第十六話 レウス商会、帳簿の正体。
キックオフから集団発狂へと陥り、いまやカラヴァルヴァは辺境伯領よりも凄まじい状態。
こんなことなら地元でオイル・サーディンをさばいていたほうがよかったと思うが、身長二メートルの潔癖警吏の拳の雨を思うと、帳簿係探しに根性入れないといけないのは自明の理。
「なあ、テオフィロ」
「なんだい?」
「どうしてお前、あのトランクに執着するんだ?」
「別に。執着なんかしてないさ」
「嘘つけ。エロ本隠してあるんだろ」
「きみの思考能力をうらやましく思うよ。ときどきだけどね」
「言えよ。何があるんだ?」
「何でもないよ」
「ま、まさか自作のポエムとか?」
「詩は卒業した」
「お前、ポエマーだったのか!?」
テオフィロは向き直って、
「きみ、とっくに知っていたと思っていたけど」
「知らねえって。自分の相方がポエマーだったなんて。な、な、どんなポエム? 恥ずかしがらずに言えよ」
「忘れたよ。幼年学校の話だ」
「それも謎のひとつだな」
「なにが?」
「学校。結構上まで言ってたんだろ? そのまま行けばカタギで成功してたかもしれないのに、なんでこっちの世界にゲソつけたんだ?」
「退屈だったんだよ」
「退屈? カタギも通える売春宿も賭場もあるだろう? お前の顔と身長なら娼婦は喜んでタダ乗りさせてくれるぜ?」
「もう、この話はよそう」
「おいおい、耳まで真っ赤だ」
「赤くない」
「赤いって」
「そういえば、帳簿をもたせてくれたね。あの警吏」
「お前、ときどき話を変えるの絶望的に下手になるよな。まあ、もたせてくれたけど。これ、おれたちが帳簿を破棄したり、持ち逃げしたら、とっ捕まえてボコボコにできるって自信のあらわれだよな」
テオフィロは栞の挟んであるページをペラペラとめくる。
「クルスに全部押しつけて逃げられないかな」
「おれは喉が渇いたよ。どっかで酒、飲ませてくれないかな?」
「こんな深夜に?」
「そういえば、この帳簿を見つけたときに一緒に入っていた酒があった」
「あれ、くそマズいんだよな。でも、背に腹は代えられぬ」
アルファロは少し口にして、ブッと吹いた。
「まじい!」
「それを知ってて飲むんだから、世話がない。あ、帳簿にもかかってる――ん?」
「ゲホゲホゲホッ」
「これを見てくれ、アルファロ」
それは怪しげな荷物と現金のやり取りを記載したページだった。
濡れた部分は怪しげな荷物と現金のやり取りを記したインクが落ちて、不思議な文字が浮かび上がっていた。
「なんだ、この文字?」
「思うに、何かの古代文字。それが見ているだけで頭蓋の奥がヒリヒリする」
「まさか、これ――禁呪か?」
テオフィロはページを閉じた。
「おそらく。あくまで仮定だけど、コルデリノ商会はこれが禁呪と知らずに帳簿として使ったんだろう。これを盗んだ男は帳簿の正体を知っていた。だから、その鍵となる蒸留酒もどきと一緒に持ち歩いていたんだ。禁呪ならコルデリノをハメる以上の利益をもたらす」
「禁呪って言われてもなあ。おれたちの専門は暗殺とオイル・サーディンの販売だし」
「幸いカラヴァルヴァにはこの手のものに詳しい知り合いがいる。そこに持ち込んでみよう」
そう言ってページを閉じたとき、液がしみて、通用語に戻った『一日三十回素振りする』と書かれた栞――ラコリペルタスはふたりに気づかれずページの外へとふわりと流れて、そのまま風にさらわれていった。




