ヴォンモを自分の目で見て、尊いと思う機会が減るのは残念。でも、まあ、しょうがないか。なにせ死の商人は生き馬の目を抜くごとき忙しさだ。で、経過報告だけど、そっちどんな感じ?」
「ヴォンモさんはとても楽しんでいて、フレイさんは亜空間リソースをじゃんじゃん使えることに満足です。ミミちゃんさんもとても楽しんでいます。ミミちゃんさんは相変わらず、物凄い力でチャンネルに干渉して、ここに入り込もうとしているようです」
「それって現在進行形?」
「ええ。どうやらミミちゃんさんはここからヴォンモさんの夢のなかに到達できると思っているようです。理論的にそれは不可能なはずですが、なにせ、ミミちゃんさんは普通ではありません。ひょっとしたら、ということもあります。もし、ここに入り込まれたら、そのときはどうしますか? Tポイントを稼ぐ観点からすると、ミミちゃんさんがヴォンモさんの夢のなかに入るのは非常に好ましいと思いますが、わたしはあの穢れを宿主の精神に関与させたくないと思っています」
「それに同意見。死守だ、死守」
「かしこまりました。ところで、武器売買はどうですか?」
「兵器」
と、クレオ。
「ん?」
「僕らがいまお世話になってる人物がね、昔、兵器商だったらしいんだけど、武器って言葉を嫌がるんだ。だから、武器はみんな兵器って呼ばないといけない」
「そっちはドラゴン戦車を持ってったよな。あれ、売れた?」
「売れないね。兵器市場は思ったより複雑さ。ククク。そっちはロングソードを五本だっけ?」
「売れたよ。ロングソードが一本銀貨五枚で五本。そしたら、ガールズが一個銀貨五枚のメリケンサックを八つ買った。ざっと銀貨十五枚の赤字だが、ショバ代を払ってるから、銀貨十七・五枚の赤字。だが、先行投資だ。メリケンサックはおれの武器を――」
「兵器」
「――兵器を安く買いたたく連中をボコボコにするために購入したものだから、次の売上に期待できる。そっちは?」
「売上ゼロだよ。ククッ。なにせ、みなが怪しんで、誰も手を出そうとしないんだからね。クックック。まあ、しばらくは商売を学ぶさ」
「イスラントはどうしてる?」
「いまのところ、気絶はしていない。それと、彼はファミリー以外の人間を呼ぶとき、貴殿って言葉を使うんだ。知っていたかい?」
「貴殿、ねえ。ジャックは知ってんのかな?」
「知らないんじゃないかな」
「教えてみようか?」
「僕もさんざん残酷なことをしてきたけど、そこまで残酷なことはできないね。ククク」
「お話に割って入るようで恐縮ですが、ミミちゃんさんの干渉が迫っています。次の出荷はどうしましょう?」
「おれはジミー・ダーモディが使ってたみたいな握りがメリケンサックになったナイフを三百本。トレンチナイフって言うんだけど、デザインについてはおれの脳みそ覗いて、『【超名作】ボードウォーク・エンパイア【脳に刻め】』ってフォルダを開いて、シーズン1かシーズン2のフォルダを開ければ出てくるから。メリケンサック部分は曇りのない真鍮で頼む」
「クレオさんはどうします?」
「シェフのおまかせコースで」
「かしこまりました」
「Tポイントは足りてる?」
「油田にぶつかったようなものです。好きなだけジャンジャンとれますよ。ミミちゃんさんから」




