表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
124/1369

第五十八話 戦記、ディルムス宮殿の攻防戦。

 ユリウスは剣を抜き、宮殿の門をくぐった。


 ここに帰ることを約し、その日がついに来た。


 一人、共和派貴族の刺客に追われていたときから半年ほどのあいだに運命は翻弄され、ここに行きついた。

 それは自分一人の力ではなく、自分一人の意志によるものでもない。


 むしろ、そのことがユリウスに勇気を与えた。


 そのとき、背後で重い鎖が勢いよく落ちる音がした。


 落とし戸が閉じたのだ。


 その結果、ユリウスと護衛兵五十人と切り離され、まわりに残ったのは……


「ほう、敵も味な真似をする」

「むー、これだとアレンカたちだけでなんとかするしかないのです」

「こっちはハナからそのつもりよ」

「……行こう」

「ちっ、楽できると思ってたのに」


 マリス、アレンカ、ツィーヌ、ジルヴァ、そしてトキマルだった。


 最後の宮殿攻略にユリウスも参加するという意志を伝えると、スヴァリス以外の全員が反対した。

 スヴァリスは条件付きで賛成したのだ。


「来栖くんのところの女の子たち、それに、あの異国の少年。この五人をそばにつけるなら大丈夫でしょう」


 それがいまやその五人のみになった。


 もちろん引き返すつもりはない。

 五人もそれは同じだった。


     ――†――†――†――


「お城ってもっときれいなところだったと思っていたのです」


 床には書類が散乱し、椅子なども倒れたまま、略奪を受けた棚は扉を半ば壊されている。


 文官たちも慌てて逃げたらしい、とユリウスがまわりを見渡す。


 そこは国に関する記録を納めた書物庫だった。


 どっしりとした樫の書見台が三十ほど並び、右側は通路のために開いた以外は全て本棚となっている。

 革装丁の帳簿にはディルランド王国の領土に関すること全てが書き記されている。

 国土の広さ。川や湖。都市の名産。ギルドの状態。人口。疫病に関するここ百年の経歴。


 一方、左側は大きなアーチが連なっていて、並木道と噴水のある中庭に通じている。

 植えてあるのはトチノキでその黄色づいた落ち葉が書物庫にまで吹き流されていた。

 石の台座から噴き上がる水はディムル川の上流から引いてきたものを水竜石でつくったパイプをくぐらせていた。


 幼かったころ、その噴水で遊んだことが思い出される。

 春の訪れを喜ぶ小鳥たちが水盤で水を浴び、それを夢中で見つめていたのだが、そんな自分のことを父上と母上もまた見守ってくださったのだ。


 アーチの柱の陰で何か動いた。

 咄嗟に剣で払うと、ボルトが刀身に当たって砕け散った。


 帝国兵が柱の陰から、書見台の後ろから、通路から姿を見せた。

 魔術師が二人、弓兵が三人、騎士が二人、歩兵が十三人。

 忠誠心は折り紙付き。全員が近衛兵団の軍服をつけ、そして厳格な禁酒主義者であった。


 歩兵たちが机や椅子を蹴倒しながら殺到してきた。

 ユリウスは先頭を走ってくる歩兵を左へかわしつつ剣を受け、小手うちを返して、肩の付け根に一刀を叩き込んだ。

 よろめく敵に押し込まれたが、そのおかげで自分を狙った矢を相手の体で受けることができた。

 死人の軍服をつかんで、そのまま弓兵へと押して進む。

 矢が次々放たれ、矢じりが胸当てを、骸の目玉を貫いて飛び出した。

 弓兵が骸と書見台のあいだに挟まると、ユリウスは剣を横に寝かせ、骸越しに弓兵を貫く。


 甲高い呪文の詠唱がきこえるや否や、炎の玉が飛んできた。


 バシャッ!


