第十三話 ラケッティア、負け犬ども。
昨夜、おれたちは独善戦隊リンチ・マンとなって、スロットマシン泥棒を探したが、結局、見つからなかった。
我々は負けたのだ。
盗まれたのはこちらの落ち度だが、その後のリンチについては非の打ち所のない、見事な伝統にのっとっていた。
リンチには欠かせないアイテムがある。
たいまつ、ショットガン、司法の軽視、暴力でしか癒されることを知らぬ憤怒。
おにぎりの食べ方に作法があるように、リンチにも作法があるのだ。
敗因?
んー、まあ、いろいろある。
確かにおれたちには紅一点がいなかった。
カレー好きのイエローもいなかった。
合体ロボもなかった。
玩具販売の戦力として無理があったことも認める。
だが、おれたちはまず五人そろってで追いかけ、さらにイスラントをクール枠の第六の戦士として温存し、戦隊ものとしても、出来うる限りの作法にのっとったのだ。
この志を買ってほしかったが、大自然の采配主は我々が無様に負けることをお求めのようだ。
夜明け前、薄く青を伸ばした影のなかをとぼとぼと足を運ぶリンチ・マンたちは疲れていた。
嫌な汗を流し、砂埃にまみれ、空っぽのショットガンは重く、たいまつはどこかで捨ててしまった。
小さなねじくれたトウモロコシしか生えない畑のあいだに敷かれた砂の道には見ていて、心が楽しくなるものがない。
かといって、目の前にあるのはシャツをまとった疲れ切った背中。
後ろには忍者。
クロスタイのピンが外れて落ちる音がしたが、それは前を歩いているイスラントからきこえてくるのか、殿を歩いているジャックからきこえるのかも分からない。
初めはただ歩いていたが、そのうちこのへんの農夫がおれたち町から来た人間にいい印象を持っていないこと、一対六の兵力差くらいでは怯みもしないこと、この退屈な土地では馬にまたがって走り回りよそものの脳天をぐしゃりとやることが飲酒に注ぐ娯楽となっていることが分かると、おれたちはどこかから馬のいななきやフルスイングされるこん棒の呻りがきこえないか耳を澄ませながら用心深く進むことになった。
リンチにかけてはこの農夫たちもなかなかだった。
というのも、きったねえ袋に目のための穴をふたつ開けて、それをかぶり、にわかKKKを気取り、なにより法の支配を拒否している。
世界史の先生が言っていたが、リンチというのはアメリカ独立戦争時に、リンチ兄弟というやつがいて、弟が捕まえ、兄が絞首刑判決を出して、独立反対派を殺しまくったことに由来しているという。
他にもレオタードの語源はレオタードさんという髭のおっさんが自身の肉体美を披露するために考案し身にまとったことに由来するらしい。
それきいて、レオタードさんについては知りたくなかったなー、と思ったのは、おれがこっちの世界に転移する四日前のことだった。
何度か馬が蹄で地面をめちゃくちゃにする音がきこえてきたが、我々リンチ・マンは無事、穀倉地帯を抜け出て、売春宿のそばの十字路を西へ曲がり、干からびた川床を越えるころ、おれの頭は明太子のことでいっぱいになり始めた。
ダシを取るための昆布はある。トウガラシはこっちで手に入る。
あとは卵だけだ。
……。
ホテル・ミツルフォルニアの池の魚たち。
あいつら、実はタラだったりしないかな?
タラは海に棲む魚であることは重々承知しているが、タラのなかには健康診断で引っかかって『塩分を控えてくださいね』って美鱈の女医さんに言われて淡水に引っ越したやつがいるかもしれないじゃアないか。
そもそも、このあたりにはスケトウダラがいない。
タラといったら、メルルーサだ。
日本じゃただ白身魚のフライとしてでしか存在しない魚だが、こっちでは魚屋に尾頭付きで横たわっている。
あいつの卵をバターで炒めたことはあるが、明太子にできるか試したことはない。
「最近、おれたちはなぜこんなカスみたいな町にやってきたのか分からなくなる」
おれの吐息まじりのつぶやきを、砂埃たっぷりのつむじ風がカツアゲする。




