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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
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第六十一話 ラケッティア、ケツが根を張る前に。

「かつてディルランド王国は臣民の心、千々(ちぢ)に裂け、貴族と民の対立は修復不可能なものとなり、そして、先王は平時ならばその人柄ゆえ強い意志をもって政策を断行する力に欠け、そのため外国の侵略を許すこととなった。ディルランドはまたたくまに征服され、多くの民は暗黒の隷属を強いられることとなった。為政者の弱さがもとで起きたことであり、これにわたしは心より謝りたい。そして、感謝をしたい。独立を取り戻すために戦ってくれた諸人もろびとに。貴族も民も、民族の垣根を越えて、ガルムディアと戦ったなかには戦いの半ば倒れていったものがいる。彼らの犠牲はあまりに尊く、その上に見出した平和を我々は二度と手放してはならないと教えられた。わたしは未熟な人間だ。わたしが王になれたのは多くの人々に支えらえたからだ。多くの意見に接し、ときにうなずき、ときに打ちのめされ、そして立ち上がり、それを包括するにはどうすべきかを考え、今のわたしがある。そして、同じことができる国民をわたしは育てたい。即位するにあたって、まず行いたいのは教育の改革だ。わたしはこれを九年間義務付けるつもりである。もちろん、子どもを働き手と考える農業や工房ではこの政策に危うさを感じるものもいるだろう。だが、知識に裏付けされた行動を発起でき、知性をもってして問題に当たれる子どもたちはどんな武器や軍隊よりも強い力として国を守り、国を富ませるのだ。長い政策になるが、しかし、これはある一人の人物によって既に裏づけられている。九年間の教育を義務としてこなした人物がいた。彼の希望で名は出せないが、多くの人は気づいているだろう。その人物の智謀は尽きることを知らず、解放軍の勝利に著しい貢献をしてくれた。彼の国では全ての子どもが九年間の教育を必ず受ける。だから、彼のような人材が生まれる。わたしはディルランドもまたそのような国になれると信じる。国の未来を担う世代の運命を信じる国はどのような艱難辛苦をも克服できるのだ」


 宮殿の一番よく見えるバルコニーに机を置いて、後ろの人間にも見えるようにして立ったユリウスがそう演説をした。

 明らかに後半の義務教育はおれのことを言ってる。

 あんまり義務教育に夢を見るのはいかがなものかと思うが、でも、まあ、国民全員が自分の名前を書いて、四則演算ができたほうが国としていいのは間違いない。


 本当はおれもあのバルコニーにいてほしいと強く言われたが、辞退した。


 マフィアのボスが新しい国の王さまと一緒に並んでいたら、どう考えてもおさまりが悪い。


 このままとんずらするのが一番だ。


 解放と新王即位のお祭り騒ぎでディンメルの内と外からディキシーランド・ジャズが鳴り響く。

 今や、ディンメルでも酒は飲みたい放題だ。


 禁酒法は終わった。

 今や酔っぱらって裸になって水路に飛び込む時代がやってきたのだ。


 おれのほうはというと、現在、手持ちの金は金貨で一万七千枚。

 金貨一枚が三万円の価値だから、五億一千万円。米ドル換算で五百万ドル。


 内訳は例のボクシングで金貨五千枚。密輸で七千枚稼いだが、六千枚刑務所でバラまいたから、差し引き千枚。プラス、関税がなくなった後の会社と船の利用権売却で千枚。エルネストと一緒に押収された金貨のうち千五百枚は取り戻せた。ローバンその他南部の都市からの上納金二千枚、同じ額をディンメル包囲中の歓楽街で稼いでる、などなど。


 ドラッグビジネスなしでこれだけの金を稼いだのだから、ゴッドファーザーの守護天使がいるなら、おれのこと誉めてもバチは当たらないと思う。


 この大量の金貨を乗せた荷馬車と一緒にとっととディンメルを出発することにした。


 マグナスとハーラルの氏族たちにも挨拶はしたし、スヴァリスはおれより先に帰った。

 だいぶ長いこと留守にしてるので、カエルの合唱団が恋しいと言って。


 さっき挨拶しにいったら、ユリウスは、


「もし、可能なら、きみにはこの国にとどまって欲しいのだが。まだまだ助けて欲しいことはあるのだ」


「いや。おれはもう出発するよ。むしろ長居し過ぎた。それにおれ、いちおう悪党ラケッティアだからね。マフィアのボスが新しい青年王の側近なんて、どう考えてもうまくいかない」


「そうだろうか」


「そうだって。間違いなし。スヴァリスも帰ったんだろ? それがいい。正直なところ、おれやスヴァリスは動乱の時代には使い道もあるかもしんないけど、平和の時代だとむしろ足を引っ張る。なんかこうお堅い真面目な内政官とか礼儀にうるさい外交官がこれからのディルランドには必要なんだと思うよ。だから、おれたちは、ささっとおさらばするのが一番だ。そんなわけで笑って見送ってくれ。また会おう」


「ああ。またいつか。必ず」


 握られた手がまだジンジンする。


「ふあーあ。ねむ。トキマルじゃないけど、昼寝ってのは何かこうこたえられない何かががあるな」


 金貨を運ぶ荷馬車は牧草地と休耕地がパッチワークを描いている平野をゆるゆると進む。

 冬の晴れ空の青さは冷たさを感じさせるものだが、今日は日が強いので心地よい。

 何より金貨を詰めた箱をベッドのかわりにしているというのが、公衆衛生の観点から大変望ましい結果を人体にもたらしているのだ。


「まあ、今回の件は長くてしんどかったが、いろいろいいこともあった。ファミリーのメンバーも増えたし、何よりカネが儲かった。カラヴァルヴァではもっと腰を落ち着けて、悪党らしく稼いでいこう」


 後ろに続く荷馬車にはファミリーのメンバーが一人ずつ警備ということで乗っている。

 その連中からの返答は、


「いいんじゃない?」

「賛成なのです」

「腰を落ち着けてってのがいい。ふああ、ねむっ」


 まあ、よい反応ということにしておこう。


 おれはカネの詰まった箱の上に寝そべった。

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