 焼かれたと思ったそのとき、水音を立てて炎が消える。

 ユリウスのまわりには大きな水の玉が五つほど浮いている。


 アレンカの防御魔法だ。


 ユリウスは床を蹴った。


 魔術師がまた炎の玉を繰り出す――一発、二発、三発、四発、五発。


 水の玉がなくなり、六発目を詠唱しようとしたころには魔術師の首はそのクラスを象徴する三角帽子もろとも刎ね飛んでいた。


 気づくと、中庭に立っていた。

 足元には首のない魔術師。

 他の五人は書物庫で戦っている。


 騎士一人と歩兵二人がユリウスを見つけ、かかってきた。


 たぶん、このときのことをユリウスは生涯忘れないだろう。


 騎士は一番左にいた。プレートメイルに身を包み、サレット・ヘルメットの隙間から苦しそうな呼吸音がきこえ、右手に騎兵用のピッケルを、左の腕には丸い盾を構えている。

 真ん中の歩兵は顎髭をたっぷり蓄えた男で、筒型軍帽に槍、胸の前で交差したベルト。顔を煤か何かで汚し、赤く血走った眼を見開いていた。

 そして、右の歩兵は装填済みのクロスボウを手にしていた。


「ぎゃあ!」


 クロスボウの歩兵がのけぞって、武器を落とす。

 うつ伏せに倒れた背中には苦無。


 騎士と顎髭の歩兵がかかってきた。

 剣を騎士のほうへ突き出し、盾で受けさせ、そのまま刃の真ん中を握り、柄頭ポンメルを横殴りで何度も相手の兜の側面に叩き込む。

 一度目で動きが鈍り、二度目で止まり、三度目でピッケルを落とした。

 ユリウスは顎髭の歩兵とのあいだに常に騎士の体が入るようにし、四度目の強打を浴びせた。

 騎士はよろめき、そのまま噴水に突っ伏した。


 入れ違いに顎髭の歩兵が槍を構えて突進してきた。

 すくい上げの斬撃で切っ先をそらしてから下方への突きに転じて、胸を突こうとすると、相手は槍を捨てて、歩兵用の片刃の剣を抜きざまにふり回す。


 バックステップでかわしたが、腕に痛みが走り、剣を取り落とす――上腕を十センチほど切られている。

 ユリウスは短剣を抜くと、それを投げつけた――剣は顎髭のすぐ下に刺さった。


 騎士のピッケルを拾い上げると、ユリウスは左手でそれをしっかり握り、痺れ始めた右手を添え、顎髭の歩兵の頭に何度もふり下ろした――頭蓋が崩れて、地に倒れるまで。


 出血で意識が揺らぎ始めた。

 その場に座り込み、左の袖を何とか破ると、それで傷を縛り、歯で噛んで力いっぱい引っぱった。


 ふと顔を上げると、両手で顔を押さえながらよろめく弓兵の姿が見えた。

 それに騎士も噴水から何とか体を起こそうとしている。


 ザシュッ!


 弓兵の喉が裂けて鮮血が噴き上がる。

 トキマルが現れ、噴水に踏み込む。


「メダルの騎士。悪いが、こいつはおれの獲物だ」


 トキマルは騎士の首に腕をまわして締め上げ、兜の耳当てに向かって囁いた。


「リッツ会戦の後、あんた、おれを解放軍に売ったな?」


 違う、と言おうとしたのだろうが、そのころにはトキマルの手で水に頭を押しつけられ、すかさず鎧通しの短刀で延髄を貫かれた。


 噴水が真っ赤に染まる。

 痙攣する骸から離れると、トキマルは書物庫のほうを振り返った。


「あいつら、派手にやってるな。後片付け誰がすると思ってんだ? ま、おれがするんじゃないからいいけど。そっちは? 出血ひどいようだけど、歩けるの?」


「ああ」


 ユリウスはふらつきながら立ち上がり、剣を拾った。


 トキマルは、ふーん、と味も素っ気もない口ぶりで刃を脇に挟んで血をぬぐい、鞘に納めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