第二十話 帳簿係、手を出したらマズいやつ。
自信を得て、悪魔から自らを解放した。
そう言えば、格好もつくが、実際のところは自惚れだ。
ともあれ、彼はもう帳簿を必要としない。
何度も行った組織犯罪への攻撃が彼を大きくした。
金銭では得られない快感を得るために彼が次に狙ったのは〈ちびのニコラス〉だった。
道理は通じるが、怒らせたら一番ヤバいカラヴァルヴァ最大のファミリーの本部に九十度のブランデー火炎瓶を投げようとした。
たまたま帳簿係捜索が空振りに終わったアルファロが戸口からあらわれ、咄嗟に手元の禁呪本を投げつけると、それが空中で火炎瓶にぶつかり、ダミアン・ローデヴェイクから預かった帳簿は燃え上がって飛び散り、灰となって消えた。
「待て、こらぁ!」
アルファロが走り出し、すぐにジャックとトキマル、それにシャーリーンに弾を込めながらシャンガレオンが続く。
テオフィロはこの襲撃者が例の帳簿係だと最初に気づいて、生け捕りにしろ!と叫んだ。
サッカー騒ぎが収まった後、誰が帳簿係に向かって『ボールだ! ボールがあるぞ!』と叫んだかはクルス・ファミリーのちょっとした謎として議論を惹き起こした。
トキマルはジャックのせいにし、ジャックはアスバーリのせいにし、アスバーリはその場にいなかったといい、誰かが『アレンカじゃねえのか?』といい、アレンカはそれをマリスになすりつけ、マリスはミミちゃんの仕業に違いないと言った。
ミミちゃんは全ての罪を引き受けた。
殊勝な態度を取りながらも、チラチラとアレンカとヴォンモの様子をうかがっているあたり、ミミちゃんじゃないのです!と言ってくれるのを期待してのことだろうが、もうこの話題は飽きられて、また誰かが蒸し返すまでの冬眠となり、ミミちゃんの自白は誰にも顧みられずに終わった。
ともあれ、夜明けまであと数分のところで『ボールだ! ボールがあるぞ!』という声があがって、帳簿係は〈オッチデンターレ〉と〈オリエンターレ〉の選手たちに十重二十重に囲まれ、蹴りまくられ、五月二十七日の朝日がリーロ通りへ差すころには帳簿係の姿は消えてなくなり、雑巾くらいの大きさのズタズタになった何かが残った。




